2024年05月10日( 金 )

【廃炉は遠き夢】トラブル続きの福島第一原発 11年目の惨状(5)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

ロシアによるウクライナ原発への攻撃と日本の原発

 2022年3月4日にロシア軍のザポリージャ原発への砲撃が報道され、戦慄が走った。皆さん、すでにおわかりかと思うが、原発の弱点をお話ししたい。これは、誰しも容易に想像できることであるが…。

 原発の原理は、核燃料から発せられる膨大な熱を水に移し、水を沸騰させタービンを回して、電気にしている。核燃料は、常に熱を出すので、絶えず水で冷却しなければならない。この冷却ができなくなって、核燃料が溶け落ちたのが福島第一原発事故である。核燃料は放射性物質であり、大量の放射線を出す。人は放射線を大量に浴びれば死ぬし、それよりも少なければ病気になる。

 原発がミサイルなどで攻撃された場合、一次的な問題と二次的な問題がある。一次的な問題は、原子炉が直接攻撃された場合である。この場合、核燃料が吹き飛んで、放射性物質が大気中に大量に放出される。飛び散る物質は、核燃料物質のウランやプルトニウムが主である。これらが放出されることで、原発周辺の放射線量が異常に高くなることが考えられ、当然、その後の対応もままならなくなる(二次的な問題と共通)。

 二次的な問題は、原子炉が直接破壊されず、周辺設備が破壊された場合である。要するに、原子炉が冷却できなくなる場合で「冷却水の遮断」「電気の遮断」「運転員の殺害」などがあげられる。その後の挙動は、福島原発事故と同じで、メルトダウン・メルトスルーなどが起き、大量の放射性物質が放出される。また、原発は原子炉が1基だけでなく、多数設置されていることが多く、1基の原子炉がコントロール不能になれば、放射線量が異常に上昇し、人間は退避せざるを得なくなり、周りの原子炉も連鎖的にコントロール不能になる。

 日本には原発が多数存在する。しかも原子炉は通常同じ敷地に多数ある。また、福井県では原子炉関連施設が密集している。

 最近では、日本の周辺国でミサイル発射が連続し問題となっている。ミサイルは秒速2~6kmで飛行し、あっという間に飛来する。ロフテッド軌道(弾道ミサイルを通常より急角度で、高い高度に打ち上げる発射の仕方)では、ほとんど迎撃不可能である.これに対し、原発は基本的にミサイル攻撃を想定してつくっていない。もし、原発にミサイルが打ち込まれたら防ぎようがなく、福島原発事故よりひどい事態になることが予想される。

 福島原発事故では、放射性物質の大半は西風に流されて太平洋に流れ出た。もし、西日本の原発で事故が起これば、その東側の地域が放射性物質で濃厚に汚染されることになり、とても住めたものではなくなる。このように、私たちの日常生活は、危うさのなかに存在していることを忘れてはならない。

如何に生き、如何に死ぬか。

 話は、2011年3月の事故直後に戻る。私は福島市渡利に居住していたが、当時、この周辺は異常だった。詳しくはこちら。
日本地質学会 - 福島原発事故に伴う福島県の放射性物質汚染

 事故直後、土湯峠から見下ろした福島盆地は青白く見え、渡利からは鳥が消え、植物は黄変し、私の目や手は腫れあがった。衝撃的だったのは、1羽だけやってきた若い雀が、庭のビワの実を食べていたが、次の日、木の下で死んでいた。これらのことから、私は「将来、身体的に問題が生じる」と直感した。それと同時に怒りを覚え「どうせ死ぬなら、この悲惨な状況を後世に残さねばならない」と覚悟を決め、放射性物質の汚染調査に本腰を入れた。

 私の調査論文・ネット配信ニュースなどはこちら。
千葉茂樹: 福島第一原発事故に伴う放射性物質による汚染に関する論文

 私の予見通り、5年後には事故直後に腫れあがった「左目に異変」が生じ、2021年秋には「ガン」が見つかった.今後も身体的に何かが起きるであろう。

著者写真
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 原発事故後にどのような健康被害が出るのかは、実例が少なく、ある程度しか予見できない。なぜなら、こんな事故はめったに起きないし、起こしてはならないからである。従って、科学的知見に至るデータ量が絶対的に不足している。健康被害については、私のような身体変化を記録に残し、統計データとすることで、福島原発事故による健康被害の有効なデータとなり、最終的には科学的知見へと至る。被曝した方々には、酷ではあるが、可能であれば、居住環境の変化や、身体の変化を記録として残していただきたい。起きては困るが、次の原発事故の際に有益な資料となる。

 最後に付け加えるが、「自分がもらった命をどう使うか」が問題である。私は、原発事故に遭遇し、生き方自体を変えざるを得なかった。すぐに死ぬ訳ではないが、私は残された日々を有意義に使おうと思っている。

(了)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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