2022年07月02日( 土 )
by データ・マックス

韓国経済ウォッチ~米ファンド、韓国政府を相手に初のISD提訴(前)

日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

korea 米国の投資ファンド・ローンスターは韓国政府を相手に、韓国ベルギー間の投資協定のISD条項に基づいて損害賠償を起こした。賠償要求金額は5,000億円で、金額の規模もさることながら、ISD条項による韓国政府に対して初めての提訴だけに、焦眉の関心になっている。
 今回の紛争で敗訴すれば、国民の血税がつぎ込まれることになるため、韓国の一部では結果を懸念している。一方、このISD条項の扱いは、日本でもTPP交渉において焦点になっている。
 現在、韓国ではローンスターの件で話題になっているISD条項とはどのような仕組みであり、今回のローンスターの主張は果たして受け入れられるのかどうかを追ってみたい。

 まず「ISD条項」とは、 投資家の紛争を解決するための手続きを定めた条項のことで、たとえばアメリカ企業が韓国政府の不当な扱いによって損害を受けた場合、韓国政府を提訴して紛争を解決する方法などを定めている。「ISD」とは「Investor(投資家)、State(国家)、Dispute(紛争)」の略字で、主に自由貿易協定(FTA)の交渉の際に登場する用語でもある。ISD条項は、アメリカ、カナダ、メキシコが結んだ北米自由貿易協定(NAFTA)と韓米FTAなどにすでに導入されている。
 韓米FTAの国会での批准を前に、韓国ではこれは毒素条項であると批判が起こり、李明博前大統領がアメリカと再交渉することを国民に約束したことでも有名になった条項である。実際、外国企業は投資先の国が急に法律を変えて工場の資産を没収した場合、被った被害に対して鳴泣き寝入りするのではなく、仲裁機関に訴えることで損害賠償を受けられるようになる。
 ISD条項を適用した事例を見ると、今までアメリカは、46件の訴訟を起こし、カナダやメキシコから多額の賠償金を受け取っている。アメリカ企業が負けた事例は1件もなく、ISD条項は実質的には米国の多国籍企業に有利な仕組みであるという批判も根強い。

 今回は懸念が現実になったケースで、韓国政府が経験する初めてのISD条項関連の提訴なので、判定結果に注目が集まっている。

 ローンスターは、アメリカのダラスに本社を置く投資ファンド会社である。業績が悪化した企業を買収し、企業を立て直すことによって企業価値を高め、その後売却することをメインにする投資ファンドである。1997年に日本にも進出して、東京スター銀行など多くの企業の買収を行っている。
 韓国には日本より遅れて進出し、当時韓国で一番高額のビルであったスタータワービルを買収するなり、今回の紛争の種になっている韓国外換銀行なども買収を行った。

 ところが、ローンスターは2012年11月に、韓国政府の売却承認の遅延により大きな損害を被ったと、韓国政府を世界銀行の傘下にある国際投資紛争解決センター(ICISD)に提訴した。
 ICISDは、過去3年間両方の意見を受け付けた後、今年5月中旬から米国のワシントンで1次審理を進行させた。1次審理は10日間進められ、2次審理は6月29日に判定結果が決まることになっている。決定が最終的に行われるまで、通常は1年くらいの時間が所要されるようだ。審理は基本的に非公開を原則にしているが、両方が同意すれば公開もできる。

 今回は、どちらが同意しなかったかは明らかではないが、非公開で進められていて、密室で重大な決定がなされるのではないかと一部では心配している。

(つづく)

 
(後)

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