2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

【神風、円安2】TSMCの日本拠点強化と日台協力が産業復活のカギ(2)

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年5月6日の「日本産業復活の神風、円安がやってきた!!(2)TSMCの日本拠点強化と日台産業協力がカギに」を紹介。

世界ハイテクの中心になったTSMC

 世界のハイテク産業の主役はインターネットプラットフォーマーGAFAMであり、半導体もソフトウエア・設計といったソフトになっていると思われているが、必ずしもそれは正しくない。世界の半導体市場では最先端技術を確保したTSMCがサプライチェーン・バリューチェーンの核になっていることは疑いない。株式時価総額で見てもTSMCはほぼ5,000億ドルとインテルを大きく引き離してエヌビディアと首位を争い、GAFAMの一角メタ・プラットフォームズ(フェイスブック)に匹敵する水準にある。

 TSMCは最先端で他を寄せ付けない技術力を誇っている。図表5は加工線幅別に見た各国シェアであるが、最先端デバイスでは台湾(TSMC)が圧倒していることが如実である。「もはや唯一のライバルともいえた韓国サムスン電子とも、大きな技術差が付いた。台湾の新工場で世界最先端の3ナノ品半導体の量産を始める。さらに先端の2ナノ品の新工場建設も、年内に台湾で始めることを決めた。具体的には、1兆円規模を投じる最先端半導体の新工場を、新竹、台南、高雄と、台湾全土で次々に立ち上げる。世界各国は経済安保の強化を目指し、多額の補助金も用意して、積極的にTSMCの誘致活動を行った。だが、TSMCは結局、首を縦には振らず、(トランプ政権の圧力によって2020年にアリゾナに最先端工場建設を決めたことを除き)、海外に新工場建設を決めたのは、わずかに日本の熊本1カ所のみ。それも先端品の工場ではない」(日経新聞2022年4月1日付)。

図表4: 主要ハイテク企業株式時価総額推移/図表5:加工線幅別・国別半導体生産能力シェア

TSMCの圧倒的存在力、3つのエビデンス

 TSMCの圧倒的技術力を示すエピソードは枚挙に暇がない。

 1:AMDのインテル追撃はTSMCによって可能に。かつてパソコン用マイクロプロセッサーはインテルが圧倒的に支配、日本電気の対抗製品Vシリーズが貿易摩擦で敗退して以降、独占を避けるための唯一の(市場シェア1割程度の)限界供給者としてAMDは存在し続けた。そのAMDが急成長し時価総額では1,455億ドルとインテル(時価総額1,838億ドル)に肉薄している。その秘密はTSMCにある。2009年AMDは製造部門を受託生産会社グローバルファンドリーとして分離し、自社製品の生産はTSMCに依存する体制にした。その結果、TSMCの先端技術での先行の恩恵を受け、マイクロプロセッサーの価格性能競争力でもインテルを凌駕し、一気にシェアを高めてきたのである。21年の売上増加率は65%と業界ナンバーワン、マイナス1%で低迷するインテルを引き離している。分離した製造部門グローバルファンドリーと時価総額を足し合わせれば、ほぼインテルと同規模になっている。

 2:インテルも最先端半導体供給をTSMCに依存。「米インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)は今月7日、プライベートジェット機で台湾を訪れた。報道陣をほぼ完全にシャットアウトしたお忍びの訪問だったが、狙いは明確。3ナノ品や2ナノ品の調達についての交渉だったとされる。ゲルシンガー氏の台湾訪問は、昨年12月にもあった。トップ自ら台湾に乗り込み、TSMC首脳陣に直談判するかたちで「先端半導体の供給を懇願した(関係筋)という」(日経新聞4月15日付)。

 3:台湾で半導体設計企業が急成長したのも、TSMCがいればこそ。半導体業界はインテル、サムスンなどのIDM(垂直統合デバイス企業)と設計のみを行うファブレス企業、およびTSMCなどの受託生産企業(ファンドリー)に分業化され、最も成長力が高いのがファブレス企業ということが常識化している。エヌビディア、ブロードコム、クアルコム、メディアテックなど高成長組はすべてこのカテゴリーである。

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 しかし、ファブレス企業の競争力の源泉がTSMCの優れた生産能力にあることが、徐々にはっきりしてきた。図表6に見るように、ファブレス企業は最先端デバイス生産をすべてTSMCに依存しており、両者には強い相互依存関係があることが分かる。さらに驚くべきことに、成長しているファブレス企業の大半は台湾人が経営を担っている。図表7に見るように、ファブレス企業トップテンのうち台湾系は10年前の2011年には2人だけであったが、21年には7人に達している。TSMCを頂点とする半導体産業ピラミッドが形成されている、とすら見られる状況である。ハイテクの中心はソフトシステムではなく、コチコチのハードウエア企業のTSMCなのである。

図表6: TSMCの主な供給先 出所:日本経済新聞/図表7:ファブレス半導体企業トップテンの変遷と台湾人脈

(つづく)

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