2024年12月11日( 水 )

三井住友がSBIに出資 SBI証券とSMBC日興証券が統合か?(前)

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 メガバンクの三井住友フィナンシャルグループ(FG)と、個人投資家を中心とするネット証券最大手のSBIホールディングス(HD)が手を組む。SBIは昨年、新生銀行を連結子会社にしたばかり。金融再編が進むなか、SBI証券とSMBC日興証券は統合するのか?

三井住友FGはネット証券強化

ネット証券 イメージ    (株)三井住友フィナンシャルグループ(FG)とインターネット金融大手SBIホールディングス(株)は6月23日、資本業務提携を発表した。三井住友がSBIの第三者割当増資に応じて796億5,000万円を出資し、議決権の9.91%を握る。 

 メガバンクグループとして三井住友が持つ豊富な顧客基盤と、ネット証券最大手の(株)SBI証券のデジタル技術を融合し、幅広い金融サービスの提供を目指す。具体的には、三井住友FG傘下の(株)三井住友銀行、三井住友カード(株)と、SBI証券の3社が提携。銀行、カード、証券の機能をアプリで一体的に提供し、顧客の利便性向上を図る。

 「三井住友銀行は2,700万人、三井住友カードは5,000万人、SBI証券は850万人の個人顧客を有する」。三井住友とSBIが発表したリリースにはこんな文言が躍る。ネット証券分野を中心に連携を強化し、2022年度中に新たな個人向けサービスの提供を開始する。

 これが公式発表。だが、内実はそんなきれいごとではない。

SMBC日興証券が大ピンチ

 三井住友FG傘下のSMBC日興証券(株)は6月24日、株価操縦事件をめぐる外部専門家報告書を公表した。自社資金による大量の買い注文を「不適切かつ不公正な行為」と認定し、「ガバナンス(企業統治)が全般において機能不全に陥っていた」と指摘した。

 事件では佐藤俊弘元副社長ら6人と同社が金融商品取引法違反(相場操縦)で起訴されている。

 調査委によると、SMBC日興の元幹部らは2019年12月~21年4月、市場外で大株主から大量の株式を買い取り投資家に転売する「ブロックオファー取引」を計10銘柄で実地した際、株価が値下がりしないように大量の買い注文を出していた。

 調査委の報告を受け、SMBC日興は、金融庁からの行政処分を踏まえ、近藤雄一郎社長の去就を含めた社内処分を行う。近藤社長の引責辞任は免れない。

 親会社の三井住友FGの責任も当然問われる。(株)みずほフィナンシャルグループでは、銀行が引き起こしたシステム障害で、親会社の坂井辰史社長のクビを差し出した。SMBC日興の相場操縦事件では、単に、近藤雄一郎社長のクビの差し替えで終わるのか。それとも、親会社三井住友FGの太田純社長CEOの経営責任まで波及するかが注目だ。 

大和証券SMBC証券との提携を解消

 三井住友FGの証券ビジネスは挫折の歴史である。

 三井住友は旧(株)住友銀行時代の1999年、かねてより親密先だった旧大和証券(株)と資本業務提携を結び、大和のホールセール部門を切り離して大和証券SMBC(株)を設立。このディールをまとめて名を挙げたのが、「ラストバンカー」の異名がつく住銀の西川善文頭取だ。

 2008年にリーマン・ショックが起き、米シティグループは傘下の日興証券(株)を手放す。三井住友が09年10月、日興コーディアル証券(株)(現・SMBC日興証券)を手中に収めた。当時の三井住友の頭取・奥正之氏は、19年4月に日本経済新聞に連載した『私の履歴書』に日興買収劇について書いている。

 「(日興)入札参加に先立ち、大和証券グループ本社の鈴木茂晴社長には仁義を切った。(中略)私が描いたのは日興を含む大和本体との経営統合という『大きな構図』。しかし、残念ながら鈴木さんが同調することはなかった」

 日興と大和を統合させて、証券界のガリバー、野村證券(株)に対抗することを狙ったが、大和が乗ってこなかったというわけだが、業界で語られている話は、いささか異なる。

 「三井住友はあまりにも傲慢だった。大和が、三井住友の日興買収を知ったのは新聞報道によって。あまりに見下げしたやり方だ。大和は踏みつけてもついてくると踏んでいたようだが、さにあらず。住友ギライの鈴木茂晴社長(大和証券グループ本社(株)元会長、現・名誉顧問)が2009年9月合弁を解消し決別した」(証券業界関係者)

三井住友と大和の確執が事件の伏線か

 SMBC日興には、親会社となった三井住友FGが社長を送り込んだ。20年4月、近藤雄一郎社長が就任した。7年ぶりに誕生した生え抜きのトップだ。社内の士気を高まっていたというが、今回の事件で引責辞任は免れない。

 三井住友FGが送り込んでいた元常務の佐藤俊弘副社長は逮捕・起訴された。2トップが退任して、後任は三井住友出身者か、それとも生え抜きか。

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 今回の件について、「SMBC内では、『大和の鈴木(茂晴・元会長)』に刺されたと思っている人が少なくない。鈴木は、昨年6月まで日本証券業協会の会長をやっていたので、業界の情報は握っていたはず」(全国紙社会部記者)

 大和にとって、日興は目障りな存在。事件の背景には、三井住友(旧・住友銀行)と大和との確執があるとの見方がされている。

SMBC日興とSBI証券との統合を狙った

 株価操縦事件の影響はモロに出た。財務省は、東京地下鉄(株)(東京メトロ)の株式売却を担う主幹事証券に野村證券など5社を選定したが、SMBC日興は外れた。三井住友にとって、日興は頭が痛いお荷物でしかない。

 三井住友はお得意の統合戦略を描く。日興と大和の統合は失敗に終わったが、日興との統合相手と見なしたのがSBI証券だ。SBIの口座数は845万に達し、日興(370万口座)や野村證券(535万口座)を上回る。利用者も日興は中高年が中心だが、SBIは20~40代が中心で、ネット証券分野を強化するには魅力的な相手だ。

 三井住友がSBIに出資する狙いは、ズバリ、SMBC日興をSBI証券と統合させること。これがM&A通の見立てだ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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