2022年06月28日( 火 )
by データ・マックス

世界初のRNA編集技術、医療のリスクを軽減し世の中に貢献(後)

エディットフォース(株)
代表取締役社長 小野 高 氏

 2015年5月、老舗化学系商社のKISCO(株)(大阪市中央区、岸本剛一代表)と九州大学教授・中村崇裕氏らによって設立された九州大学発ベンチャー・エディットフォース(株)。同社は世界初となる「RNAのゲノム編集技術」を確立した。医療・農業・生物などさまざまな分野で応用が可能なこの技術を駆使し、現在は創薬に注力している。

日本の医療技術を世界へ

 ──貴社の強みを教えてください。

 小野 「RNAの編集技術を保持している」という点です。我々の身体というのは、最終的にはタンパク質でできています。その1つ前がRNA、一番最初がDNAです。この3段階構造をセントラルドグマと呼びます。今までのゲノム編集は、大元のDNAを操作することが一般的でした。とくに3年ほど前のアメリカでは、DNA編集を行えばどんな病気でも治すことができるという考えの下、研究も活発に行われていました。しかし、DNAを介してのゲノム編集の大きなリスクとして、少しでも操作を誤ると、操作された個体がまったく別のモノとなってしまうことが挙げられます。

 そこで現在は業界全体が、より安全性の高いRNA操作の研究へと踏み込みつつある段階です。我々は、設立前からRNA編集技術を研究し、方法が確立されていますので、ここからは訴求力を高めていこうという段階に入っています。ただ医薬ですので、政府の許可を得ることができないと実践的に治療を行えません。1つひとつ政府からの審査を受けながら進めていくのは、なかなかハードルが高いです。 

DNA/RNA/タンパク質

 ──日本における医薬承認のタイムスケジュールについて、どのように感じていますか。

 小野 アメリカやヨーロッパで承認された医薬が日本でなかなか受理されないなど、一般的に医薬行政は遅いと言われてきました。しかし、山中伸弥教授がiPS細胞でノーベル賞を受賞されたころから、細胞医療をもっと活発に推進していこうという動きが広がり、行政もよい方向に変化しています。そして、この注目され始めた細胞医療に大きく関連するのが我々の研究領域であるゲノム編集なのです。細胞医療に附帯するかたちでゲノム編集についても関心が高まっており、海外と比べても遜色のないスピードで対応が進んでいるように思います。

 その一方で、保険行政には少し懸念が残ります。日本の保険適用のかたちは、海外と比較してかなり独特です。国民からすればとてもありがたいことなのですが、国が負担する国民の保険料が多いと、創薬の観点から見ると薬価の上限がかなり抑えられてしまいます。我々を含む製薬会社は、研究費などの先行投資費用が大きいため、これでは研究費用と供給時の薬価が見合わず、経営が回らなくなってしまうリスクが高いです。薬価がつかないということで、日本での開発のプライオリティーが下がるなどしてアメリカや中国、ヨーロッパ諸国に比べ医薬の供給が遅れてしまっているのが現状です。これでは製薬会社としてはモチベーションの維持が難しくなってしまうと思います。

独自の技術で社会に貢献

 ──日本のスタートアップ市場についてどう思われますか。

 小野 やはり資金調達において、アメリカやヨーロッパと比べると日本はまだ活発でないと感じます。日本にも高度な技術をもった企業はたくさんあります。しかし、その技術を産業に発展させることにおいて、日本はまだ劣っていると思います。その理由として、保守的であることが1つ。革新的なアイデアを持ち合わせていても、それを積極的にアピールしなければ埋もれてしまい、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまいかねません。

 次に投資規模の問題です。日本の投資家や機関は、一度の投資額がだいたい5,000万円から1億円にとどまることが多いです。日本人の気質的に、まだかたちになっていないビジネスに投資するのは、リターンの確証が低く危険であると考えることが多いのではないでしょうか。成長するにつれ、少しずつお金が積み上がっていく、というのが日本の文化です。アメリカでは1度に10億から100億円規模の投資は当たり前、可能性にお金をかけるという文化が根付いているように思います。

 ──世界と比較した日本の医療分野についてお聞かせください。

 小野 スタートダッシュが大事である医療などをはじめとしたサイエンス分野では、アメリカなどのように、一気に資金力を上げることができる企業が最初に完成させたプロダクトが、世のスタンダードになってしまう傾向にあります。その後に完成したものがより強力でも、世に周知させるのは難しく、日本の技術がこの問題に直面していることが多いと感じています。

 また、アメリカの製薬会社は可能性を見出したらすぐ企業を買収し、その後に自社でその事業を咀嚼するのに対して、日本の製薬会社は石橋を叩いて渡るタイプが多く、どうしても買収までに長い期間を要するのです。そうしている間に、革新的なベンチャーは他国の大手が買収してしまう、といったことも起こります。現在、日本の製薬会社もいくつかM&Aを行っていますが、アメリカのベンチャーを買収することが多いです。日本のベンチャーにも目を向けていただけると、日本の医療分野がより活性化するのではないでしょうか。

 ──貴社は海外での資金調達を考えていますか。

 小野 海外からの資金調達はすでに行っており、現在までにニュートン・バイオキャピタルさんや、MPHさんから資金提供を受けています。今後も資金調達が必要になれば、海外にも視野を広げ、幅広く話をさせていただく予定です。

 ──最後に、貴社の将来展望についてお聞かせください。

エディットフォース(株) 代表取締役社長 小野 高 氏
エディットフォース(株)
代表取締役社長 小野 高 氏

 小野 まだ当社の技術が薬としてかたちになるまではお時間をいただきますが、その間に当社のPPR技術をたくさんの方々に知っていただき、さらに研究しやすい環境を整えていきたいです。当社の経営としては、現在提供していただいている資金で運営している段階ですが、これを投資家の方にお返しできる仕組みを考えており、その1つの手段としてIPOを視野に入れています。現在投資してくださっている事業者さんのEXIT時期を加味しつつ、当社は2、3年のうちにIPOを実施したいと考えています。しかし、もちろんそれがゴールではなく、あくまでも資金調達の一部です。

 私たち社員一同の願いは、PPR技術をかたちにし、多くの患者さまを救うことで世の中に貢献していくことです。私は社長として、社員が満足に研究していけるよう、資金調達をはじめとした経営にも尽力していきます。

(了)

【立野 夏海】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:小野 高
本社所在地:福岡市中央区天神1-9-17
福岡研究所:福岡市西区元岡744
      九州大学ウエスト5号館430
設 立:2015年5月
資本金:9,000万円
URL:https://www.editforce.co.jp/


<プロフィール>
小野 高
(おの・たかし)
2002年(株)そーせい入社。事業開発部マネージャーを経て事業開発部長を歴任。09年伊藤忠商事(株)入社。開発・調査部、エネルギー化学品カンパニー化学品部門などでプロジェクトマネージャーを務める傍ら、ソレイジア・ファーマ(株)のVP事業開発部長を務めた。18年からエディットフォース(株)に取締役COOとして参画。19年代表取締役社長に就任。東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。

(前)

関連記事