2024年05月08日( 水 )

柔道家プーチンのしたたかな“黒帯”戦略(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

バイデン政権の「悲しい現実」

ホワイトハウス イメージ    思い起こせば、2020年の大統領選挙においてトランプはバイデンのウクライナ利権疑惑を持ち出したのですが、当時のアメリカの有権者にはあまりよく理解されず、アピールできなかったものです。ところが、このところ、バイデンの支持率は30%近くまで急落しています。

 それは、まさに「チャンス到来」というわけです。先週末にフロリダで開催されたトランプ支持の大集会でも、バイデン叩きの柱が「ウクライナ危機」でした。今なら、ロシアに対峙できない「弱腰バイデン」を一挙に潰すチャンスと考えたトランプです。

 注目すべきは、今回のウクライナ危機をネタにトランプは「台湾有事」を叫び出したことです。大統領時代にも「中国の脅威」をことさらあおり、「経済の低迷」や「コロナウイルス感染」など、アメリカが直面する問題をすべて「中国の差し金」とばかり批判しまくったトランプでした。自国の政策の失敗を棚に上げ、再び、同じ対中批判を繰り出しているわけです。

 とはいえ、これはバイデンも同じ穴の狢(むじな)といえること。なぜなら、アメリカを覆っている超インフレ、コロナ蔓延など、自国内の問題を、バイデン大統領はすべてロシアに押し付けようとしているからです。

 このままでは、秋の中間選挙のみならず、2024年の大統領選挙でもバイデン民主党の敗北は避けられそうにない、というのがアメリカの現状です。そんな危機感に苛まれているのがバイデン大統領なのです。国民の関心を何とか外に向けさせることで、起死回生を願っているわけで、バイデン政権の「悲しい現実」に他なりません。

 とはいえ、今回のウクライナ危機には、それ以外にも隠された背景がいくつもあります。たとえば、ウクライナ国民がゼレンスキー大統領を見限ったことです。欧米系のメディアは「ゼレンスキー大統領は勇敢にもアメリカ政府からの退避勧告を退け、キエフにとどまり祖国防衛の最前線で指揮を執っている」と、持ち上げています。しかし、コメディアン上がりの大統領は政治力も外交経験もゼロでした。そのため、カメラ映りは大いに気にするのですが、国民生活の向上にはまったく貢献できていません。

「戦争ほど儲かるビジネスはない」

 結果的に、国民生活は悪化の一途でした。国防費だけは2013年と比べ8倍に増えました。その大半は米英の戦車、ミサイル、武器弾薬の購入に充てられてきました。まさに「戦争ほど儲かるビジネスはない」というわけです。儲かっているのは米英の軍需産業のみという悲惨な状況に陥っていることは間違いありません。

 割を食っているのは一般国民です。超インフレに苦しみ、国家財政は破綻しています。今回のロシア軍の侵攻で50万人ものウクライナ人がポーランドや周辺国へ脱出したと報道されていますが、これまでにすでに100万人近くがロシアへ移住していたのです。もちろん、少数のオリガークと称される特権階級は「我が世の春」を謳歌しています。バイデン大統領の息子が役員を務めているエネルギー会社もその典型です。

 彼らが暗躍するウクライナは国際機関の評価では「政府の腐敗が最も深刻な国」と位置づけられています。ハンター・バイデンが役員を務める国営企業の会長が不正問題で検察の捜査が始まりそうになったとき、介入したのは当時のバイデン副大統領でした。息子からの依頼を受け、ウクライナ政府に圧力をかけて捜査の責任者の首を切らせました。「そうしなければ、アメリカの経済援助を中止する」と脅しをかけたのです。要は、バイデン一族がウクライナの腐敗や汚職に手を貸してきたと言っても過言ではありません。そうした経緯は当時の駐ウクライナのアメリカ大使館からワシントンの国務省に送られた外交文書によって明らかになっています。ところが、アメリカの主要メディアはバイデン政権に忖度してか、こうした問題を積極的には報道してこなかったのです。

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 もろもろの政策の失敗が重なり、ソ連時代から最大の農業大国であったウクライナですが、今や食料の輸入国へ転落してしまいました。ゼレンスキー大統領は大統領選挙の公約では「ウクライナの政治的汚職、腐敗体質を払しょくする」と声高に訴えていたのですが、大統領就任後は音なしの構えです。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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