2024年04月20日( 土 )

ウクライナ戦争終結に向けて、国連の役割を問い直す(1)

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元国連大使 元OECD事務次長
谷口 誠 氏
名古屋市立大特任教授
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏

 終わりが見えないウクライナ戦争が続くなか、国連はどのような役割をはたすべきか。G20の新興国の勢いが増すなか、米国、ロシア、中国、「ポストチャイナ」と呼ばれるインドはウクライナ問題にどのように関与していくのか。国際経験が豊富な元国連大使の谷口誠氏と日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏が対談した。

左から、元国連大使 谷口 誠 氏、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長 中川 十郎 氏
左から、元国連大使 谷口 誠 氏、
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長 中川 十郎 氏

国連のはたすべき役割

 ──ウクライナ戦争は終結する気配がありませんが、国連は戦争の終結に向けてどのような役割をはたすべきですか。

 谷口氏(以下、谷口) ウクライナ戦争は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対してロシアが危機感を抱いたことが原因だと言われています。しかし、ロシアにとってNATOの東方拡大は、以前から安全保障上の問題でした。

 1994年にハンガリーのブタペストで開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)の会議に、OECDを代表して参加しましたが、当時のフランスのミッテラン大統領や米国のクリントン大統領がロシアのエリツィン大統領と話していたときは和気あいあいとした雰囲気で、お互いに信頼関係がありました。当時の欧米とロシアのリーダーたちの外交は成熟しており、今の欧米やロシアの政治家の外交の姿勢とは大きな差がありました。

 現在の欧米の政治家とロシアの政治家には、互いに信頼関係がないことが問題です。ウクライナ問題では、ロシアのプーチン大統領を責めるだけではなく、欧米の政治家とロシアの政治家がより優れた外交を行うことが必要です。

 欧州とロシアの関係が悪化し、プーチン大統領が日本との関係に注目したため、安倍元首相はプーチン大統領と27回も会談できたのでしょう。

 日本はウクライナ戦争に対して、EUやG7と同じ態度を取るのは賢明ではありません。G7はフランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7カ国とEUが参加していますが、岸田首相はG7と一緒になってロシアに圧力を掛けています。欧州での政治の問題は日本にとって遠く感じられますが、したたかな外交が必要です。日本の対応に注目が集まっています。

 G20に参加しているインドや中国の人口が増えて経済が発展したため、欧米が中心のG7のもつ力は昔に比べて弱まりました。岸田首相はこれまでG7が担ってきた役割がG20に移りつつあるという認識をもつことが必要です。

 世界の金融の中心であるスイスの国際決済銀行(BIS)も、総支配人にメキシコのカルステンス元中銀総裁が就任するなどトップはもうG7加盟国ではありません。

日本の外交の問題点

 中川氏(以下、中川) G7の力が落ちた一方で、インドの国内総生産(GDP)は昨年22年に旧宗主国の英国を抜き、世界5位に躍進。25年にはドイツ、27年には日本のGDPを抜き、米国、中国に続く世界第3位の経済大国になると予測されています。日本はG7ばかりに注目する時代錯誤的な考え方を改めて、時代の流れを読むことが求められています。

 今後発展するASEANや、目下話題になっている「グローバル・サウス」にも目を向け、これらの発展途上国との関係強化にさらに力を注ぐべきだと思います。

 谷口 安倍元首相が呼びかけた「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想は、中国を封じ込める政策です。バイデン首相も対中国政策として「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を呼びかけ、14カ国が加盟しています。

 ある会合で、外交関係者に「自由で開かれたインド太平洋とインド太平洋経済枠組みはどう違うのですか」と尋ねると、彼はニヤッと笑って「日本の構想のアイデアが盗まれたのではないかという質問ですか」と言いました。続いて、「この枠組みの目的は、輸出国が他国の市場に参入しやすくすることですよ」と自信なさそうに言いましたが、本当のところ答えに困っていました。米国はインドの重要性に気づいて、日本の構想を真似したのでしょう。

 多くの人が「日米同盟があるから、日本は米国に守られている」と考えていますが、今はそういう時代ではありません。日本は経済に重点を置いて、防衛を米国に任せるという「吉田ドクトリン」が、かつての日本の外交の路線でした。しかし、外交の現場で長く活躍してきた人も、日米同盟が永遠に続くとは考えていません。当時活躍していた人々が外交の現場から引退したため、日米同盟は続いていてもその本質は変わっています。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】


<プロフィール>
谷口 誠
(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に『21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦』(早稲田大学出版部)、『東アジア共同体 経済統合の行方と日本』(岩波新書)など多数。


中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会学術顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

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