2024年04月19日( 金 )

ガーシー議員除名 政治家としての責任放棄は許されない

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 参議院は15日の本会議で、政治家女子48党のガーシー参議院議員の除名処分を決定した。国会議員が除名になるのは72年ぶり。参議院は長期的な視野で政策を議論することなどを期待され、「良識の府」と呼ばれる。ガーシー氏を選んだ有権者の姿勢も問われている。

全会一致で除名処分

参議院 イメージ    参議院は15日、本会議を開き、当選以来国会欠席を続け「議場での陳謝」の懲罰も拒否した政治家女子48党のガーシー議員に対し、最も重い「除名」とする懲罰案を可決した。

 本会議では、まず参議院懲罰委員会の鈴木宗男委員長(日本維新の会)が懲罰案の審議経過を報告した。次いで、48党の浜田聡議員がガーシー氏の代理として弁明を行い、「少数派を排除することは許されない」などと述べた。その上で採決が行われた。

 懲罰案の賛成は235票、反対は1票。除名の可決は、出席議員の過半数ではなく、3分の2以上の賛成が必要となっている。開票後、尾辻秀久参議院議長が「国会法の規定により、除名する」と除名を宣告した。なお、採決は議員の起立ではなく、記名投票で行われた。れいわ新選組は採決を欠席した。これにより、ガーシー氏は参議院議員の資格を失った。国会への欠席が主な理由となるのは初めて。ガーシー氏の名札は本会議散会後、直ちに外された。

 ガーシー氏には当初、「議場での陳謝」が科せられていたが、訪問先のトルコから帰国せず、8日の本会議を欠席して「陳謝」を拒否。これを受けて、参院懲罰委員会は14日、国会議員の身分を喪失させる「除名」とする懲罰案を全会一致で可決していた。

 国民が最も怒りを感じる、ノーワーク・ノーペイの原則に反した歳費支給額は、参院議員の任期が始まった昨年7月以降、議員歳費や期末手当など計2,013万1,590円。今月10日には3月分の歳費129万4,000円と、調査研究広報滞在費として50万円が支払われている。除名と決まったことで、ガーシー氏は、10日に支給された歳費など16日以降の日割り分として計68万4,000円の返還を行うこととなる。また、参議院運営委員会は14日の理事会で、引退議員などを対象に交付する「前議員記章」(前議員バッジ)をガーシー氏に対しては交付しないことを決定している。

 ガーシー氏はアラブ首長国連邦(UAE)などに滞在し、昨年7月の参院選で当選後、一度も登院していない。その理由について、「帰国すれば不当逮捕の恐れがある」「当選しても帰国せず海外で活動すると公約に掲げて当選した」などと主張している。国会議員としての重責を軽視しているとしか思えない態度である。国会議員の除名は1951年以来72年ぶりで、現行憲法下では3人目となる。

選んだ有権者の責任

 51年の除名とは、日本共産党の川上貫一衆議院議員に対するそれである。アメリカなど西側陣営との単独講和ではなく、旧ソ連など東側陣営を含めた全面講和を主張し、社会主義革命を称賛したなどとして保守系会派から懲罰動議が出されたが、川上氏は反論を展開。陳謝を拒否し、除名が行われている。

 51年当時、日本はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の支配下にあり、朝鮮戦争の真っ只なか。戦争特需による好景気にわき、革新勢力に対する警戒感が高まった時期にあたる。国家主権が制限されるなかで、GHQを忖度した面があったのは間違いない。川上氏の主張の是非はおくとして、占領統治という政治的背景のもとで、旧ソ連などとも講和すべきとの主張を国会で堂々展開した氏と、国会を欠席したまま、議員の仕事である議論に参加しないガーシー氏とでは、比ぶべくもない。

 与野党問わず現職議員からも厳しい声が聞かれるなか、政界OBである古賀誠元自民党幹事長は次のように発言していた。

「もうコメントのしようがないですね。何でこんな人が当選するのか、どういう経過で当選したかということすら私はよく存じ上げませんが、本当に国会という重責の議席、バッジの重さっていうね。この国や有権者の皆さん方に何をやりたくて、どういう使命をもって実行されたか全然わからない」(TBS NEWS 3月9日「国会トークフロントライン」)。

 忘れてはならないのは、ガーシー氏を選んだのは国民であるということだ。旧NHK党は、政党票834,995票を獲得している。ガーシー氏の本名を書いた個人票は287,714票で、個人票最多の氏が当選した。

 「NHKをぶっ壊す!」との合言葉で知られる立花孝志前党首は、一連の騒動の責任を取り辞任した。立花氏はNHK受信料について広く問題提起した功績があり、民放などでの党首討論などを見ると、政策について語れる見識もある。しかし、知名度アップを狙って党名を次々変えるなど、奇策を用いたやり方には疑問の声も少なくない。

 ガーシー氏は昨年8月、幻冬舎から初著書『死なばもろとも』を出版するなど、芸能界などの裏話を暴露するインフルエンサー、ユーチューバーとしての活動で知られるようになった。そういった活動を一個人として展開するのは自由だが、議員の責務とは何かをまず考えるべきだろう。正当な理由がないまま登院せず、最後まで反省する姿勢がないことは、責任放棄にほかならず許されない。

 ただ、除名については懸念もある。出席議員の3分の2以上の賛成で決める除名処分は、多数派による少数派に対する抑圧につながるおそれがあり、今後も慎重な判断が求められる。

【近藤 将勝】

関連キーワード

関連記事