2024年05月09日( 木 )

対ロシア制裁強化、日本経済への影響は

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経済安全保障専門家 北島 優斗

水産業界から「悲鳴」

 2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、欧米諸国を中心にロシアへの経済制裁が強化されている。日本も欧米諸国と足並みをそろえるかたちでロシアへの経済制裁を強化、日露の外交関係悪化は避けられそうになく、両国経済への影響も拡大している。5日からは新たに600万円を超える乗用車や60万円を超えるバイク、天然の真珠など19品目のロシアへの輸出が禁止されることになった。では、これまでのところ国内経済には具体的にどのような影響が出ているのだろうか。

お寿司 イメージ    たとえば、日本の水産業界からは悲鳴があがっている。東京・赤坂にある高級すし店や全国規模で展開する大手回転寿司チェーンは、ロシア産のサケやウニ、カニやホッケなどが多く使われている。日本政府もバイデン政権と足並みをそろえるかたちで制裁を強化していることから、すでに一部のロシア産水産物の価格が上がっており、水産業界からは「いつかロシア産のネタを使用できなくなるのでは」と心配する声があちこちから聞こえてきている。

 日本政府は、ロシア産水産物への依存度が高い企業が廃業に追い込まれる可能性も考慮し、ロシア産水産物の禁輸を見送ることを決定した。しかし、ロシアをめぐる情勢がさらに厳しくなれば、状況が一変する恐れもある。また、日本ではノルウェー産サーモンが多くの店で使われている。ロシア上空の飛行が禁止されたことで、日本と欧州を結ぶ航空便は、中央アジアなどを迂回するルートへの変更を余儀なくされ、フライト時間が増えることで運送費が上がり、ノルウェー産サーモンの価格も必然的に上がっている。なかには安定的に確保できないことから、ノルウェー産サーモンの提供を停止している店やスーパーも出てきている。

 また、ロシアは世界最大の小麦輸出国で、日本国内にもロシア産小麦に依存する店が多い。そばやうどん、ラーメンなどを扱う飲食店では、材料の仕入れ価格が上がっており、一部商品の値上げに踏み切る飲食店も見られ、第3国からの小麦確保を本格化させる動きもある。しかし、これらは氷山の一角で、他の業界にも影響が出ている。

「ロシアリスク」を念頭に

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 今後の情勢はどうなるのだろうか。高い確率でいえることは、この影響は短期的なものではなく、中長期的に続くものということだ。ウクライナへの侵攻を決断したプーチン大統領としては後に引けない部分もあり、欧米に全面的に歩み寄ることはないだろう。しかし、プーチン大統領が欧米に対して何かしら歩み寄る姿勢を見せない限り、欧米が経済制裁の解除に踏み切る可能性は低く、しばらくは互いの動きを探る情勢が続くことだろう。また、仮にプーチン大統領が前向きな姿勢をみせたとしても、欧米のロシアに対する警戒感が、今回の件で一気に高まったという事実は払拭されない。そのため経済制裁が一気に解除されることはなく、段階的な解除にとどまるだろう。

 従って、企業は今後も日本経済への影響が長期的に続くという視点で経営戦略を考える必要がある。どれほどロシアが重要な市場かは企業によって大きく異なるだろうが、今回の件もあり、日本企業は「ロシアリスク」というものをこれまで以上に念頭に置く必要がある。たとえ今回の件が収まったとしても、欧米とロシアの政治的な対立は潜在的なリスクとして残るのである。

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