2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

【神風、円安2】TSMCの日本拠点強化と日台協力が産業復活のカギ(1)

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年5月6日の「日本産業復活の神風、円安がやってきた!!(2)TSMCの日本拠点強化と日台産業協力がカギに」を紹介。

 恩典的円安の時代、購買力平価から相当程度(3割以上)安い為替レートが定着し、日本の価格競争力に為替面からの恩典が与えられる時代が始まった。懲罰的円高時代と同様に、今回も経済合理性とともに、覇権国米国の国益がカギとなる。米国は脱中国のサプライチェーンの構築に専念しているが、その一環として中韓台に集中している世界のハイテク生産集積を日本において再構築する必要性が出てくる。そのためには円安が必須となり、それは日本に恩恵を与える。

 幸いにして、日本は半導体・液晶・テレビ・携帯電話・PCなどハイテクのコア・最終製品では一敗地に塗れたが、デジタルの周辺分野(センサー、アクチュエーター、部品、材料、装置)で差別化を図り高シェアを獲得している。それらの製品1つひとつはニッチであり市場規模は必ずしも大きくないが、世界のハイテクサプライチェーンのボトルネックを抑えているともいえる。中国を除くハイテクのサプライチェーンを構築する際には、日本がカギになることは明白である。

 すでに失われたデジタルの中枢部分はTSMC・台湾との連携で補完し、日本ハイテク産業の蘇生が進むだろう。懲罰的円高で起きたことと逆の連鎖が見込まれる。1ドル130円台となった円安の最大の受益者は、円高の最大の被害者であったハイテク産業になるのではないだろうか。

図表1: 購買力平価とドル円レートの推移-内外価格差と 逆内外価格移

(1)TSMCをコアとする日本ハイテク復活、130円の円安が推進力に

TSMCが日本ハイテクの救世主になるという夢が実現する

 TSMCが日本ハイテクの救世主になる際に、130円という円安がその推進力になる。白川日銀総裁時代の1ドル80円の円高の下でエルピーダメモリが破綻してマイクロン・テクノロジーに買収されたが、今日本のマイクロン広島工場は最も高収益の工場になっているはずである。

 同様にこの円安進行の下で、TSMCの熊本工場(図表2)のアップグレードと増強が想定される。日本のコスト高を補てんすべく、政府が熊本工場に約4,000億円の資金供与を約束したが、1ドル120~130円になると日本工場のコスト競争力が大きく高まる。台湾一極集中のTSMCは、地政学的リスクヘッジおよび米国からの要請という面からも、工場の多国分散を図らざるを得ず、日本での生産体制を大きく構築していく可能性が想定される。

図表2:TSMC熊本工場の概要

 日本はハイテク競争に負け、最先端基幹部分を失い、アジアにおけるハイテク分業構造においては底辺周辺の部品・材料・装置およびレガシーといわれる旧世代の半導体に特化することとなった。日本は、設計・最先端製造技術(EUV等)、半導体需要など重要な要素が欠けているが、TSMCなど台湾企業が日本の欠陥を埋め得るだろう。

 熊本工場誘致を核とする経産省主導の半導体産業育成政策に対して、坂本幸雄前エルピーダメモリ社長、半導体技術者・コメンテイターの湯之上隆氏など多くの専門家は懐疑的である。これまでの育成策がことごとく失敗してきたこと、そもそも日本国内の半導体需要が小さいこと、人材がいないこと、先端コア技術が失われてしまったことなどが指摘される懸念要因である。

 確かに今の日本にはハイテク産業集積を再構築するのに欠けている部分が大きい。図表3はオムディアの推計による半導体関連市場の世界シェア一覧であるが、日本は素材で56%、装置で32%の高シェアをもっているにもかかわらず、生産シェアは19%(うち10%は海外企業の日本工場)、半導体需要は7%と、需要シェアの低さが目立つ。

 だが、エコシステムのすべての要素をそろえている国はない。また坂本氏も湯之上氏も日本ハイテク敗戦の最大の原因が、懲罰的円高であったことを看過している。後述するが、恩典的円安が日本ハイテク産業集積復活にとって、決定的ともいえる支えになることが重要である。

図表3:半導体関連世界市場規模と各国シェア推移

(つづく)

1-(後)
2-(2)

関連記事