2024年05月20日( 月 )

どうなる?再生可能エネルギー 次世代を切り拓くか(前)

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京都大学大学院経済学研究科
特任教授 安田 陽 氏

 再生可能エネルギーはこれから、どのように普及するのか。ウクライナ情勢で石油価格が高騰し国際情勢が揺れ動くなか、再エネは国が安定してエネルギーを確保できるかという問題にも大きく関わることも明らかになった。注目されていない再エネ分野こそ潜在力があると語る、京都大学特任教授・安田陽氏に再エネの動向と未来について聞いた。

エネルギー問題の「隠れたコスト」

 「再生可能エネルギーが普及するための技術的な問題の多くはすでに解決済み、もしくは課題があったとしても現在の技術で十分乗り越えられるものとされています。政府や産業界において、再エネは普及に向けた課題が多いという誤解が流布してこと自体が、再エネを阻む最も大きな原因になっていると思います」と京都大学大学院経済学研究科特任教授・安田陽氏は語る。

 国際エネルギー機関(IEA)は、2050年に電力の再エネ比率は90%まで高まるという見通しを立てており、世界は再エネの大量導入に舵を切っている。一方、日本では言葉の壁で海外の情報が遮断されているせいか、世界の動向が国内に十分伝わっていない。そのため古い情報に引きずられて先入観と思い込みから、政府や産業界の意思決定層でも「石橋を叩く」慎重すぎる政策が展開されているという。「再エネを普及させるうえでは、政府や再エネを受け入れる側の社会が、海外の状況を見据えて行動を変える必要があります」(安田氏)。

 日本では、再エネは価格が下がれば普及するという見方も多い。これに対して安田氏は「国際社会では、価格が安いことよりも、火力発電や原子力発電には『隠れたコスト』があるが、再エネにはそのような懸念が少なく持続可能性があると考えられているためです。日本にはコストだけを重視するという姿勢が根強く見られ、国際社会とかけ離れていることが問題です」と語る。

 従来の発電所は、見かけ上はコストが安い。しかし、CO2排出による気候変動や事故時の廃炉費用の増大など、「隠れたコスト」が発生している。原発をめぐっては、事故の重大さを隠したり、事故が起きても責任者がうやむやになったりする事態も起こってきた。石油や天然ガスなどの資源は、紛争が起こると争奪戦になりやすい。見かけ上のコストは安いが、私たちの子孫に「隠れたコスト」を先送りしているにすぎない。

 加えて、安田氏は「エネルギーのコストが安くなるのは悪いことではないですが、なぜ安いのかを見極める必要があります」と語る。たとえば、地元の人々とのトラブルや事故を防止するための対策、廃棄物の環境対策など社会に与える問題にどれだけ対策を講じるかで発電コストは変わる。そのため、十分なリスク対策を行わず「隠れたコスト」として未来に先送りしてしまえばコストは見かけ上安くなる。これは再エネも同じことだ。

注目されてない再エネ分野の潜在力

洋上風力発電(撮影:安田陽)
洋上風力発電(撮影:安田陽)
陸上風力発電(撮影:安田陽)
陸上風力発電(撮影:安田陽)

    安田氏は、再エネをめぐり、脚光を浴びている発電方法ばかりではなく、注目されていない分野にも目を向けなければ、日本での普及がいびつになる恐れがあると話す。「今、洋上風力が注目されていますが、世界では、陸上風力のほうが洋上風力よりコストが低く、産業として成熟しています。たとえば(一社)日本風力発電協会のビジョンでも、2030年の導入目標は陸上風力のほうが洋上風力より多いです」(安田氏)。また、日本では再エネといえば太陽光発電だと思う人が多いが、世界ではむしろ風力のほうが圧倒的に導入が進んでいる。世界の動きに目を向けなければ、日本の政策や産業界も「ガラパゴス化」することが懸念されるという。

 バイオマスは発電に使われるイメージが強いが、世界ではコージェネレーション(熱電併給)により、発電したときにできる熱も給湯や暖房用として供給するのが主流である。バイオマスは、発電のみだと従来型の火力発電と同じようにエネルギーを半分捨てることになるため、エネルギー変換効率が悪い。しかし、発電時に捨てられている熱を電力とともに利用すれば、回収できるエネルギーは80%近くまで高まる。

 日本ではバイオマスの熱利用を推進する政策が乏しいことが課題だ。日本の固定価格買取制度(FIT)制度の対象は電力のみだが、デンマークなど「熱FIT」を施行している国もある。バイオマスの熱を利用し、地域熱供給や熱貯蔵をすれば、ピークシフトやエネルギー供給の安定化にもつながる。エネルギー貯蔵は蓄電池ばかりが注目されるが、温水熱貯蔵は蓄電池よりも技術が成熟しておりコストも安い。自治体が主導して道路の地下に温水の配管を埋める地域政策も重要だが、マンションデベロッパーがこれから開発する区画などであれば早期に実現できる可能性がある。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
安田 陽
(やすだ・よう)
京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授。1989年、横浜国立大学工学部卒業。94年、同大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。関西大学工学部(現・システム理工学部)助手、専任講師、助教授、准教授を経て、2016年より同職。現在、日本風力エネルギー学会、日本太陽エネルギー学会理事。IEC/TC88/MT24(国際電気標準会議 第88技術委員会第24改定作業部会(風力発電システムの雷保護))議長、IEA TCP Wind Task25(国際エネルギー機関 風力技術協力プログラム 第25部会(変動電源大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用))専門委員など。主な著作に『世界の再生可能エネルギーと電力システム 風力発電編 全集』(インプレスR&D)、『再生可能エネルギーをもっと知ろう』シリーズ(岩崎書店)など。

(後)

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