2024年12月10日( 火 )

大量空き家時代における住宅事業者の社会的責任(6)

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消費者の不安払拭が課題

 なぜ、日本ではストック(既存・中古)住宅流通市場が活性化しないのか──。

 大きな理由の1つに、ストック住宅を購入する際、消費者が隠れた不具合や品質への不安を感じていることがある。建物が古いほど各所の劣化が進み、地震などで構造体にダメージがある可能性があり、長く安心して住むことができないと考えるわけである。

 劣化やダメージをどのように補修したのか、家の履歴が分かるものがないものも多い。さらにやっかいなのは、設計図すらないケース。これでは補修して住もうとしても余計な費用がかかる可能性があり、購入を躊躇(ちゅうちょ)してしまうのは当然だ。

お気軽に問い合わせることはできるが、お気軽には「購入」できないのがストック住宅の問題点
お気軽に問い合わせることはできるが、
お気軽には「購入」できないのが
ストック住宅の問題点

    残念ながら、リフォーム分野には悪質な事業者が少なからずいることも問題である。消費者はどんな事業者に工事を依頼すればよいのかと疑心暗鬼になる。こんな状況では、たとえ適正に補修が行われた新築同様のように見える物件であっても、消費者は安心して購入しようとは思えない。

 さらに問題点を指摘すると、ストック住宅売買の仲介を担う不動産事業者は、不動産の知識はあるが住宅の構造などについて必ずしも精通してはいない。結果、売主・買主双方にとって公平な物件情報を提供することができず、それも流通の足かせになっている。

 さて、国はこうした状況を変えるため、建築士が建物の状態を把握し、売主・買主に情報を開示する「インスペクション」を制度化した。2018年からストック住宅の売買にあたり、それを行ったかを含む情報開示を消費者に行うことが義務づけられるようになったのだ。

 義務化にあたり、国は前年の17年、「安心R住宅」制度をスタート。正式名称を「特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度」といい、現在13の団体が登録されている。そして、その登録第1号となったのが、「(一社)優良ストック住宅推進協議会」である。

大手住宅10社が一致団結

 大手ハウスメーカー10社(※)が共同で08年に立ち上げた団体で、共通の基準を満たす住宅を「スムストック」と認定している。基準を簡潔に示すと以下のようになる。

<3原則>
・住宅履歴データを有している
・50年以上のメンテナンスプログラムの運用下にある
・新耐震基準レベルの耐震性がある
<3手法>
・専門資格を持つ販売士が査定から販売まで担当
・独自の方式で査定する
・建物価格と土地価格を分けて表示する

(※)旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)、住友林業、セキスイハイム(積水化学工業住宅カンパニー)、積水ハウス、大和ハウス工業、トヨタホーム、パナソニックホームズ、三井ホーム、ミサワホーム、ヤマダホームズ

 一般的に、住宅は築後20年で売却する際、不動産評価は土地のみ、つまり建物価値がゼロになるとみなされてきた。それは建物の質が担保されないからだが、スムストックは長期メンテナンス制度と、それによる住宅履歴を軸に、一般ストックとの差別化を図っている。

 「独自の方式で査定」とはこのことを指す。要は、築20年以上の建物であっても一定の不動産価値を認めるというものである。少なくとも売主(オーナー)にとっては、一般的な評価の仕組みより有利となるわけだ。

「スムストック」のノボリ。総合住宅展示場にあることから、その狙いの1つに新築住宅市場での差別化があることが分かる
「スムストック」のノボリ。
総合住宅展示場にあることから、
その狙いの1つに新築住宅市場での
差別化があることが分かる

    そもそも、新築市場で常日頃しのぎを削る10社が一堂に会し、ストック住宅流通についての取り組みを行うようになったのはなぜなのだろうか。それは、上記のような仕組みを共通して行っていたこと、ストック住宅なら競合しないことが大前提にある。

 しかし、何より重視されたのが、新築住宅市場において今後「再流通性」が重要な要素になること。そのことを顕在化させるためには、10社がまとまることで取り組みの社会的影響度が高まるとの、思惑の一致があったからである。

 ところで、スムストックの21年度の成約件数は前年度比3.3%減の1,858棟で、08年度からの累計成約数は1万5,757棟となっている。1社あたり累計数は約1,500棟で、これは1社の年間新築戸建住宅販売棟数に満たない数値である。

 取り組み開始から10年以上経過した今でもたいした事業規模になっておらず、したがって収益も微々たるものとみられるが、それにも関わらずスムストックに継続的に取り組むのはなぜなのだろうか。

 それは、持続可能性社会実現に向けてストック住宅の、なかでも空き家にできるだけならないようにする仕組みが、今後いっそう重要性を増すとみられることが関係している。そのためには、空き家にできるだけならないようにする住まいづくりの姿勢を示しておく必要があるのだ。

 このため、この10社のなかには近年、スムストック以外に独自の取り組み・仕組みづくりを行うケースが見られるようになった。それらを紹介することで、空き家問題、ストック住宅流通についての問題をさらに深掘りする。

【田中 直輝】

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