2024年04月29日( 月 )

ブレてもいいから勝ち点を! 福岡0-1神戸

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 サッカーJ1リーグアビスパ福岡は1日、ホームのベスト電器スタジアムにヴィッセル神戸を迎えて第31節の試合を行った。

 この試合は、J2降格圏ギリギリでせめぎ合う両チームにとっては「相手を引きずり落とし、自分たちが這い上がる」ためにどうしても勝利がほしい非常に重要な試合。ベスト電器スタジアムには、アビスパサポーターはもちろんのこと神戸からも多くのサポーターが駆けつけ、久しぶりに1万人を超える観衆が声援を送った。

 アビスパ福岡は、ルヴァン杯はベスト4、天皇杯ではベスト8で敗退。カップタイトルへの挑戦がここで終わってしまったのは残念だが、リーグ戦に集中できる環境が整ったともいえる。対するヴィッセル神戸は、豊富な資金力で日本代表クラスのベテラン選手を数多く獲得しているものの、故障などで戦力がそろわず下位に沈んでいた。しかしここ数試合は日本代表FW大迫勇也の復帰などで連勝をはたし、降格圏からの脱出に近づいている。

 試合は、両チームがFWに向けてロングボールを送り、FWとCBが肉弾戦を繰り広げる荒っぽいかたちでスタート。完全復調した神戸FW大迫勇也が圧倒的な存在感を見せる。

 そして20分。神戸GK飯倉大樹のロングボールを抜群のコントロールで収めたFW大迫が、左サイドのMF汰木康也にパスを送る。汰木が正確なクロスボールを送ると、走りこんできた元日本代表MF小林祐希が完璧なタイミングでヘディングシュートを叩き込んで先制ゴールを決める。

 そして、試合は事実上この一発で決まってしまった。アビスパがわずかながら攻撃に転じたのは、試合終了直前のパワープレーのときだけ。それまでのおよそ70分間は、技術で優る神戸の選手たちにボールを回され、これまでのアビスパの強みだったセカンドボールの奪取もできず。昨シーズンは交代カードを切ることで鮮やかに戦況をひっくり返してきた長谷部茂利監督の「神采配」は、残念ながら不発に終わった。

終盤、パワープレーからFWジョン・マリ、DF三國ケネディエブスがヘディングシュートを狙う
終盤、パワープレーからFWジョン・マリ、
DF三國ケネディエブスがヘディングシュートを狙う

 それどころか、試合後の記者会見では神戸の吉田監督から「アビスパの特徴である中盤で引っ掛けてのカウンター、ロングボールからセカンドボールを拾うというかたちを、逆に自分たちがうまくやることができた」と、「アビスパの戦い方は想定通り」と言わんばかりのコメントをされてしまった。

 単純に選手同士の力比べになれば、元日本代表選手をそろえる神戸に分があるのは当然。それをフォーメーション変更や作戦で覆すのがアビスパの戦い方だったはずだ。

 心配なのは、試合後の記者会見で長谷部監督から「最初からパワープレーをすればよかったと思われるかもしれないが、自分たちの軸をもちながらブレずにやっている」というコメントが出たことだ。「ブレない」という言葉は近年ポジティブな意味で使われることが多いが、改めて考えてみると本来は「大成功しても基本を見失わない」という使い方をされていたはず。

 ハッキリ言って、今のアビスパには「ブレない」と言っている余裕はないのではないか。神戸戦に敗れたことで順位は16位、J1・J2入れ替えプレーオフ圏内に転落した。もはや非常事態だ。「ブレない」ことは手段であって目的ではない。現在のアビスパの目的は、J1に残留すること、つまり勝ち点を1つでも多く獲得することだ。

 もちろんシーズン最終盤の今からチームの基本戦術に手を入れるのが困難なのは当然だ。だが、たとえば想定外の勝利をもぎ取ったルヴァン杯神戸戦のように、前線にジョン・マリ、フアンマ・デルガド、ルキアンを並べてみてもいい。繰り返すが、今必要なのは「ブレない」ことではなく、「勝ち点を奪う」ことなのだ。

試合後、厳しい表情で引き上げるアビスパの選手たち
試合後、厳しい表情で引き上げるアビスパの選手たち

【深水 央】

関連キーワード

関連記事