2022年06月26日( 日 )
by データ・マックス

浜田和幸・張大順「合文」書道展開催~漢字の魂に迫る(3)

法政大学名誉教授   王 敏 氏
国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
甲骨文学者・書家  張 大順 氏

 浜田和幸氏と張大順氏による漢字の異彩~和合の美~「合文」書道展が6月13~17日、日中国交正常化50周年を記念して、東京の中国文化センターで開催された。書道展の開催にあたり、「字魂―その前生後世」をテーマに、法政大学名誉教授の王敏(わん・みん)氏、国際政治経済学者の浜田和幸氏、甲骨文学者の張大順(ちょう・たいじゅん)氏が日本と中国の文化のルーツである漢字について鼎談を行った。

漢字がもつ大きな役割

 王 漢字のもつ生命力や創造力は甲骨文字の時代から始まっています。漢字は生まれてから数千年が経っても大きな存在感があるのはなぜでしょうか。

 張 普段から漢字を使っていると気付かないかもしれませんが、漢字は驚くほどに新しいものを生み出す力があります。漢字がつくられるのは、まず必要があって自然に生まれる場合です。日本では漢字6万字が使われており、数からいえば十分ですが、文字は生活のなかで生きているため、社会の発展とともに新たな文字が生まれます。新しい漢字は、自分の心の思いからも新たにつくり出すことができます。新たな漢字が生まれることで、漢字で表せる世界がさらに広がります。

張大順氏の甲骨文字の作品
張大順氏の甲骨文字の作品

    王 漢字は新たに部首を組み合わせることで、新しい文字を生み出せる性質がありますね。一方、漢字をつくるにあたって新しい思想や知識を吸収しなければ、漢字を生き生きと組み立てることもできず、できた漢字も使われることが少ないでしょう。漢字が長く使われ続けてきたのは、人々が新しい知識や思想を不断に吸収し、表現、伝播したいという思いをもち、新しい漢字が次から次へと生まれてきたからです。明治時代には、西洋の知識や科学を漢字にして、日本から近隣諸国に発信していました。浜田氏や張氏がつくった新しい漢字が広まることを願っています。1人ひとりが漢字の創作を試みれば、新しい漢字がますます生まれるでしょう。

 日中両国で言葉が通じなくても、漢字で意思を伝えることができます。漢字は今後の日中の相互理解、平和の構築においてどのような役割があると思われますか。

 浜田 王氏が話されたように、漢字は発展途上の「武器」です。漢字の「字」という文字は、母のお腹を表す「宀(うかんむり)」から「子」が生まれることを表している通り、新しい文化や現象を生み育てることを象徴しています。新しい産業が発展するにつれて、今はない文字が必要となり、つくられる可能性が高いです。

 明治以降、中国から日本に多くの留学生が訪れ、日本の科学技術や法体系を新しい漢字に置き換えて中国に伝えることで、日本と中国の相互理解の橋渡しとなりました。今後も、漢字が橋渡しとなるチャンスができることを願っています。

 人類は今、感染症だけでなく、エネルギーや食糧などの直面している課題をどう乗り越えるのかが問われています。私が2003年に執筆した書籍『ウォーターマネー』に込めた思いを表した文字は、「氵(さんずい)」に「富」を組み合わせた水が富を生むという意味の創作漢字ですが、これから人類に必要なのは、石油や天然ガスよりも水だと考えています。日本の節水技術、海水の淡水化技術、汚染水の浄化技術などを通じて、世界の人々に資源を大切にしてもらうために、水に関する新しい漢字を日本と中国から世界に向けて発信したいと感じます。

浜田和幸氏が2003年に執筆した書籍『ウォーターマネー』に込めた思いを表した創作漢字
浜田和幸氏が2003年に執筆した書籍
『ウォーターマネー』に込めた
思いを表した創作漢字

