2024年05月04日( 土 )

15年目に入った「サロン幸福亭ぐるり」を振り返る(前)

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大さんのシニアリポート第115回

 今年8月13日で、運営する高齢者の居場所「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)が15年目に入った。一口に15年というが、運営するとなると苦難の連続。予期せぬ事態が連続して起こり、四苦八苦だった。過去を振り返ることで、スタートした当時の熱い思いのなかにあった方向性を再確認し、今後の糧としたい。それにしてもよく続いたものだ。その原動力は何だったのだろう。

 開設は実にひょんなことから実現した。「集合住宅での“孤独死”発生のメカニズムについて」について報告した拙著『団地が死んでいく』(平凡社新書、2008年)出版後の打ち上げの席だった。編集長に、「全国区のジャーナリストもいいけど、地域のジャーナリストもいいですね」といわれ、真意を問いただしたところ、「口ばかりじゃなくて、実際に(孤独死回避のための)サロンを開設したらどうですか」といわれた。これに対して、「いいですよ、やりましょう」と即答。酒席での出来事とはいえ、約束は約束。一ヶ月後には開設に向けてスタートさせていた。

 私が公営(県営)住宅に居住していた関係上、開設許可の申請先は県営住宅課になる。アポもなくいきなり飛び込んだところ、幸運にも県としても高齢者の居場所について検討中だったこともあり、思いもよらぬ大歓迎を受けた。そこからが苦難の連続。県からの「開催予定の集会場は自治会に運営を任せてあるので、一応断りだけは入れておいてください」という。そこで自治会の運営委員会(最高議決機関)で内容を説明、開設の了解を求めた。ところが事態は紛糾したのだ。

 某委員から意味不明の難問を突きつけられたり、無視されたり、明らかに開設阻止の空気をつくる動きがあった。これが3カ月もの間続いた。3回目の説明会のとき、議長から緊急提案が出された。開設許可、不許可の賛否を採るという。さすがの私も怒り心頭。県からは、「開設許可」をいただいているのだ。採決で拒否されると開設できなくなる、のか? 私は「開設します」と一方的に宣言して部屋を出た。どうやら「自治会が最高位にある」と勘違いしているメンバーの一部が、私の行動を快く思わなかったようだ。県から許可を取ったとはいえ、自治会の頭ごなしに「開設」することに、自治会の存在を無視されたと思ったのだろう。開設後も悪質な行為が続いた。

 まず、一緒に開設に協力してくれた住人の家の玄関扉(鉄製)に灯油をかけられ、火が付けられた。すぐに消火用の砂がかけられた跡が確認された。警察に通報したものの、犯人検挙には至らなかった。次に、会報誌『結通信』を約700世帯に配布したところ、ある棟の1階のエントランスに、半分破られた状態で散乱しているのが発見された。何者かが郵便受けから取り出し、破り捨てたものと判断。これも警察に届け出て、窃盗事件として受理されたものの、犯人は不明のまま。各棟の掲示板に貼ったイベントのポスターがはがされ、ついには、「幸福亭」と記されたのぼり旗まで盗まれるという嫌がらせを受けた。開設がよほど気に入らなかったのだろう。それでもめげずにオープンした。

結通信

 「サロン幸福亭」という名前は、懇意にさせていただいている千葉県松戸市常盤平団地自治会主催の「いきいきサロン」と、多摩ニュータウンの「福祉亭」を参考にした。幸福亭のコンセプトは「孤独死回避」なので、必然的に「見守り」につながる。毎週月曜日開亭とした。高齢者の居場所と名付けていても、住民が積極的に来亭することはない。そこで団地内に住む高齢者の名簿を極秘に入手。そこから120人を抽出して、全員にラブレターを書き、開催日ごとに配布した。向こうが来ないなら、こっちから仕掛けるしかない。いわゆるアウトリーチ戦法である。これが功を奏して徐々に参加者が増えた、

 参加者を増やすために、さまざまなイベントも企画した。1月は「正月」、2月「節分」、3月「ひな祭り」、4月「お花見」、5月「端午の節句」、6月「あじさい祭り」、7月「七夕」、8月「自治会の夏祭り」、9月「お月見」、10月「芋煮会」(私が山形出身なので)、11月は何もないので、「飲み会」、12月「忘年会」。いずれも参加者各自一品料理と飲み物(酒、ジュースなど)持参。参加費用として1人300円を徴収した。

 宴会には歌が欠かせない。座付きギター弾きを自認する私のギター伴奏で、「昭和歌謡史」の大合唱。大いに沸いた。つまり酒の飲み会の口実として「季節を感じる会」なるものを立ち上げたのだ。おかげで毎回40人を超す住人で大盛況となった。

 ほかにも、「読み聞かせの会」「映画鑑賞会」「吊し飾り(飾り雛人形)づくり」、その道の専門家や自治体各部署からの高齢者に関する「出前講座」「高齢者用化粧教室」「囲碁・将棋」「バザー」「まな板削り」…。開催可能なイベントには何でも挑戦した。基本にあるのは、「人が集まれば仲間ができ、ついでに見守りも可能」というコンセプトだ。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第114回・後)
(第115回・後)

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