2024年05月13日( 月 )

大手電力の赤字見込みと値上げラッシュ(後)

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複雑な電気料金の内訳

 【図2】を見ると九州電力の値上げは微々たるものということになるが、読者のなかには「そんなことはない、自分の家や会社の電気料金はずっと前から値上がりしている」という人もいるだろう。

 たしかにその通りで、自由料金プランの人は昨年からすでに電気料金が上がっている。今回、主な値上がり対象となる【図2】で例示しているのは、あくまでも法令で電気料金が規制されている規制部門である。

【図2】電力各社の規制部門値上げ一覧(各社が例示する従量電灯の標準モデルによる)

 電気料金は基本的に、基本料金+電力量料金+燃料費調整額+再エネ賦課金、で構成される。

 現在、電気料金高騰の主な原因となっているのは、「燃料費調整額」である。これは5~3カ月前の貿易統計価格上の平均燃料価格と基準価格との差額を価格に転嫁する仕組みで、転嫁額には上限額が設けられている。規制部門は法令の規制を受けているため電力会社が勝手にこの上限額を撤廃することはできないが、自由料金プランは電力会社の判断で撤廃が可能だ。

 たとえば、九州電力の低圧電力における燃料費調整額の上限は1.86円/kWhだが、22年7月の段階で上限を突破し、23年1月には8.04円/kWhまで達していた。九州電力は昨年10月から、季節や時間帯によって電気料金が変わる「自由料金プラン」の燃料費調整制度の上限を撤廃。その結果、23年1月には、たとえば250kWh/月利用する規制料金プランと自由料金プランの利用者との間には、月額1,545円の負担差が生じることとなった。

 昨年12月までに大手電力各社は自由料金プランの当該上限を撤廃しているようだ。今回の値上げは、すでに大幅な値上げの影響を受けている自由料金プランと、規制料金との格差を埋める措置であるともいえる。【図2】で最大の値上率を示す、北陸電力の場合、規制料金プランにおける燃料費調整額の上限撤廃が値上げの中心であり、自由電力プランは10%程度の値上げになる。

 今回、値上げを行っていない3社(九州電力、中部電力、関西電力)の規制料金プラン契約者については、【図2】の実質値上率を見ると分かるように、政府の補助によって本年10月まで電気料金は実質負担軽減ということになる。

福島を背負った大手電力各社と新しい役割

送電線 イメージ    今回の値上げにより、赤字の各社とも来期は黒字転換の見通しと見られる。

 電力使用者としては電気料金の高値傾向がいつまで続くのか気になるところだが、電力業界の先行きには燃料高のみならず、原発60年ルールの延長法案や、EEZ=排他的経済水域内での洋上風力発電施設設置に向けた法整備の検討など、重大な影響を与える事案が続く。

 しかし、「【企業研究】没落する九州の王~九州電力」で九州電力を例に詳報している通り、大手電力の経営に過日の栄光はない。

 福島第一原発事故からもう少しで丸12年を迎えようとしている。当該事故の責任の中心である東京電力は、12年7月31日、政府の原子力損害賠償支援機構(現・原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の出資を受け実質国有化された。それからは10年と半年だ。

 国有化された東電の使命は福島責任の貫徹にあるとされた。16年、東京電力改革・1F問題委員会は、福島第1原発事故への対応費用の総額を廃炉、賠償、除染合わせて22兆円とした。そのうち東電の負担額は総額16兆円、内訳は廃炉8兆円全額、賠償4兆円、除染4兆円である。残りのうち除染分(2兆円)を国が負担、残り4兆円程度(※)は沖縄電力を除く大手電力9社と日本原子力発電、日本原燃が負担する。

(※)各事業者が事故への備えとして納付しているものが、実質、賠償に係る資金に充てられている。

 上記費用の負担方法については、まず賠償と除染の費用は、いったん国が国債などで立て替え、東電を含む11事業者が一般負担金として毎年総額2,000億円程度ずつ国庫へ納付する。さらに東電は特別負担金として毎年500億円程度負担する。廃炉費用については全額東電の負担であるが、これまでの廃炉等積立金として約1兆5,500億円をねん出してきた。しかし廃炉費用が8兆円で収まる保証はない。当初、廃炉は事故から40年以内で作業を終える計画とされていたが、炉底にたまった溶融核燃料(デブリ)の取り出しという技術的な困難を伴う作業についてはまだ実施の見通しも立っておらず、さらなる長期化と費用の拡大も懸念される。

 東電がこれらの費用すべて完済するには、これからまだ30年以上かかると見られている。

 福島の事故に対する責任は、東京電力のみならず大手電力各社にとっても重要な問題であることは間違いない。だが、その一方で、日本のエネルギー業界全体がその地点にとどまることを許されないほどに、世界のエネルギー環境は劇的な変化を迎えようとしている。

 これからのエネルギー産業は、それぞれの地域における地理的条件を生かした再生エネルギーや、地域の需要に合わせた形での電力供給が重視され、より地域に密着した産業として再構築が求められている。凋落したといっても九州における九州電力の役割は未だ大きい。エネルギー産業の転換期において、どのような新しいエネルギー事業が地域に起こり、九州電力がどのような役割をはたしていくのか、注視していく必要がある。

(了)

【寺村 朋輝】

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