2024年04月26日( 金 )

【再開発】人気の住宅地・姪浜ができるまで

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高い減歩率に反感

 77年に行われた事業調査区域は、東は室見川、北は現・明治通り付近、西は名柄川、南は現在の西区役所付近までの約150haが対象となった。この調査によって、姪浜駅の北側にある既成市街地(現・姪の浜地区)は、建て込み度が高く区画整理が困難とされた一方で、姪浜駅の南側は、北側に比べて開発途中の段階であり、早急に実施すべきという結論に至った。

 80年9月に地元自治会長らを構成員とし、地元の意見や基本計画の検討方法などの議論を目的とした「姪浜地区区画整理研究会」が発足。総合計画に盛り込まれている姪浜の概要と区画整理の必要性についての説明会が82年6月~84年3月の期間に姪浜地区、内浜地区の町世話人、姪浜・内浜地区隣組長へと行われた。この期間に開催された説明会の開催数は計64回、参加者は1,142人となった。こうした地元説明会で挙げられた意見は、厳しいものが多かった。

平成元(1989)年 姪浜土地区画整理事業開始/出典:めいのはまNo,24(完成記念号)
平成元(1989)年 姪浜土地区画整理事業開始
出典:めいのはまNo,24(完成記念号)

【地元説明会の主な意見】
● 都市計画道路の決定については何も説明を受けていない。
● 土地の評価が上がっても、固定資産税が上がるだけだ。
● 豊浜拾六町線は地区を遮断しており迷惑である。
● 区画整理がなぜ必要かの説明が不足している。
● ローンの支払いがあり、清算金がどうなるか不安。

 複数の説明会・検討会を経て、「豊浜拾六町線の幅員縮小の希望、小宅地の減歩の緩和、塩原地区に比べ減歩率が高い」といった公共減歩率()に対する懸念の声が多いことが取りまとめられた。

 区画整理研究会は比較対象とすべく、1971~91年度に区画整理が行われた南区塩原地区を視察した。姪浜の減歩率が22.45%であったのに対し、塩原地区は約15%と大幅な開きがあったことを勘案し、減価保証金制度の活用と用地先行取得を行うことで減歩率を17.84%まで引き下げる基本方針が決定された。

 さらに、現在の商業施設「ウエストコート姪浜」にあった福岡女子高等学校は、区画整理前から高等学校設置基準(約7万m2)を満たしていない状況にあったこと、内浜中学校は減歩による敷地縮小により教育施設としての機能低下が懸念されていたことから、福岡女子高等学校は移転先として愛宕浜の土地を先行取得し、内浜小学校は敷地拡大の方針が決定した。そのほかの基本方針としては、小宅地対策の方針(1万1,700m2の先行取得と段階的減歩設定)や豊浜拾六町線の幅員縮小などが盛り込まれた。

※減歩率:区画整理などで換地処分が行われた際の、処分前の土地面積に対する処分後の面積の割合。 ^

一時は計画凍結も

 83年8月に開催された市三役会議では、区域決定を行うことや県都市計画地方審議会への付議、同時に豊浜拾六町線の幅員縮小の付議も決定。また、市議会第4委員会では区域決定反対の請願審査において区域決定の必要が認められたが、これに反対して地元の町世話人7人全員から辞任届が提出されるなどの事態となった。

 こうした想定以上の地元からの反対を受けて、福岡市は地元との対話期間の延長を余儀なくされた。これにより県都市計画地方審議会への付議を83年11月から84年5月に延期することとなり、地元説明会が再度行われた。

 新たに行われた地元説明会では、区域決定への反対要望書も提出された。要望書は991人の署名で構成され、そのうち地権者は508人(全地権者の46%)を占めた。さらに、地権者約200人が白紙撤回を求めて議会棟に詰めかける事態にもなり、施行区域決定は延期を余儀なくされたといい、当時の地元新聞では議会に詰めかける約200人の地権者の様子(「区画整理絶対反対」「横暴を許すな」などと書かれた紙を掲げている)が報じられている。

 その後、85年2月から3月にわたって12回の地元説明会が行われたが、なかには説明も聞かぬまま総退場する事態となった会場もあった。そのため、同年4月から6月の間に、市内居住者の全地権者を対象に戸別訪問が実施された(対象者956人、訪問者829人)。全体「賛成41%、反対40%、保留が19%」という結果に対し、地区内地権者「賛成31%、反対51%、保留17%」となり、地区内地権者では圧倒的に反対意見が多いこととなり、当初の計画は一時凍結。基本計画の再考が余儀なくされた。

平成15(2003)年 換地処分後の地区内/出典:めいのはまNo,24(完成記念号)
平成15(2003)年 換地処分後の地区内
出典:めいのはまNo,24(完成記念号)

【麓 由哉】

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