2024年05月03日( 金 )

ウクライナ情勢の経済への影響(後)水産物・木材輸入

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 2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ国民の生活を破壊し、多くの人命を奪っているのみならず、世界経済にとって大きな不安要素・不確定要素となっている。両国の経済活動やサプライチェーンの混乱、日本を含む西側諸国の対ロシア経済制裁などにより、九州を含む日本の企業活動にも影響がおよぶことを懸念する声が聞かれる。

今後の明太子原料の仕入れは?

水産物 辛子明太子 イメージ    ロシアと直接・間接的に取引関係のある企業において、輸入では「木材・竹材卸売」「木造建築工事」など木材関連が上位に位置する。「生鮮魚介卸売」も多い。これらは九州でも多くの中小企業が関係してくると思われる。

 国・地域別に見ると、20年の魚介類(水産物)輸入においてロシアは国・地域別で5位、輸入額は1,034億3,100万円で7.1%を占めた(農林水産省「農林水産物輸出入概況2020年」)。

 こちらも全国のデータになるが、農林水産省によると、20年のロシアからの農林水産物輸入で、魚介類は「かに(活・生鮮・冷蔵・冷凍)」が2億7,500万ドル(構成比19.2%)、「さけ・ます(生鮮・冷蔵・冷凍)」が1億7,800万ドル(同12.4%)、「たらの卵(生鮮・冷蔵・冷凍・塩蔵・乾燥・くん製)」が1億1,200万ドル(同7.8%)となっている(農林水産省「ロシア連邦の農林水産業概況」21年)。

 福岡に多くのメーカーがある明太子について、原料となるスケトウダラの原卵は主にロシアと米国から輸入されている。当地の加工業者によると、ロシア産が半分以上を占めるという。ロシアでのスケトウダラの漁期は1~4月であり、この時期に業者は1年分の原料を仕入れる。十分な在庫量を確保していた業者はまだよいが、そうでない業者は今後、生産・出荷量を調整していくといい、今年半ば頃から市場での影響が出てくると語る。また、今年分の在庫を確保できていても、来年以降分の仕入れについては不透明だという。このほか、カニやエビ、イクラなどもロシアからの輸入が多い。

 ロシアへの経済制裁およびロシアの対抗措置に上記品目を含め水産物の輸入禁止は含まれていないが、いずれにせよ、ロシアからの輸入が困難となる事態に備え、仕入れ先の多角化などが求められる。

九州では木材市場への影響は軽微

木材 イメージ    2020年の林産物の輸入を見ると、ロシアは国・地域別で8位、輸入額は448億3,900万円で3.7%を占めた(「農林水産物輸出入概況2020年」)。21年は634億円で、5.2%を占めた(農林水産省「2021年木材輸入実績」)。そのうち製材については、ロシアはカナダに次ぐ2位となっており、同年の輸入額は309億3,300万円で16.8%を占めた。21年も2位を維持し、435億円で15.4%を占めた。

 ウクライナ侵攻をめぐる輸出入規制に関して、ロシアは3月9日に日本を含む非友好国向けの丸太・単板・チップの輸出を今年末まで禁止すると発表。一方、日本もロシアへの制裁の追加措置として、4月19日から合板の原料となる単板の輸入を禁止した。経済産業省は、丸太についてはロシアがすでに1月から輸出を禁止しており、チップ、単板については輸入量がそれぞれ約1%、約2%で少なく、国内産業への影響は軽微としている。

 福岡市木材協同組合の関係者によると、ロシアの木材は主に東日本で使用されており、調達面、価格面で影響が出ているものの、九州では価格面などで直接的な影響はほとんど見られないという。ただ、とくにロシア製合板が今後入荷できなくなることを恐れて、従来の倍近くの量を買い付ける業者も出てきており、在庫は品薄状態だ。合板は昨年からのウッドショックの影響で卸値が1年前の2倍近くに高騰し、引き続き上昇しているという。もっともコロナ禍など値上げ要素が複合的で、ウクライナ侵攻が値上がりの要因となっているとまでは言い切れない。

 代わりの調達先として、ロシアに経済制裁を科していない中国を経由して輸入できるのではとの期待もあったが、今のところ日本には回ってきていないという。原材料を国産のスギやヒノキなどに切り替えようとする動きもあり、東日本の業者から試験的にスギとヒノキの製材の受注がきている。とはいえ、今後も安定した量の受注を受けるには林野の管理体制を整える必要があり、今後の状況を見ていくとしている。

 同関係者がより大きな懸念を示すのは、戸建住宅への影響だ。木材価格の上昇は業者だけではカバーしきれず、住宅の販売価格に上乗せして、消費者に負担をお願いする動きになってきている。実際に戸建の販売価格は100万円単位で上昇しており、ローコスト住宅の主な購入層である若年層が、住宅の購入を控えるのではとの懸念を示す。

 コロナ禍でベトナムなどのサプライチェーンの混乱によるガス給湯器やトイレなどの欠品、納品遅れの問題も解消されておらず、住宅の引き渡しが遅れている状態は続いている。戸建業者のなかには、木材価格の上昇と相まって、住宅市場が冷え込むと覚悟している業者もあるという。

企業は当面は見極め耐える状況が続く

 九州経済産業局の担当者は、魚介類、木材のほかに気になるものとして、資源、部品などの輸入への影響を挙げる。間接的に影響が出始めているという。そのうち、金属、鋼材類などはロシアでの軍事用の需要が増え、民生用・輸出用に供給される量が減っているようだ。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)福岡や九州経済産業局の担当者は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初は懸念していたが、地場企業からトラブルに関する相談や事業環境の変化に関する問い合わせは少なく、現時点では目に見えるかたちでの影響は少ないと語る。

 たしかに多くの商品の価格が上昇しているものの、その要因はコロナ禍によるサプライチェーン混乱の影響によるものなのか、ウクライナ情勢によるものか、現時点では判別しにくく、ウクライナ情勢による九州経済への影響について議論することに慎重な姿勢が感じられた。両機関とも全国に拠点を有するが、各地域とも概ね同様のようだ。一方、困難な状況になりつつも、事態を大きく転換できる術があるわけではなく、当面は事態を見極め、耐える状況が続きそうだ。

(了)

【茅野 雅弘】

(前)

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