2024年04月30日( 火 )

楽天G、3,300億円増資で勝負~筆者もにわかに応援したくなってきた!(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

楽天モバイル、「最強(2流)プラン」の意味(つづく)

楽天グループ イメージ    どういうことかというと、KDDIのローミングサービスで提供される周波数帯は800MHzのみである。これは楽天が喉から手を出して求めていたプラチナバンドである。今までも楽天モバイルへKDDIから提供されていたローミングサービスはプラチナバンドであるが、今まで提供されていたのは楽天の基地局がカバーしきれないエリアに限られていた。

 今回あらたにローミングサービスが提供されることになった大都市圏は楽天モバイルの電波エリアではあるものの、建物などの障害物がある環境では通信が不安定であった。プラチナバンドは電波が減衰せずに建物内に届いたり障害物があっても回り込んだりする力が強い。今後、大都市圏でもKDDIのローミングサービスによってプラチナバンドが提供されることになれば、楽天モバイルの利用者は安定した通信状況を確保できるようになる。

 だが、既存3社と異なるのは、KDDIローミングサービス時には800MHz(プラチナバンド)でしか通信ができないということだ。

 プラチナバンドは接続力が強いが、低周波数であるため通信速度が遅い。一方、高周波帯の1.5GHz、2.5GHz、3.5GHzなどは通信速度が速いが障害物に弱く、通信が安定しない。それぞれに強みと弱みがあるわけだが、通信時にたとえば800MHzと2.5GHzを同時に使うことができれば、安定性が強いプラチナバンドと、高速通信ができる高周波数帯それぞれの強みで補完し合いながら、できる限り安定した高速通信を実現することができる。このように複数の周波数帯を束ねて同時に通信を実現する技術がキャリアアグリゲーションである。既存3社はいずれも、プラチナバンドを含む複数の周波数帯を割り当てられているため、キャリアアグリゲーションによるサービス提供が可能である。

 しかし楽天は、自社回線ではプラチナバンドをもたず、KDDIのローミングサービス利用時はプラチナバンドしか提供してもらえない。つまり、キャリアアグリゲーションによって、プラチナバンドと高速周波数帯を束ねた通信での安定性と速度を補完し合う通信サービスは提供されないのである。また、従来から指摘されているように、KDDIのローミング回線と楽天回線への切り替えもスムーズにいかない場合がある。

 こうした事情から、通信の品質は決して既存3社に肩を並べることはない。それが楽天の新プランの実態であり、「最強(2流)プラン」なのである。

 だが「最強(2流)プラン」にも需要はあるはずだ。通信量無制限を使いたいが、いつでもどこでも最高の通信品質を保証する既存3社のサービスは高額で、そこまで必要ないという人はいるだろう。楽天モバイルは、自社回線エリアではそこそこ高速のサービスを提供してくれつつ、自社回線が弱いエリアでもKDDIのローミングで最低限の接続は提供してくれる。これで十分というユーザーは必ずいる。

 ここに楽天モバイルの既存3社に対する住みわけと、2流ブランドとしての立ち位置が明確化されている。楽天モバイルはついに自分の居場所を見つけたのである。

今さら、楽天モバイルを応援したい気持ちが出てきた!

 決算発表前の11日の記事(楽天G、明日四半期決算、モバイルの大都市部ローミング利用で将来を占う)でも書いたことだが、楽天モバイルの命運は、大都市圏エリアにおけるプラチナバンドの間借り実装によって収益化のメドを付けることができるかどうかにかかっている。

 もし収益化のメドが見えないようであれば、もう何をやってもダメということになり、モバイル事業の命運は尽きたと見なされることになろう。しかし、「最強(2流)プラン」がユーザーの支持を得て、モバイル事業の収益化のメドを付けることができれば、楽天モバイルは楽天経済圏ならびに優秀な他部門の付加価値を合わせて、さらなる財務支援につなげて命脈を保つ可能性が出てくる。

 また、既存3社としては、楽天モバイルが当初求めていたプラチナバンドの再割り当てという迷惑な状況を回避して、楽天モバイルへのローミングサービス(あるいはそれに代わる新しいインフラシェアリング)で手打ちにすることができる。そして、総務省も楽天の参入を許した体面を保つことができる。ここが落としどころだ。

 さらに、ユーザーにとって格安の2流プランの選択肢が増えることが朗報であるだけでなく、今後、携帯電話通信網のインフラシェアリングの流れが勢いづき、電波利権にメスが入ることにつながるかもしれない。

 という訳で、楽天モバイルはここで社会的経済的な存在意義を見出しつつあり、筆者もにわかに同社を応援したい気持ちが芽生えてきたことを、正直に告白したい。

 ただし、下記の過去記事で取り上げた問題は別である。

楽天モバイル、九州の孫請け企業救済に差別待遇?
拝啓、楽天モバイル様~御社の社会的責任を今こそ実現してください

 楽天モバイル様! 今後、御社のモバイル事業を気持ちよく応援させていただくために、ぜひ、孫請け企業への未払い問題を解決してください。

(了)

【寺村 朋輝】

(前)

関連キーワード

関連記事