2022年06月27日( 月 )
by データ・マックス

浜田和幸・張大順「合文」書道展開催~漢字の魂に迫る(4)

法政大学名誉教授   王 敏 氏
国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
甲骨文学者・書家  張 大順 氏

 浜田和幸氏と張大順氏による漢字の異彩~和合の美~「合文」書道展が6月13~17日、日中国交正常化50周年を記念して、東京の中国文化センターで開催された。書道展の開催にあたり、「字魂―その前生後世」をテーマに、法政大学名誉教授の王敏(わん・みん)氏、国際政治経済学者の浜田和幸氏、甲骨文学者の張大順(ちょう・たいじゅん)氏が日本と中国の文化のルーツである漢字について鼎談を行った。

これからの漢字の発展

 王 張氏のお話のように、漢字の本質は1人ひとりがつくり出すことができて、多くの人が共に使える「公共の財産」であり、浜田氏のお話のように、社会の移り変わりによって新しく生み出されてきたことが、漢字が数千年間使われてきた理由でしょう。日中韓にとって「絆」のように頼もしい存在である漢字を、さらに発展させるにはどうしたらいいでしょうか。

 浜田 3人で話をする「鼎談」の「鼎」(かなえ)という文字は、料理の鍋を3本の脚で支えることからつくられています。「三本の矢」のように3人で力を合わせれば、大きな力を発揮できます。日中韓でお互いに信頼できる関係を築いて、力を合わせて世界の課題に挑戦することを考える必要があります。同じ漢字を使ってきた日中韓の鼎談による協力が、このスタート地点になるべきではないかと考えています。

 韓国はルーツをもちながらも漢字文化から遠ざかっていたため、漢字文化に注目してもらえるきっかけづくりが大切です。先日、米国のバイデン大統領が来日した際に、「インド太平洋経済枠組み」を立ち上げ、アジアの国々が経済のために連携する方針を掲げました。このような大きな政策を実行するうえで、日中韓が積極的に交流できるよう、表意文字の漢字がもつ潜在力を生かすことが欠かせません。張氏のお話のように、漢字には、自分だけの文字をつくって思いを伝え、自分の未来を投影できる力が備わっています。3,000年以上続く漢字文化に新しい息吹をどう吹き込むかが、1人ひとりに与えられた課題です。今日の鼎談をきっかけに、その第一歩が始まることを願っています。

 王 2014年には「日中韓賢人会議」が開催され、漢字を共用して相互理解を深めるために、共同常用漢字として808字が選ばれました。2,000以上の常用漢字がある日本や漢字を用いる中国では大きな話題になりませんでしたが、韓国では長い間、漢字が使われていないため、これらの漢字の利用や、辞書の制作、初等教育に関して取り組みが行われました。

 16年には「漢検 漢字博物館・図書館」が京都に開館し、日本では漢検が入試に用いられています。日本では明治以降、新しい事柄に対して新たな漢字をつくり、漢字の利用に情熱をもって取り組んでいることに注目すべきです。漢字の原点を振り返るうえで、漢字の基になった甲骨文字がもつ意味は今の漢字と違いがありますか。

 張 多くの甲骨文字を解読しましたが、甲骨文字は日本人にとって親しみがある文字です。中国の甲骨学の大家は、郭沫若(かく・まつじゃく)、王懿栄(おう・いえい)、羅振玉(ら・しんぎょく)、董作賓(とう・さくひん)の4人が知られており、郭沫若、羅振玉、王国維(おう・こくい)は日本に滞在して甲骨文字を研究しました。日本では、甲骨文字を研究する学会が中国よりも早い1951年に日本甲骨学会として形成され、甲骨文字の造詣が深いです。

 甲骨文字は科学が発達していない時代に、吉か凶かを神に問いかけるためにつくられた文字です。甲骨文字は人と人が交流するためにつくられた普通の漢字とは異なり、人と神が交信するためにつくられたため、「神気」が感じられます。甲骨文字と今の漢字は意味が変わっており、甲骨文字の原点を振り返ると文字の「命」を感じます。中国では、漢字は漢の時代の許慎(きょしん)の『説文解字(せつもんかいじ)』に基づいて解釈されますが、許慎は甲骨文字が使われた時代があったことを知らなかったため、甲骨文字は今の漢字には使われず解釈されていない文字もあります。甲骨文字の元の意味を知るほど、文字に込められた思いの強さを感じます。

