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2015年08月31日 13:14

日常会話だけできる都合のよい奴隷!(1)

青山学院大学経営学部准教授 永井忠孝氏

 インド、マレーシア、フィリピンなど多くのアジア諸国で「英語」が植民地支配の道具に使われたことは誰でも知っている。この話をすると、多くの人がそれは過去の話で今は21世紀だと笑う。しかし「英語」の役割は今も昔も全く変わっていない。英米人にとって、「英語」はコミュニケーションの道具ではなく、植民地支配の道具である。
 青山学院大学経営学部准教授の永井忠孝氏に聞いた。永井氏は近刊『英語の害毒』(新潮新書)で「英語公用語化」、「英会話重視教育」、「英語早期教育」などの問題点をデータに基づき徹底検証、今注目を集める気鋭の言語学者である。

「植民地」にするには、「英語」だけが足りない

 ――先生の近著『英語の害毒』が今、巷で評判になっています。しかし、何か難しいタイトル名ですね。この本をお書きになった動機を教えていただけますか。

青山学院大学経営学部准教授 永井 忠孝 氏<

青山学院大学経営学部准教授 永井 忠孝 氏

 永井忠孝氏(以下、永井) 世界の国々と比較して、日本人は驚くほど、外国語というと英語しか勉強しません。日本人は、あたかも世界には日本語と英語の2言語しかないと思っている風にさえ見えます。しかし、世界には現在、言語が約6,000あります。
 しかも、日本人の英語に対する意識はとても画一的です。それは、「英語ができるようになったら、何かいいことがある」や「英語さえ勉強すれば世界中の人と話が通じる」というものです。もちろんそういう側面もありますが、むしろ稀で、多くはそうはなりません。一方で、そのような画一的な考えを持ち続けることで、大きな危険に遭遇することを全く認識できていません。

 多くの国民がこのような事実を認識できていないにも拘わらず、日本ではここ20年で英語に関する大きな変革が起こっています。中学校で英語が必須科目、現在、日本語もおぼつかない小学校3年生からの英語導入も検討されています。英語教育が会話中心になり、大学では授業を英語で行うことが奨励されています。「英語公用語」論が議論され、英語を「社内公用語」にする企業が出てきました。少し前に某英会話学校の広告文句に「その国は、英語だけが足りない」というのがありました。冷静に眺めると、日本はまるで自ら進んで植民地を志願しているようにさえ見えるのです。

学生に焦燥感、強迫観念みたいなものを感じた

 ――最近、日本の「植民地」化に警鐘を鳴らす「英語」に纏わる本が何冊か出ています。危機感が徐々に共有化されてきています。ところで、先生の気づきはどのようなご経験に基づいていますか。

 永井 私が現在のような考えを強く持つようになったのは、日本の大学で英語を教えるようになった約7年前からです。私は日本の大学院を卒業して米国に留学、博士課程を修了後、エスキモー語の研究などを含めて約8年アラスカに住んでいたのです。日本に帰国して英語を教えることになるのですが、大学の英語の授業が自分の学生時代と比べ、余りにも大きく変わっていたことに驚きました。

 私が学生の頃、英会話は選択科目でしたが、今多くの大学では、授業の半分近くを英会話が占めることもあります。さらに、学生の英語に対峙する姿勢の変化にも驚きました。「英語を話せるようになりたい」という焦燥感、切迫感、強迫観念みたいなものを強く感じたのです。私が学生の頃は、英語は話せないより話せた方がいい程度で、それ以上に論文を読んだり、書いたり、学問を究めていくための道具として、その必要性が認識されていたと思います。

 もちろん、月日が経って、英語の授業のやり方が変化することは当然とも言えます。しかし、世の中には“良い変化”と“悪い変化”があることも事実です。私は、今日本に何か“悪い変化”が起きているのではないかと思いました。それは、私がアラスカで、“悪い変化”が起きた民族の結末を目にしてしまっていたからです。

言語を失って文化を保っていくことはできません

 私は当初、アラスカの村に行けばエスキモー語がそこここで聞こえると思っていました。ところが、「英語圏」に住むアラスカ北部のエスキモーはもうほとんど英語しか話せません。かなりお年寄りのおじいさん、おばあさんでないとエスキモー語は話せないのです。顔はエスキモーですが、民族衣装も着ずに、立居振る舞い、価値観を含めてアメリカ人そのものです。特に多くの村人、若者は定職に着けず、酒浸りの毎日だったのです。本来、エスキモーは酒を飲みません。白人と付き合うようになり、酒を覚えました。言語を失ってしまったので、色々な意味で自分たちの文化を保っていくことができなくなったのです。

村長など村の主要なポストはすべて白人が占める

 英語が話せるようになった当初「彼らが期待した」良いことは何も起こりませんでした。私がいた村の住民は約300人で、そのうち白人は30人程度ですが、村の主要なポスト(村長、学校の先生など)はすべて白人が占めています。

 エスキモーと言う民族は広範囲に分かれて住んでいます。自分の言語をしっかり守っている、カナダ、グリーンランドなどのエスキモーにはここまでの現象は見られません。これは、アラスカのエスキモーに限らず、言語を英語に切り替えた、英語圏の少数民族に共通した現象になっています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
nagai_pr永井 忠孝(ながい・ただたか)
1972年、熊本市生まれ。東京大学文学部言語学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科言語学科博士課程単位取得済退学後留学。米アラスカ大学フェアバンクス校大学院人類学科にて博士号取得。米アラスカ大学フェアバンクス校外国語外国文学部 助教授を経て、青山学院大学経営学部 准教授。専門は言語学(エスキモー語)。著書に『北のことばフィールド・ノート』(共著)など。

 
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