2024年10月16日( 水 )

【連載スタート/鮫島タイムス別館】山本太郎が議員辞職 捨て身で挑む国会の「全体主義」

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落選リスク上等!で選挙区に殴り込み

れいわ新選組の山本太郎代表(中央)。左は同党の大石晃子・衆院会長、右・多ケ谷亮国対委員長
れいわ新選組の山本太郎代表(中央)。
左は同党の大石晃子・衆院会長、
右・多ケ谷亮国対委員長

    れいわ新選組の山本太郎代表が衆院議員を辞職し、今夏の参院選に出馬すると表明した。国会に復帰して半年。国会議員5人の少数政党を率いる党首が衆院議員バッジを投げ捨て、参院選に身を投じる大胆な奇襲作戦である。しかも比例区ではなく選挙区に殴り込み、与野党の「指定席」をもぎ取ろうというのだ。

 山本氏は3年前の参院選直前にれいわを旗揚げし、重度障がいのある2人を比例区特定枠に擁立して当選させた。自らは比例の一般候補として出馬し、全候補者で断トツの99万票を獲得しながら落選したのだった。

 山本氏は議員バッジを失って苦労していた。政治活動は制約されて発信力は低下し、他党から相手にされず、交渉で不利になるとぼやくこともあった。昨年の衆院選では立憲民主党と水面下で交渉し、東京8区から野党統一候補として出馬する約束を取り付けていたが、選挙目前に梯子(はしご)を外された。それでも野党共闘の足並みを乱さないように自ら身を引き、立憲への不満を封印して比例東京に回った。そんな土壇場で選挙戦略の変更を強いられながらも、自力で国政復帰をはたした。

 衆院選後もれいわは十分な質問時間を分けてもらえず、国会で「野党共闘」が成立しているとは言い難い状況だった。それでも国会に返り咲いた山本氏は、れいわの新スターとして登場した大石晃子衆院議員らとともに生き生きと活動していた。

 その立場を放り出し、落選リスクのある参院選出馬へ彼を駆り立てたものは何か。

「空気を読まず」に全体主義に抗(あらが)い続ける

 野党第一党の立憲民主党の支持率は5%前後に低迷し、40%前後の自民党に水を開けられ、日本維新の会にも肩を並べられている。維新は「野党第一党の座を奪う」ことを目標に掲げ、打倒自民より打倒立憲に全力をあげる。立憲と袂を分かった国民民主党は新年度予算案に賛成し、与党入りへ突き進む。立憲と国民を支援してきた連合も参院選で特定政党を支持しない方針を掲げ、与党へ急接近している。

 共産党は衆院選での野党共闘を続ける方針だが、立憲内には「共産との共闘が失敗だった」との声が強く、両党関係はぎくしゃくしたまま。野党は完全に求心力を失い、参院選前から戦線崩壊状態だ。

 山本氏は会見で、「参院選は自民党が議席を減らすことも、野党が大勝することもない」との見通しを示した。野党が団結して与党を過半数割れに追い込む可能性はほぼない。奇跡的にそれが実現しても維新や国民は即座に与党に寝返るだろう。参院選後の日本はどうなるのか。

 自公政権は安定し、2025年の衆参任期満了まで3年間、国政選挙はないだろう。自公政権はやりたい放題だ。野党は次々に与党にすり寄るに違いない。国会全体が与党化して批判勢力が消える「全体主義」が進み、消費税増税や改憲が一気に進む。好戦的外交が強まり、日本が戦争当事国になる最悪の事態も起こり得る── 山本氏はそんな危機感を吐露し、他の野党を「危機感無さすぎ」と批判した。そして「国会の空気に呑まれず、茶番に付き合わない、ややこしい人たち」であるれいわが一刻も早く中規模政党へ飛躍することで「政治の暴走を何としても食い止めたい」と訴えた。野党共闘と決別し、単独路線を突き進む宣言ともいえよう。

山本太郎氏の街頭演説には、いつも大勢の聴衆が集まる
山本太郎氏の街頭演説には、
いつも大勢の聴衆が集まる

    山本氏が危機感を強めた背景にあるのはウクライナ戦争だった。ロシア軍の侵攻は強く非難すべきだが、ウクライナが応戦した時点で双方が戦争当事国となる。山本氏はいずれか一方に加担することに反対し、戦争に巻き込まれた人々の命を守る即時停戦への外交努力を尽くすのが日本の役割だと考え、「ウクライナと共にある」という国会決議に反対したが、れいわを除く与野党はすべて賛成した。岸田政権は欧米主導の対ロシア経済制裁に加わり、ウクライナへ防衛装備品の提供にも踏み切った。日本はロシアから「宣戦布告」したとみなされたのだ。

 与野党はゼレンスキー大統領の国会演説も実現させた。国民総動員令を出して成年男子の出国を禁じ、民間人に武器を持たせて戦争参加を強要しているゼレンスキー氏を、れいわを除く与野党の国会議員はスタンディングオベーションで称賛したのである。これは「戦争の肯定」だ。憲法の戦争放棄の理念に反する。仮に日本が侵攻されたら与野党はゼレンスキー氏と同様、国民に戦争参加を強要するのではないか──れいわの大石氏は山本氏とともにその場に身を置き、「見渡す限り全員、共産党を含め、スタンディングオベーションしていました。それが当たり前の熱気の下で、椅子に着席しながら、この空気を変えるために何をすべきか、自問していました」と明かしている。この瞬間、山本氏は参院選で野党共闘から離脱し、全政党に立ち向かう覚悟を決めたのではなかろうか。

 れいわが参院選で闘う相手は、国会を覆う全体主義である。日本を敗戦に導いた大政翼賛政治の復活を阻止するには、れいわが大幅に議席を増やすしかない──強烈な危機感が山本氏を捨て身の出馬へ駆り立てたのだ。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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