2024年05月06日( 月 )

汚職の次は談合、電通の「闇」は底なし(後)

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 東京五輪・パラリンピックのテスト大会計画立案業務をめぐる入札談合事件で、東京地検特捜部は2月8日、広告最大手「電通」幹部らとともに競技会場ごとに落札予定企業を決定し受注調整を主導したとして、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で、大会組織委員会大会運営局の元次長、森泰夫容疑者(55)を逮捕した。東京大会は昨年の汚職事件に続き、談合事件でも逮捕者が出る事態になった。

 汚職事件、談合事件とも仕切ったのは電通だった。

談合の歴史・田中角栄の「3%上納ルール」

東京オリンピック イメージ    「談合」とは、公共工事などの競争入札において、競争するはずの業者同士が、あらかじめ話し合って協定を結ぶこと。「談合」は広告業界に限らず、各業界で広く行われている商慣習だ。公共工事を請け負う土木業界は、「談合」の代名詞となっている。

 談合の歴史を振り返ってみよう。有森隆著『脱法企業、闇の連鎖』(講談社+α文庫)に掲載されている『大林組の闇』は「談合の歴史」に1章を割いている。

 談合の歴史は、豊臣秀吉の時代に導入された入札制度とほぼ同時に始まったとされるから、かなり古い。現代の談合のルールが整備されたのは、高度成長期の1960年代に入ってから。このころは、大物仕切り屋の時代だった。

 60年代は大成建設の木村平副社長が談合組織を仕切った。木村引退後は、鹿島の前田忠次副社長と飛島建設の植良祐政会長が引き継いだ。中央談合組織「経営懇話会」の会長を務めた植良祐政には「談合の総元締」という称号がついた。

 スーパーゼネコンのバックをもたない植良が談合の総元締として君臨できたのは、「建設族のドン」田中角栄・元首相と強い結びつきがあったからだ。

 角栄は各社にまんべんなく公共工事を配分する見返りに、ダム、道路、鉄道の大型工事では、受注高の3%を上納させる仕組みをつくった。いわゆる「3%ルール」である。角栄に流れた3%が、選挙資金、派閥の運営資金や野党の国会対策費に使われた。

「談合の帝王」平島栄

 植良の力に陰りが生じたのは、85年に最大の後ろ盾だった田中角栄が脳梗塞で倒れたからだ。角栄の建設利権を受け継いだのが、建設族の新しいボス・金丸信自民党副総裁だった。

 だが金丸には角栄ほど政治家や建設業界を抑え込む力がなかったため、中央の談合組織が弱体化した。

 中央談合組織が機能不全に陥るなか、頭角を現したのが、関西の談合組織を支配していた大林組の平島栄常務である。平島の名前が全国の建設業界に鳴り響いたのは、87年から始まった関西国際空港の建設工事を仕切ったからだ。以降「談合の帝王」の異名がついた。

 93年、平島は大林組を退社して、西松建設の取締役相談役に就任した。談合組織の帝王の突然の転身は話題をさらった。

 「暴力団への上納金をめぐり、会社と対立した」のが退社の理由とされた。平島が西松建設に移る際に、金丸信が口利きしたのは有名な話だ。金丸は次男の嫁を西松建設の創業一族から迎えており、姻戚関係にあった。

「談合破り」でマリコンの社長を退任に追い込む

 西松建設に移っても平島は談合の帝王として君臨したが、凋落する事件が起きた。

 発端は95年に起きた阪神・淡路大震災の復旧工事だった。その年2月、神戸港の岸壁復旧工事の入札が行われた。談合で落札予定者となるのは、平島の西松建設に決まっていた。ところが、1回目の入札で、東京のマリコン・佐伯建設工業が超安値の札を入れ、工事をかっさらった。

 「談合破りだ」と激怒した平島は96年1月、佐伯建設工業の当時の社長の熊谷信夫を大阪に呼び出した。「この責任は、どないするんや。関西の工事から手を引け」。平島の、このものすごい剣幕に、社長の熊谷は辞任に追い込まれた。

 談合破りのペナルティに社長の首をすげ替える平島の荒業に、大手ゼネコン首脳たちは激怒した。これが、大手ゼネコンが平島追い落としで結束するきっかけとなった。

 阪神・淡路大震災から2年目の97年1月17日、鹿島、大成建設、大林組など大手25社の業務担当役員が大阪のホテルに集まり、新しい談合組織を旗揚げした。平島外しを狙ったクーデターである。

 97年6月、平島は西松建設取締役相談役を退任した。日本で最強の結束を誇る関西談合組織の頂点にいた男は失脚した。

「談合」は同調を良しとする日本の文化か?

 「談合の帝王」平島栄は、談合についてこんな持論を述べている。
「談合は必要悪。建設業に独禁法はなじまない。公共工事の性格から考えて、一部の業者に偏ることなく、全体に公平に配分すべきものだ」

 談合は建設業界の専売特許ではない。官公庁の仕事には、事前に受注調整する談合はつきものだ。

 東京五輪の運営業務をめぐる談合事件は、電通を仕切り屋として大っぴらに行われていた。これを誰も不思議とは思わない。

 談合は、同調、協調を良しとする土壌で育まれてきた、隠微な日本文化といえるだろう。

(了)

【森村 和男】

法人名

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