2022年05月28日( 土 )
by データ・マックス

バイデン政権の進める新たな対アジア戦略と日本

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、5月13日付の記事を紹介する。

 バイデン大統領は大統領就任後初となる韓国と日本を5月20日から24日まで訪問する予定です。歴代のアメリカ大統領と比べると日本訪問の遅れが目立ちます。昨年の東京オリンピックの機会にファーストレディのジル夫人が大統領の名代として東京を訪れ、アメリカチームを激励しました。

 当時は新型コロナウィルスが猛威を振るっており、80歳のバイデン大統領は健康管理の必要性から訪日を断念せざるを得ませんでした。現在、新型コロナウィルスの脅威がなくなったわけではありませんが、「ウィズコロナ」が常態化してきたこともあり、遅まきながら「アジア太平洋地域における最大の同盟国」への訪問を決断したわけです。

 今回のバイデン大統領の日本訪問には日米双方から大きな期待が寄せられています。その最大の理由は「先の見通せない」ウクライナ情勢の悪化でしょう。ロシアによる軍事侵攻が続き、ウクライナにおける危機的状況には出口が見えません。ウクライナのゼレンスキー政権を支援するバイデン政権は大量の武器や資金を提供していますが、終わりの見えない戦況のため、アメリカはウクライナにくぎ付け状態となっています。そのため、「最大の競争相手で脅威の源泉」と対決姿勢を見せていた中国と向き合う余裕が失われてしまった模様です。バイデン政権はその埋め合わせを日本に期待しています。

 アメリカはウクライナへの軍事支援を通じて、ロシアとの代理戦争に突入してしまったと言っても過言ではありません。その結果、「敵の敵は味方」という状況が生まれ、アメリカの経済制裁を受けるロシアと中国が手を結ぶ可能性が急速に生まれてきました。もしアメリカが中国を封じ込めたいと思うなら、ロシアと代理戦争状態に陥り、ロシアと中国を結びつけるような事態を招来するのは愚の骨頂としか言いようがありません。なぜなら、ウクライナ戦争が長期化すれば、中国はアメリカの圧力を受けることなく東アジアや西太平洋一帯で自国の影響力の拡大に邁進できることになるからです。

 バイデン政権はそうした戦略上の失敗から形勢逆転を目指し、韓国と日本との戦略的な同盟関係を強化しようと動き始めました。折から韓国には保守系のユン新政権が誕生。新大統領はアメリカとの同盟関係の強化と日本との関係改善に前向きな姿勢を打ち出しています。バイデン大統領が韓国を最初の訪問国にし、ユン大統領との首脳会談を最優先したのも、対中政策上、日本と韓国を促し、日米韓による連携の強化を図ろうとするものなのです。

 ユン大統領はムン政権時代に中断されていた米韓合同軍事演習の復活や、韓国内へのTHAADの追加配備などを実行し、米韓同盟の格上げを明言。日本は朝鮮半島有事に備えるためにも、韓国との情報共有が欠かせません。日本がロシアへの経済制裁を発動したため、ロシアは反発を強めており、極東アジアでの軍事的行動を活発化させるようになっています。

 将来、ロシアが北海道への軍事侵攻を企てる可能性も否定できない状況です。日本とすれば、ウクライナ戦争と似たようなかたちで防衛戦争を展開する必要が出てきます。自衛隊では現在、そうした緊急事態を想定したシミュレーションを繰り返しているほどです。

 岸田首相の親書をユン大統領に手渡した林外相は「現下の国際情勢で日韓、日米韓の戦略的連携がこれほど重要なときはなく、関係改善は待ったなし」と語っています。と同時に、日本と韓国はNATOが主導するサイバー防衛組織(CCDCOE)への参加を通じて、中国や北朝鮮との「ハイブリッド戦争」に備える決定を下しました。北朝鮮が中国の支援を受けて加速させるサイバー攻撃に対して、日米韓で共同戦線を張るという方向です。

 岸防衛大臣は去る5月5日、アメリカのメリーランド州にあるサイバー軍司令部を視察しました。日本の防衛大臣が同司令部を訪問したのは初めてのこと。自衛隊は2022年3月に「サイバー防衛隊」を新設したばかりで、陸海空に限らずサイバー分野でも日米の協力を拡大しようとしています。とはいえ、現在、自衛隊のサイバー防衛隊は540人体制で、3万人のサイバー部隊を擁する中国や6,800人を誇る北朝鮮とは比較になりません。

 そこで、アメリカの協力を得ながら、日本と韓国で連携を図るというのが岸田政権の意向に他なりません。バイデン政権としても、こうしたサイバー防衛面での日韓協力を橋渡しすることで、アジアの2大同盟国の間に残る根深い相互不信を払しょくするきっかけにしたいと目論んでいるはず。

 岸田首相はそうしたバイデン大統領の思惑を把握し、アメリカをバックにつけ、自らの長期政権化を目指しています。「新たな資本主義」を看板政策として打ち出し、「自由で開かれたインド太平洋」戦略を外交の中心に据えていることが、その証です。その一環として、来月、英国のIISSがシンガポールで開催する「シャングリラ対話」には岸田首相が自ら団長として参加する意思を明らかにしました。実現すれば、首相の参加は2014年の安倍首相以来のこと。

 日本やアジア諸国のなかにはアメリカがウクライナ危機に引きずられ、アジア方面への関与が希薄になり、その間隙を縫うように、中国・ロシア・北朝鮮が不穏な動きを強めるのではないかといった疑念と危機感が生じています。日本がどこまでアメリカの不足部分を補うことができるのか、世界が注目しているわけです。日本にとっても独自外交に舵を切る大きなチャンスにすべきと思われます。

 次号「第295回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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