    新しい産業を起こして未来を創造するうえでも、世界が求めるものをしっかり表す漢字がもつ意味は大きいです。世界の4人に1人を占める中国系の人々を味方に付けて、世界の課題に一緒に挑戦していくうえで、日中の相互理解に役立つのが、1文字で意味が伝わる漢字です。日中で協力して、戦略的に漢字文化を広めることが大切です。

甲骨文学者・書家 張大順氏
甲骨文学者・書家 張 大順 氏

    張 浜田氏は、多くの著作を執筆するうえで心から感じた思いを、文字を通して表しています。先人たちがつくった漢字は、周りの事柄を基につくられているため、抽象的、心理的な表現をするには向いていないこともあります。これからは誰もが、心に起こった思いから漢字をつくり、自分がつくった漢字をそれぞれ使うことが大切です。

 私は「己」の字と「人」の字から新たな創作文字「合文」をつくりました。この文字に込めている思いは、個人と個人だけの社会ではなく、己(おのれ)のなかに他人がいて、他人のなかに己もいる、ということです。人のためになすことが自分の価値を表し、他人の行いのなかに自分がいるという思いがあります。これからの社会は、孔子が説いた他人への思いやりの「仁」愛のように、多くの人のおかげで自分が生きていることを自覚し、他人への行いを大切にする社会であってほしいと感じています。これは21世紀の新しい「仁」であり、孔子の「仁」と同音同義です。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】


<プロフィール>

王 敏(わん・みん)
法政大学名誉教授 王敏氏    中国河北省承徳市出身。大連外国語大学日本語学部卒。四川外国語大学大学院修了。宮沢賢治研究、日中比較文化研究。宮沢賢治を中国に初めて紹介したことで知られている。人文科学博士(お茶の水女子大学)。法政大学名誉教授、桜美林大学特任教授、拓殖大学客員教授、周恩来平和研究所所長。著書『周恩来と日本―日本留学の平和遺産』『嵐山の周恩来─日本忘れまじ!』(三和書籍、2019)、『禹王と日本人─「治水神」がつなぐ東アジア』(NHKブックス、2014)、『中国人の「超」歴史発想─食・職・色』(中公文庫、2013)、『鏡の国としての日本─互いの<参照枠>となる日中関係』(勉誠出版、2011)、『中国人の愛国心─日本人とは違う5つの思考回路』(PHP新書、2005)など。文化長官表彰。

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際政治経済学者 浜田和幸氏    1953年生まれ、鳥取県出身。国際政治経済学者。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。中国精華大学国家戦略研究院在外研究員。新日本製鐵、米国戦略国際問題研究所、議会調査局を経て、参議院議員に当選。総務大臣政務官、外務大臣政務官、2020東京オリンピック招致委員などを歴任。アルベルト・シュバイツアー国際貢献賞受賞(オーストリア・シュバイツアー協会)。アラブ諸国友好功労賞受賞(在京アラブ外交団)。日中ブロックチェーン協会理事長。現在、国際未来科学研究所を主宰。ベストセラー作家でもあり著書多数。最新作は『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』(ワック)。趣味の書道を通じて日中の文化芸術交流に尽力。全日中展顧問。

張 大順(ちょう・たいじゅん)
甲骨文学者・書家 張大順氏    1962年生まれ、中国西安出身。甲骨文学者、書家篆刻家、ユネスコ平和芸術家(2019)、世界華人傑出芸術家(2000、中国文化部)、甲骨文習刻図案破訳者。来日30年一途に研究・模索し、甲骨文書道独自の理論体系を確立。日本書壇の「甲骨文書道研究・表現第一人者」である。現在、甲骨文書道の古典をつくる「東京宣言」発表、甲骨文書道専門家百人育成プロジェクトや東京国際甲骨文芸術祭を実施。甲骨文書道と日本文化の融合を主な活動テーマとする。著書多数。海外華人書法家協曾聯合主席兼日本分曾主席、海外華人書道家協会連合主席、中国甲骨文芸術学会副会長、安陽学院特任教授、全日本華人書道家協会副主席、日本甲骨文書道研究会会長など。

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