2024年05月14日( 火 )

リジェネラティブ・デザイン論、都市の「逆開発」考察(5)

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再生設計の建築

 構造をつくっておいて、あとは自然が占領していくのに任せる。自然を模倣するバイオミミクリー(生物模倣)、空気を浄化する建物の外皮、水を浄化する構造、または炭素を捕獲する建築。人工的な仕掛けをつくっておくことで、自然が層を成してそれを進行していく。自然と闘うのではなく、また自然をつくるのでもなく、受け入れるという手法。良好なバランスとは、人間がつくる人工的なものと自然がそこを侵食していくプロセスの共同作業だといえる。

 持続可能な建築から再生可能な建築への考え方の転換は、建設業界は単に「悪いことを減らす」のではなく、「良いことをする」ことができるようになる。今日の社会を悩ませている気候と生物多様性の問題にアプローチすることで、手つかずの自然を眺めるのと違って、人は自然が環境を変えていく一刻一刻を目の当たりにできる。それがまた、人のなかの精神性を回復する力をもつようになるだろう。

 建築は何も建物に限った概念ではない。人間を含む生命体の行動・活動を補完する機能をもった“場所の提供”だと考えると、そこは快適で最適な穴倉のようなもののなかであっても成立し得る。

2038年の備え

 これからの建築におけるポイントは、「ケア」と「シェア」だ。自然や人を思いやる気持ちを皆で共有できるような建築を増やすことが、真の意味でのリジェネラティブ性の推進につながるだろう。

 生命は、海で始まったと言われている。それが陸に上がり、海中、陸上それぞれで進化が展開し、やがて森ができ、拡がっていく過程で人間は生まれた。人間は自然に埋没して生きていたのだ。自然に生かされてきたと言ってもいい。日常生活のなかに「自然」をどういうふうに取り戻していくか。

「自然とのシンクロ性」 が古くから生活に根付いているのが私たち日本人で、上でも下でもなく、西洋の縦の関係に対して横の関係、と考えてきたのが、自然とともにある我々東洋民族の考え方だった(懐かしい未来へ/本誌vol.45[22年2月末発刊])。

 「…身体性を取り戻す」とは、「自然を取り戻す」と同義なのだ。

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 「お盆や正月に帰る場所がなくなった」という人が増えているという。自然に触れられる故郷を持ち合わせていない世代が増えてきたということだ。京都大学の有識者によれば、南海トラフ地震は2038年ごろに起こるのではないかと言われている。今から15年後、もしくは15年以内かもしれない。

 避けられない予期された大災害が次の日本の転換点、もしかするとそれが南海トラフ地震になるかもしれない。都市が大打撃を受けて機能しない状況に陥れば、自分のこととして考えざるを得なくなる。日常の平穏な暮らしを維持するのに、必然的にローカルの価値は高まっていくだろう。自然観やその精神性を身近に取り込む方向へ、その大いなる転換点が有事の後に待っているのではないかと。

 関東大震災(1923年)からちょうど1世紀。「お盆や正月に帰る場所がなくなった」という人は今後、そんな場所をどこかにつくっておいたほうがいい。疎開先がないとなると、地震なんかが来るととても困ることになる。今は直接の地縁ではない“関係人口”(観光≦関係人口<移住)というコミュニティも生まれてきている。生活の基盤をどこに置くかといったときに、2番目の帰る場所がある。それだけでも、心の拠りどころになるはずだ。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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