漢字のルーツとなった甲骨文字(張大順氏の作品より)
漢字のルーツとなった甲骨文字(張大順氏の作品より)

 王 甲骨文字を理解することで、これからも文字に込められた思いが感じられる機会をもち続けたいですね。

 浜田 王氏は周恩来平和研究所所長であり、文化大革命の混乱期にもかかわらず、周恩来首相は将来の日中関係を前進させるために中国の若者10人を選び、日本の言葉と文化を学ばせました。そのときの10人の1人が王敏氏です。中国で学んだ後、来日し、すでに40年が経っています。その間、日本の大学で教える傍ら、若き日の周恩来首相の日本での足跡をたどり、多くの著作にまとめています。あの世に旅立つ間際の周恩来首相は「もうどこにも行きたくない。ただ、あの美しい桜の咲く日本だけにはもう一度行きたい」と語ったそうです。

 1972年に田中角栄首相と周恩来首相が、日中関係を良い方向にしていこうと北京で握手を交わしてから、50年が経ちました。私たちには、日中関係を良くするという使命があります。日本と中国が甲骨文字から始まった共通の財産である漢字を通して、お互いを理解していきたいと考えています。自分自身の漢字をつくる思いで、新たな未来を創造していきましょう。

(了)

【文・構成:石井 ゆかり】


<プロフィール>

王 敏(わん・みん)
法政大学名誉教授 王敏氏    中国河北省承徳市出身。大連外国語大学日本語学部卒。四川外国語大学大学院修了。宮沢賢治研究、日中比較文化研究。宮沢賢治を中国に初めて紹介したことで知られている。人文科学博士(お茶の水女子大学)。法政大学名誉教授、桜美林大学特任教授、拓殖大学客員教授、周恩来平和研究所所長。著書『周恩来と日本―日本留学の平和遺産』『嵐山の周恩来─日本忘れまじ!』(三和書籍、2019)、『禹王と日本人─「治水神」がつなぐ東アジア』(NHKブックス、2014)、『中国人の「超」歴史発想─食・職・色』(中公文庫、2013)、『鏡の国としての日本─互いの<参照枠>となる日中関係』(勉誠出版、2011)、『中国人の愛国心─日本人とは違う5つの思考回路』(PHP新書、2005)など。文化長官表彰。

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際政治経済学者 浜田和幸氏    1953年生まれ、鳥取県出身。国際政治経済学者。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。中国精華大学国家戦略研究院在外研究員。新日本製鐵、米国戦略国際問題研究所、議会調査局を経て、参議院議員に当選。総務大臣政務官、外務大臣政務官、2020東京オリンピック招致委員などを歴任。アルベルト・シュバイツアー国際貢献賞受賞(オーストリア・シュバイツアー協会)。アラブ諸国友好功労賞受賞(在京アラブ外交団)。日中ブロックチェーン協会理事長。現在、国際未来科学研究所を主宰。ベストセラー作家でもあり著書多数。最新作は『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』(ワック)。趣味の書道を通じて日中の文化芸術交流に尽力。全日中展顧問。

張 大順(ちょう・たいじゅん)
甲骨文学者・書家 張大順氏    1962年生まれ、中国西安出身。甲骨文学者、書家篆刻家、ユネスコ平和芸術家(2019)、世界華人傑出芸術家(2000、中国文化部)、甲骨文習刻図案破訳者。来日30年一途に研究・模索し、甲骨文書道独自の理論体系を確立。日本書壇の「甲骨文書道研究・表現第一人者」である。現在、甲骨文書道の古典をつくる「東京宣言」発表、甲骨文書道専門家百人育成プロジェクトや東京国際甲骨文芸術祭を実施。甲骨文書道と日本文化の融合を主な活動テーマとする。著書多数。海外華人書法家協曾聯合主席兼日本分曾主席、海外華人書道家協会連合主席、中国甲骨文芸術学会副会長、安陽学院特任教授、全日本華人書道家協会副主席、日本甲骨文書道研究会会長など。

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