2024年05月08日( 水 )

スペワ跡にアウトレット誕生へ 北九州開発動向2022(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

コンパクトシティへの逆風、縮小余儀なくされた“逆線引き”

北九州市内には斜面住宅地が多く存在する(※写真の場所は見直し候補地ではない)
北九州市内には斜面住宅地が多く存在する
(※写真の場所は見直し候補地ではない)

    こうした再開発の動きが各所で進む一方で、往年の名曲にあるような“三歩進んで二歩下がる”といった状況の取り組みもある。それが、本誌vo.13(19年2月末発刊)で取り上げた、斜面住宅地における“逆線引き”の動きだ。

 これまで北九州市が検討を進めてきた逆線引きは、災害発生の危険性がある斜面住宅地を、都市計画区域における「市街化区域」から開発が制限される「市街化調整区域」へと編入するというもの。災害発生の危険性が高い一部の斜面住宅地について居住を制限することで、頻発する自然災害への対応という防災面の課題と、人口が減少するなかでの行政サービスの効率化という2つの課題に対応するのが狙い。検討のきっかけとなったのは、18年7月に発生し、北九州市内でも土砂災害による死者を出した「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)」だった。ただし、たとえ市街化調整区域に編入されたとしても、即座に立ち退きを要求されるわけではなく、既存の住民はそのまま住み続けることは可能。制限されるのは区域内での新たな住宅の建設や既存建物の建替えなどで、長期的スパンで斜面住宅地の住民を減らしていき、やがてはゼロにしていこうという取り組みだ。また、逆線引きによって斜面住宅地から都心部へと住民を移動させることで、医療・商業施設や住宅を市の中心部へと誘引し、行政サービスの効率的な提供を可能とするコンパクトシティ化につなげる予定だった。

 この逆線引きの取り組みを進めるにあたって、北九州市建築都市局都市計画課では1次選定として、「安全性」「利便性」「集積性」「社会環境」「経済性」「自然環境」という6つの指標を基に、独自に市街化区域から市街化調整区域への見直し候補地の抽出を実施。国交省による都市構造評価の評価指標や数値基準を参考として評価基準を定め、それに基づいて評価・集約し図示した。さらに、1次選定で抽出された箇所を、「安全性が低い地域」「車での寄り付きが難しい地域」「人口密度の低い地域、空き家が多い地域」の3つの視点で現地調査を行い、2次選定を実施。その結果、見直し候補地として市内7区合計で約1,157haが示された(表)。見直し候補地のエリア内の人口は約3万5,200人で、建物数は約1万8,000棟に上る。

見直し候補地の概要
見直し候補地の概要

 だが、その後に実施した八幡東区での住民説明会および意見交換会において、「資産価値が激減してしまう」「不動産の売却が取り止めになった」「報道され、すでに風評被害が出ている」などの反対意見が続出。その結果、市は22年2月に同区内における見直し候補地の修正案を公表。面積は当初の約30%となるほか、建物棟数は当初の5%程度になるなど、大幅な縮小を余儀なくされた。八幡東区以外の残り6区についてはまだ見直し候補地の修正案は公表されていないが、概ね八幡東区と同じように、大幅な下方修正を余儀なくされるだろう。

 市街化区域を市街化調整区域へと逆線引きすることで斜面住宅地の居住を抑制し、コンパクトシティ化を進めていこうという市の取り組みは、これまでの開発ありきだった都市計画・まちづくりの手法を大きく転換させていく先駆的な事例となり得る可能性を秘めていた。だが、相応数の住民が暮らす斜面住宅地が見直し対象となる以上、住民の理解を得るための丁寧な説明はもちろんのこと、わかりやすいルールの策定や十分な支援策の検討が必要不可欠だったのだが、市の進め方は性急に過ぎたのかもしれない。今後、市がどのように見直し候補地の修正案を出し、この逆線引きの取り組みを進めていくのか――。“竜頭蛇尾”にならないことを祈るばかりだ。

【坂田 憲治】

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事