2022年06月26日( 日 )
by データ・マックス

アートが映す世界情勢「ヒト・地球・資本主義」展開催

 「ヒト・地球・資本主義」をテーマにした、現代造形表現作家フォーラム展が5月3日(火・祝)から10日(火)まで東京都美術館で開催された。現代社会のあり方を振り返り、目に見えない課題に目を向けてほしいという思いから生まれた27人のアーティストの作品が展示されている。今回の展覧会に作品を出展した米国・ニューヨークや日本で画家・造形作家として活躍する佐藤雅子氏と、佐藤氏の夫であるクレッグ・シャノン氏に創作の背景や、初心者に向けたアートの楽しみ方を聞いた。

普段の暮らしからヒントを得たアート『再生』

 「世界で何かが起こっても、そこから再生する強い力が人間に備わっているのではないでしょうか。見る人の想像力をかき立てて、元気になれる作品をつくりたいと感じています」と、固定概念にとらわれず希望を見つめた『再生』を創作した佐藤氏は語る。『再生』は色の付いたプラスチックを薄く切ったり、ワイヤーを自由自在に曲げてかたちをつくったりとさまざまな素材を組み合わせた作品だ。社会が抱える課題を見つめながらも、枠にとらわれない世界がもつ可能性を見出している。

佐藤雅子氏と、佐藤氏の新作『再生』
佐藤雅子氏と、佐藤氏の新作『再生』

 佐藤氏は、「アートは、普段の暮らしからアイデアのヒントを得て、誰でも楽しくつくることができます。固定概念を緩めたり、壊したりすることで、世界に対する見方が大きく変わるのです」と話す。作品を見て、触ってみると、自然の素材は何でもアートに変身できるのだと驚かされる。今回の作品で用いたビニールテープやワイヤーは身近にある素材で、緩衝材の「プチプチ」もひねってワイヤーと組み合わせることで、普段の梱包材の姿とは違った表情を見せる。作品の下部には、初めて見かけるごつごつした素材が使われており、興味を惹かれて佐藤氏に尋ねると、なんと紙からつくったものだという。

紙を天ぷらにたとえて生まれた石のような素材
紙を天ぷらにたとえて生まれた石のような素材

 この素材は佐藤氏が好きな料理からヒントを得ている。紙を天ぷらにたとえて小麦粉と水に浸して柔らかくし、絵具を塗って砂を付けて、ワイヤーに巻き付けて乾かしたものだ。触ってみると石のように固い。「アートは日常から始まると考えているため、好奇心や想像力をもって、普段から何でも試しています。もし想像していたものと違ったものができて失敗しても、またやり直せばいいだけですから」(佐藤氏)。今の地球が住みやすい星になるには、人やモノの役割を見直して、枠にとらわれない新たな視点でそれぞれの生かし方をデザインすることが、社会の課題を解決できる1つの方法になるのかもしれないと感じた。

祖国の「崩壊」を描く『ELEGY』

クレッグ・シャノン氏、佐藤雅子氏とクレッグ氏の新作『ELEGY』
クレッグ・シャノン氏、佐藤雅子氏と
クレッグ氏の新作『ELEGY』

 米国・ニューヨークで多くの作品を生み出してきたアーティスト、クレッグ•シャノン氏の新作『ELEGY』は、日本語で「哀歌」を意味する。クレッグ氏は「ニューヨークに住んでいたときに、祖国の米国で政治や人種などの問題が深刻化し、米国が『崩壊』することを目のあたりにした悲しみを作品に表現しました」と語る。アルミや木材、ビニールテープを組み合わせ、油性ペンキで塗って米国の現状を表現しており、作品の上部が前倒しになっているため、作品の前に立つと「今の国のままでいいのか」と迫り、問いかけてくるように感じた。外から米国を見たときには目に見えにくい社会の問題に目を向けるきっかけを与えてくれる作品だ。

 佐藤氏は「これまでの米国は政治などに対する意見が異なっていても、お互いに歩み寄ることができて、憲法の草案についての国会の議論も抵抗なく進み、順調に法律として施行されたものが多かったと感じます。しかし、今は人々の意見や認識の違いによる溝が大きくなりすぎて、お互いに歩み寄ることができません。社会が滞ってしまい、国として機能していないことが問題です」と語る。

アートの楽しみ方~まずは身近なギャラリーから

 「アートを楽しむ秘訣は、『作品を見て何か感想をもたなければ』と気負うことなく、まずは気楽にギャラリーに足を運んでみることです」と佐藤氏は話す。絵についての説明が書かれたキャプションを読んでから作品を鑑賞する人も多いが、キャプションを見ずに先入観のない気持ちで絵を見ることも楽しさにつながる。佐藤氏は、展覧会に行ったら、窓から景色を眺めるように絵を流して見て、興味を惹かれる作品のみ近づいてキャプションを読むという。

 「作品をつくった作家の意図を深追いせず、自分の感覚で見ています。キャプションを読んで作家の意図を知ったつもりでも多くは推測であり、作家自身も何かを意識してつくっているとも限りません。作家はつくりたいものを把握せずに描き始めて、描きながら気づくこともあるのです」(佐藤氏)。まずは家の近くにある小さなギャラリーや美術館に足を運んでみることで、アートをもっと身近に感じられるはずだ。

【石井 ゆかり】


■Exhibition INFORMATION
 佐藤雅子氏個展「Colour My World」

 自然と人間の関係性をテーマにした色彩豊かな抽象画、新作9点を展示している。

<開催期間>
2022年4月26日(火)~5月22日(日)
※月曜休館
午前10時~午後5時

<開催場所>
軽井沢ニューアートミュージアム
(長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢1151-5)

<入場料>
無料


<プロフィール>
佐藤 雅子
(さとう・まさこ)
 2014年の香港Asia Fine Art Galleryの「New Year Exhibition」をきっかけに画家/造形作家として活動を開始。ニューヨークへ移住後、ニューヨーク・マンハッタン区長オフィスアートショー、The Art Students League of New York の栄誉あるブルードット賞、Bronxville Women’s Clubで最優秀賞を受賞。日本では16年に東京都美術館でのグループ展示会にて入賞。17年に新国立美術館、19年に東京都美術館、20年に代官山や銀座、21年9月に国立新美術館(東京・六本木)、同12月に昭和記念公園(東京・立川市)で出展した。マニラ、ロンドン、ワシントンDC、カイロ、香港、そしてニューヨークでの生活を通して育まれた感性と知覚を活かし、ユニークな色彩感覚と想像力を使った作品をつくり出している。上智大学新聞学科卒業後、Citibankに入行、その後、画家・造形作家に転身。ニューヨークの名門The Art Students League of New York、MoMAのアーティスト、上智大学ソフィア会文化芸術グループ、現代造形表現作家フォーラムのメンバー。

クレッグ•シャノン
 ロサンゼルスに生まれ、カリフォルニア州立大学フラートン校で文化人類学言語学、アートを学び、20歳でエンターテインメントビジネスに携わり、歌手シンディ・ローパー、ジョージ・クリントンなどのCDジャケットを手がける。ニューヨーク市立大学ハンター校の大学院で美術を専攻し、ロバート・モリスに師事する。そのころ、トミーヒルフィガーやナインウエストのロゴなどのデザインも手がけた。ニューヨークの美術大学プラット・インスティテュートでグラフィックデザインの教授となった後、メトロポリタン美術館、広告代理店グレイ、ニューヨーク市の都市計画官として働きながら、ギャラリーで作品を発表している。

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