2022年06月27日( 月 )
by データ・マックス

吉野家“シャブ漬け騒動”、「戦略」至上主義に潜む罠

吉野家HD本社が入っているビル
吉野家HD本社が入っているビル

    牛丼チェーン大手の(株)吉野家常務取締役・伊東正明氏が早稲田大学の社会人向けマーケティング講座で、「生娘をシャブ(薬物)漬け戦略」と発言し、SNSで炎上した。(株)吉野家ホールディングス(以下、吉野家HD)はこれを受けて4月19日、伊東氏を解任した。

 吉野家HDは、前代表取締役会長・安部修仁氏が就任していたときにはBSE問題による米国産牛肉の輸入停止などさまざまな課題に直面しながらも、人間性を重んじた経営を行ってきたとされる。なぜ今回、モラルのない発言が表沙汰になる事件が起こったのか。

 まず大きな原因と考えられるのは、「手段を選ばない売上至上主義」だ。伊東氏が吉野家に招聘されたのは18年1月。吉野家HDの19年2月期の当期純利益は60億円の赤字に転落し、伊東氏が招聘されたのは収益力を向上させるためだった。今回の伊東氏の発言は、企業としてどのような価値を社会に提供できるかを中心に考えるのではなく、手段・方法を問わず収益力を高めようとした姿勢から出たものだ。

 伊東氏は1996年にP&Gに入社し、食器用洗剤「ジョイ」や衣料用洗剤「アリエール」のブランド再建に携わり、グローバル企業のマーケティング責任者として経験を積んできた人物だ。同社退職後に独立し、吉野家常務取締役に就任した。

 伊東氏の就任後となる吉野家HDの19年2月の決算説明会では、女性客の割合が比較的多い「キャッシュ&キャリー」(現金で購入して持ち帰る)店舗を増やすとともに、「若年層や女性の増加による客層拡大」「売上高・客数の増加」などを目標に掲げた。加えて、「CORE & MORE」(コア&モア)戦略として、常連客の来店頻度を高め、女性などの来店が少なかった客層の拡大を目指すと発表した。

 これらの戦略とともに、「超特盛」「小盛」を開始して牛丼サイズ展開を広げ、ダイエット向け「ライザップ牛サラダ」などの新商品を投入したことによるマーケティング効果が出て、吉野家HDの20年2月期の当期純利益は7億円の黒字に回復、21年2月期はコロナ禍で▲75億円の赤字となったが、22年2月期は81億円の黒字と順調に伸びた。

 マーケティングは、多くの顧客に何度もサービスを利用してもらい、売上を伸ばすための手段であるが、企業の姿勢を決めるのは、売り手としてどのような思いでサービスを提供しているかという人間性だ。

 何度も利用してもらえる良いサービスの提供を重視するよりも、「シャブ(薬物)漬け」のように商品に「依存」させることで、顧客の来店回数を増やし、売上を拡大しようとした。今回の伊東氏の発言の先にあるのは、利用者の喜びや楽しみではない。「シャブ」という言葉を使っていることからわかるように、利用者の心や人生を考えていないことが問題であり、顧客の暮らしのためになるサービスを提供しようという視点が抜け落ちていた。

 吉野家HDに今回の問題が起こった背景について取材を申し込んだが、「取材を控えさせていただきたく存じます」という回答だった。伊東氏の発言は多くの企業にとって、経営の在り方を振り返る良いきっかけになったのではないだろうか。

【石井 ゆかり】

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