2024年05月05日( 日 )

建設から「創造」する企業へ進化(前)

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(株)安成工務店
代表取締役社長 安成 信次 氏

 施主や建築主から案件をもらう受注型営業が主流の建築業界。山口県下関市に本社を構える(株)安成工務店の代表取締役社長・安成信次氏は、自社ブランド構築の過程で理想的な建設業の姿を追求。受注型ではなく企画提案型へと転換し実践を重ね、業績を拡大してきた。安成氏はYASUNARIグループとして業容拡大を図るとともに、建設業における事業構造を変えるべく邁進している。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 児玉 直)

デザインビルドの原点 環境共生住宅の誕生

(株)安成工務店 代表取締役社長 安成 信次 氏
(株)安成工務店
代表取締役社長 安成 信次 氏

    ──創業から71年目を迎え、グループの業容も拡大されてきました。これまでの道のりはどのようなものだったのでしょうか。

 安成信次氏(以下、安成) 当社は1951年1月に創業し、84年に本社を豊北町から下関市に移転し、「環境と住まいをトータルに提案します」とキャッチコピーを掲げました。当時は、景観環境を考えた住まいとまちづくりを目指すという視点でしかありませんでしたが、「OMソーラーシステム」を考案した東京芸大名誉教授・奥村昭雄先生(故人)と出会い、環境共生住宅を追求する道を歩み始めました。これが原点の1つになったと考えています。94年にセルロースファイバー断熱材デコスドライ工法の自社開発に成功し、環境と共生する建設業の在り方を深く考えるようになっていきました。

 YASUNARIグループは持株会社1社、住宅・建設会社6社、住宅リフォーム会社1社、断熱材製造販売会社1社、地盤調査会社1社、介護事業会社1社、不動産会社1社、商業施設管理運営会社1社の計13社で構成されています。環境と共生する建設業の在り方に沿った事業を展開すべく、これまでの受注型の営業から企画・開発・設計・施工・管理までをトータルに提案する「創注型建設業」を目指しています。当社はデザインビルド方式を基本とした建設事業を40年以上にわたって研鑽し、実践してきました。

 ──貴社の戸建住宅は、高級木造住宅として好評を得ていますね。コロナ禍やウッドショックなどの影響はどうだったのでしょうか。

 安成 グループでは安成工務店が環境共生住宅パッシブハウス、ほかの住宅会社は国産材や自然素材にこだわらず高性能な省エネルギー住宅をつくっています。

 どちらにもコロナ禍の大きな影響は出ていません。国産材に特化していないグループ内の住宅会社は、ウッドショックの影響を受けています。当社は、96年から大分県日田市(旧・上津江村)の第三セクターの林業会社(株)トライ・ウッドさんと直接取引をしています。環境共生住宅の実現と社会課題を事業活動で解決していく過程で、とても良い出会いをいただいたと思っています。今回のウッドショックでは、グループの住宅会社へも供給していただきました。

 直接取引を始めてから25年以上が経過しましたが、ウッドショックにかかわらずトライ・ウッドさんとの取引は英断だったと感じています。この取り組みを長年続けてきたなかで、品質もさらに向上させてきました。2006年にはトライ・ウッドさん、九州大学との共同研究の下、丸太の天然乾燥である輪掛け乾燥(1年間)を始め、08年に初出荷されました。天然乾燥で約1年、養生乾燥で約9カ月、そしてプレカットと、約2年の歳月をかけて安成工務店の構造材として組み上がっていきます。12年からの九州大学との共同研究では、木材を使用した住宅空間がヒトの体に与えるさまざまな好影響がわかりました。睡眠の向上、集中力の向上、認知機能への効果や抗菌作用が科学的に証明され、お客さまから強い関心を得ています。

 この取り組みは戸建住宅の品質向上だけではなく、林産地などの自然保護や林業にも寄与しています。林業は人材不足などが深刻化し、山林の管理が怠ると環境破壊や自然災害にもつながります。主に子どもたちに向けた森林体験ツアー、植林ツアーなどの直接的な活動も行っていますが、企業の事業として社会を支える役割を担うことも重要ではないでしょうか。

(つづく)

【文・構成:麓 由哉】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:安成 信次
所在地:山口県下関市綾羅木新町3-7-1
設 立:1966年1月
資本金:7,200万円
売上高:(21/12)98億6,400万円
    (21/12グループ)約172億円


<プロフィール>
安成 信次
(やすなり・しんじ)
1956年生まれ、山口県下関市出身。日本大学生産工学部建築工学科卒。大手ゼネコン勤務後、先代にあたる父・安成信良氏が経営する(株)安成工務店に入社。副社長の折に先代が急逝し、32歳で代表取締役社長に就任する。12社を傘下に抱える(株)YASUNARIホールディングス代表取締役社長も兼任する。

(中)

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