消費税課税をめぐる「ADW事件」の顛末(後)
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仕入税額控除とは
消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して、広く公平に課税されますが、生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、納付する消費税は、「課税期間中の課税売上に係る消費税額」から「課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額」を控除して算出します(仕入税額控除)。
そして仕入税額控除の計算方法は、課税売上割合によって異なり、以下の計算式で算出します。
課税売上割合=課税売上高(税抜)÷{課税売上高(税抜)+非課税売上高}
たとえば、不動産販売業者が、
・ 建物販売の売上高3億円(課税取引)
・ 土地販売の売上高2億円(非課税取引)であった場合、課税売上割合は以下の通り60%となります。
3億円÷(3億円+2億円)=60%課税期間中の課税売上高が5億円以下で、課税売上割合が95%以上の場合には、課税期間中の課税売上に係る消費税額から、その課税期間中の課税仕入れなどに係る消費税額の「全額控除」ができます。
それ以外の場合には、課税仕入れなどに係る消費税額の全額を控除するのではなく、課税売上に対応する部分のみを控除することになり、「個別対応方式」と「一括比例分配方式」のうちどちらかを選択して計算を行うことになります。
ADWは「個別対応方式」を選択していましたが、この方式では課税仕入れを、次の3つに区分し、仕入税額控除の金額を個別に計算することになります。
①課税売上にのみ対応する課税仕入の消費税額
②非課税売上にのみ対応する課税仕入の消費税額
③課税売上と非課税売上に共通して対応する課税仕入の消費税額この方式で仕入税額控除額は、①+(③×課税売上割合)で算出することになります。
本件では、ADWは本件仕入を①であると判断して全額控除対象として申告し、課税庁は③であると判断して課税売上割合を乗じた額のみを控除できるとして、更正処分などをしたということになります(解釈の詳細は省略します)。
なお、本件紛争の背景には、消費税がスタートした当初から、販売用に仕入れた収益不動産は全額仕入税額控除の対象になっており、ADWもこの見解に従ったにもかかわらず、更正処分を受けたという事情があるとされています。この点については、過少申告加算税の賦課決定処分に関して問題になっています。
本件と同様の問題についての「ムゲンエステート事件」の高裁判決においても、過少申告加算税を賦課した点については、「税務当局は、05年ごろには、97年事例の見解を変更したことがうかがわれるが、税務当局として、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するような必要な措置を講じているとは認められない」と指摘。ムゲンエステート社による過少申告については「正当な理由」があると認めて、賦課決定処分を取り消す判断をしていました。
しかし、この点について最高裁(本件およびムゲンエステート社の件ともに)は、「税務当局は、遅くとも05年以降、本件各課税仕入と同様の課税仕入を、当該建物が住宅として賃貸されること(その他の資産の譲渡等に対応すること)に着目して共通対応課税仕入に区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは、本件各申告当時、税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例および下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得たものということができる」として、ADWが過少申告したことに「正当な理由」はなく、賦課決定処分も適法であるという判断をしました。
なお、21年度の消費税法改正により、事業者が国内において行う居住用賃貸建物(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で一部の例外を除くもの)に係る課税仕入等の税額については、仕入税額控除の対象としないこととされています。そのため、本件で問題となった点は、すでに法律で解決されています。
(了)
<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所
所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/
<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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