2024年04月28日( 日 )

尖閣諸島問題と日中関係の今後 「海を介した平和」の実現(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 日本政府はウクライナ危機をもたらしているロシアの軍事侵攻に関連するかたちで、尖閣諸島問題への対応をより明確に国際社会に訴えるべきとの考えを打ち出しています。中国の動きを念頭に置いたものです。自民党内に、ウクライナ危機が「台湾有事」に飛び火する可能性が高いと受け止め、「備えが欠かせない」との見方が広がっているためでもあります。不測の事態を避けるために、日中間で求められる取り組みについて考えたいと思います。

尖閣諸島をめぐる駆け引き

日中関係 ホットライン イメージ    日本政府は、中国の王毅国務委員兼外交部長が指摘する「日中双方が合意した4つの原則的共通認識」を順守する考えに変化はないと繰り返します。14年11月に公表された文書のことですが、双方の意見が一致した共通認識のなかには尖閣諸島に関するものもあります。いわく、「双方は尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」。

 とはいえ、当時の岸田外務大臣も、この点に関しては「東シナ海防空識別区の設定や海底資源掘削などの東シナ海海域におけるさまざまな課題に緊張状態が生じていることに異なる見解を有している」との認識が示されたもので、尖閣諸島をめぐる領有権の我が国の立場は不変である旨を発言しており、首相就任後も変化はないと思われます。

 というのは、日中双方に尖閣諸島の領有権を認めてしまえば、最悪の事態として、中国が尖閣諸島を台湾の一部の自国領としていることから、いわゆる台湾有事の際などに、日本の尖閣諸島周辺での領海警備活動が日中平和友好条約の侵害行為に当たる内政干渉や領土侵攻であるととらえられ、中国側の武力行使の口実にされかねないからです。

 そうした望ましからざる事態を回避するためにも、岸田政権は「日米2+2」で確認している領土保全の原則に従い、尖閣諸島の領有権が日本のみに帰属しており、そのことを世界が認識することでインド太平洋地域の平和と安定が維持されるとの主張を展開しているわけです。日本政府の理解では、「尖閣諸島については、中国はその周辺で海警が管轄権を行使しているように内外に見せている現状で当面は十分であり、上陸の可能性は低い」とされています。

 しかし、この点については、中国側との意見の相違は如何ともしがたいものがあります。そうであるならば、日中国交正常化50周年という歴史的な転換点に立ち、新たな発想で「Win-Win」の解決法を模索すべきではないでしょうか。

日中間のホットライン開設を

 喫緊の課題としては、中国の海警と日本の巡視船の間で不測の事態が生じないようにするため、ホットラインの開設が欠かせません。日中間には危機管理に対する考え方の違いもあり、危機が発生した場合に、ホットラインのメカニズムが期待したようにうまく機能しないことも想定されるためです。当局同士でスムーズな運用ができるように、政治レベルでの高度な議論、準備体制の構築が必要となります。

 その意味でも、冒頭に紹介した「尖閣諸島の海洋ごみ問題」や「海洋資源開発」に、双方が英知と技術を持ち寄り、共同戦線を張ることが求められます。元を正せば、島々も海洋資源も中国や日本が生み出したものではなく、地球という生命体が生み出した自然の産物、いわば人類の共通財産です。そうした地球上の貴重な資源を有効活用することで日中間の相互理解と協力関係が構築されれば、世界のモデルとなるに違いありません。

 琉球の大交易時代に遡れば、尖閣諸島が琉球と中国の交易のための島として存在していたことに思い至るはずです。そうした歴史的理解に立てば、安全保障の観点とは別の「海の外交」という可能性が急浮上してもおかしくありません。日中双方が「海を介した平和」の実現に一心同体で取り組むことが望ましいでしょう。

 同時に、台湾問題に関しては、日中国交正常化50周年という時期を考慮すれば、日本がこれまで以上に踏み込んだコミットメントを表明することには慎重であるべきと思われます。27年に迫る中国人民解放軍創立100周年に向けた中国政府の動き、とくに台湾問題と尖閣問題の連携の可能性を視野に入れたうえでの注視が欠かせません。幸い、日本政府内には、アメリカ発の中国脅威論に一方的に飲み込まれてきた過去の経緯を見直し、独自の中国との対話ルートを模索する動きが出ています。

 中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは1971年のことです。それは68年に、国連の海洋調査チームが周辺海底に大量の油田が確認されたと報告したのがきっかけでした。しかし、今日では、当時の報告は「眉唾」だったと言われています。改めて、周辺諸国が共同で調査を実施すべきと思われます。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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