2024年05月21日( 火 )

【視点】南シナ海を平和と協力の海に ベトナムの果たす役割

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ベトナム イメージ    日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国からなる「クアッド」(Quad)が5月24日、東京で首脳会談を開催した。ロシアのウクライナ侵攻をめぐってはインドが従来の非同盟の立場を崩さず、意見が一致しなかったものの、東シナ海・南シナ海をめぐっては、「自由で開かれたインド太平洋への揺るがないコミットメント」を新たに共同声明で表明した。

 太平洋とインド洋を結ぶ南シナ海は、アジア太平洋地域の国々、そして世界の他の国々にとっても戦略的に重要な地域の1つだ。ヨーロッパ・中東―アジアは、世界でも主要な10航路の1つであり、海上交通物資の輸送量の約4分の1を占めている。また、重要な海洋天然資源、とくに生物資源(水産物)、非生物資源(石油とガス)、鉱物資源に恵まれており、世界で主要な5つの石油・天然ガス産出地の1つである。加えて、可燃性の氷(ガスハイドレート)の形成と蓄積のための多くの有利な条件も備えている。 

 南シナ海では、長年にわたり領土の主権をめぐって緊張状態が発生しており、この海域は常に潜在的な不安定さを抱えてきた。南シナ海沿岸国の大半は、1982年の海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)の締約国であり、国連海洋法条約の下で設立されたオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所は、フィリピンの「九段線」に関する訴訟を検討している。「九段線」をめぐり、中国が南シナ海の約80%以上の海域において主権を有すると主張することに対して、国際仲裁裁判所は2016年7月、中国の主張は不適切であるとの最終的な結論を下した。しかし、今に至るまで紛争を解決することができずにいる。 

 平和で協力的な南シナ海は、この地域の多くの国々が抱く願望であろう。南シナ海の平和と安定の維持を提唱して、最も活発に活動している国の1つがベトナムだ。同国の立場、主張をみてみよう。

 ベトナム外務省のレ・ティトゥーハン報道官は21年7月、先述の国際仲裁裁判所の判決から5年経過したことについて次のように述べた。

 「ベトナムは、外交的および法的手続きを通じて、軍事力の使用または脅迫を行わず、また国連憲章に従った平和的な解決策および措置によって、南シナ海における主権、主権の権利および管轄権をめぐる紛争の解決を常に支援する。ベトナムは関係者に対し、1982年の国連海洋法条約が規定する法的義務を尊重し、完全に履行する。南シナ海において国際法に基づき、平和、安定、安全、安全保障、航海、上空の自由と秩序の維持に積極的かつ実践的な貢献をするための協力を行うよう要請する」

 22年5月13日にワシントンで開催された米―ASEAN特別首脳会議において、ベトナムのファム・ミン・チン首相は、あらゆる紛争と海洋における相違点について、国際法に基づいて平和的に解決するというスタンスと原則を再度強調した。国際法に則り、ベトナムとASEANが南シナ海の締約国行動宣言(DOC)を完全かつ効果的に実施し、実際的で効果的な南シナ海行動規範(COC)の結果を策定することを支援するパートナーを歓迎する、と述べた。 

 フィリピン、マレーシア、インドネシアなど、南シナ海における紛争に関わるASEANの多くの国は、南シナ海が、対立と紛争の海域ではなく協力と接続のための海域であるべきだというベトナムの見解に同意している 。 

 南シナ海の80%以上の海域における主権を主張する中国も、南シナ海の平和と安定を維持することの必要性については東南アジア諸国らと認識を共有している。21年9月、ベトナムのブイ・タン・ソン外相と中国の王毅国務委員兼外相は、他国とともに南シナ海の平和と安定を維持し、ASEAN諸国と交渉を進め、COCを速やかに達成させるという見解に合意した。

 米国、日本など南シナ海に積極的に関連している諸国も、この海域の平和、安全保障、安定を維持する必要性を確認した。21年5月の米―ASEANビデオ会議で、アトゥール・ケシャプ米国務次官補代理は、バイデン政権がASEANとの戦略的パートナーシップを非常に重要視していることを強調し、南シナ海は世界の生命線であり、海上安全保障を含めたこの地域の平和と安全の維持に貢献するためにASEAN諸国と緊密に連携していくことを確認した。

 岸田文雄首相も、4月下旬から5月上旬にベトナムとインドネシアを訪問した際、平和で自由で開かれた南シナ海を含むインド太平洋地域の実現に向けて各国と緊密に協力することを約束している。 

 ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルスの感染が一部の国では依然として深刻であること、米中間、米ロ間の対立の激化などにより、この地域も予測不可能な変化に直面している。平和で安定した南シナ海を実現することは非常に重要であり、同海域の諸国のみならず、インド太平洋地域全体の利益になるだろう。

【訳・まとめ/茅野 雅弘】

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