2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

【神風、円安1】日本ハイテク産業集積復活への道筋(後)

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年5月2日の「日本産業復活の神風、円安がやってきた!!(1)不可逆的130円/ドル、ハイテク産業集積復活の道筋」を紹介。

(2)日本病の根本原因円高が終わり、日本を癒す円安が始まった

懲罰的円高から恩典的円安の時代へ

 ストラテジーブレティン302号(4月1日)で分析したように、日本の競争力を根底的に破壊した懲罰的円高の時代ははっきりと終わり、日本に恩典を与える実力以上の円安の時代が始まっている。何が懲罰的で何が恩典的かは、購買力平価(=円の実力)と実際の為替レートとの倍率で観察できる。図表5に見るように日本円は1980年代後半から2001年、および2009~2013年にかけて購買力平価をピーク時には100%、平均でも3割以上も上回る懲罰的円高に見舞われ、日本の競争力は著しく劣化し貿易黒字はあっという間に消えた。

図表4: 購買力平価とドル円レートの推移-内外価格差と 逆内外価格移/図表5: 内外価格差倍率(PPP/市場スポット)推移

ハイテク産業に死亡宣告を与えた“白川日銀”

▼関連記事
懲罰的円高から恩典的円安の時代へ(前)

 とくにリーマン・ショック後の2008~2012年の超円高は、すでに困難な状況にあったハイテク産業(半導体・液晶・テレビ・携帯電話・PCなど)を破たんに追い込んだ。2011年3月東日本大震災時の1ドル80円台突破に際して10年振りのG7協調介入がなされたのに、白川総裁当時の日銀の消極的金融政策のためにその後2年間にわたって(黒田日銀総裁登場まで)超円高が是正されず、2012年3月には日本産業の宝ともいえた最先端半導体企業エルピーダメモリが破たんし、マイクロンテクノロジーに買収された。また最後の力を振り絞って投資されたシャープの液晶工場も挫折した。このようにハイテク敗戦は産業・雇用・国益音痴の金融政策の敗戦そのものであった。図6に見るように過去6回実施されたG7の協調介入はすべて直ちに極端水準にあった為替を大転換させたが、2011年だけはそれが起きなかった。白川日銀の間違った金融政策が日本の産業と国益に与えた被害は甚大であったといえる。当時、韓国ウォンはリーマン・ショック前に比べて3割低下していたのに対して日本円は3割の上昇となり、2008年から2012年にかけて韓国ウォンは日本円比5割弱の減価となった(図表1参照)。政府の支援もありすでに十分に産業基盤と競争力を整えていた韓国企業により日本企業はなぎ倒されることとなった。韓国がいまだ参入していなかった半導体製造装置、半導体材料、電子部品などを除き日本のハイテク産業のコア部分は瓦解した。

図表6: 為替レートとG7協調介入(6回)の推移

円高で瓦解したハイテク産業集積が円安で復活する、鍵は日台協力か

 しかし今、日本が貿易赤字国に転落したことで、恩典的円安の時代に入っていくのではないだろうか。すでに懲罰的円高は2014年頃より解消しており、日本産業・企業の復活は進行している。企業利益は史上最高、海外生産はすでにピークを越え低下し始めている。また生き延びたハイテク周辺産業において日本企業の改革・新ビジネスモデルが台頭している。(ストラテジーブレティン297号(2022年1月1日)「2022年の展望~NEXT GAFAMを担う日本企業のビジネスモデルに注目せよ~」参照)。

図表7: 日本企業の売上高経常利益率/図表8:製造業海外生産比率推移

 恩典的円安の時代とは、購買力平価から相当程度(3割以上)安い為替レートが定着し、日本の価格競争力に為替面からの恩典が与えられる時代である。懲罰的円高時代と同様に、今回も経済合理性とともに、覇権国米国の国益がカギとなる。米国は脱中国のサプライチェーンの構築に専念しているが、その一環として中韓台に集中している世界のハイテク生産集積を日本において再構築する必要性が出てくる。そのためには恩典的円安が必須となる。

 幸いにして日本には半導体・液晶・テレビ・携帯電話・PCなどハイテクのコア・最終製品では一敗地塗れたが、デジタルの周辺分野(センサー、アクチュエーター、部品、材料、装置)で差別化を図り高シェアを獲得している。それらの製品1つ1つはニッチであり市場規模は必ずしも大きくないが、世界のハイテクサプライチェーンのボトルネックを抑えているともいえる。中国を除くハイテクのサプライチェーンを構築する際には、日本がカギになることは明白ではないか。

 次号で展開するが、米国はアジアでの安全領域日本にハイテク産業集積を再構築する必要性に迫られてくるはずである。すでに失われたデジタルの中枢部分は台湾との連携で補完し、日本ハイテク産業の蘇生が進む。懲罰的円高で起きたことと逆の連鎖が見込まれる。円安の最大の受益者は、円高の最大の被害者であったハイテク産業になるのではないだろうか。

図表9: 日本企業のハイテク領域/図表10:半導体関連世界市場規模と各国シェア推移

(了)

1-(前)
2-(1)

関連記事