2022年06月27日( 月 )
by データ・マックス

18歳選挙権は「徴兵」への序章である!

益川敏英著「科学者は戦争で何をしたか」(集英社新書)

 名古屋大学には『平和憲章』というものがある。1980年初め、まだ世界が冷戦の只中にあった頃、名古屋大学の学生と教官たちが、平和とは何か、戦争とは何か、何年も熱い議論を闘わせて、1987年に制定した平和への誓いである。今、この『平和憲章』が中傷され、大学の内外から攻撃を受けている。
 2014年6月の国会の文部科学委員会では、日本維新の会(当時)の議員が名古屋大学を「国立大学として交付金を受けているのに、軍学協同を拒否する憲章を堅持しているのは何事か」と非難した。

先ず人間として、人類を愛さなければいけない

 著者益川敏英氏は素粒子論が専門の科学者で2008年のノーベル物理学賞の受賞者である。現在は名古屋大学特別教授・素粒子宇宙起源研究機構長で、『九条科学者の会』の呼びかけ人でもある。

 益川氏は本書で、自身の戦争体験とその後の反戦活動を振り返りながら、科学者が過去の戦争で果たした役割を詳細に分析している。ノーベル賞を授与された研究は人類の発展のためにも殺人兵器にも使用可能な諸刃の技術だ。科学に携わる人間ならばそのことを身に染みて感じていなければいけないと説く。先生の研究室の壁には、恩師である理論物理学者の坂田昌一先生の書「科学者は科学者として学問を愛するより以前に、先ず人間として人類を愛さなければいけない」が掛けられている。
 しかし、本書を読むとよく分かるのだが、世界のノーベル賞受賞者で益川先生のような方はむしろ少ない方で、多くはこれまでの第1次世界大戦(大量破壊兵器の実験場と化し、犠牲者は1,000万人)、第2次世界大戦などの大量殺戮などで積極的かつ重要な役割を演じている。

安倍政権において、軍学・産学協同が加速した

 「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」(フランスの生化学者・細菌学者のルイ・パスツール)は有名な言葉である。国家間の緊張が高まり、戦争勃発ということになれば、科学者も否応なく国策を支援する組織に半強制的に組み込まれる。日本でも、軍国主義への傾斜を強める中で、「理化学研究所」(「理研」の前身)や「日本学術振興会」もその研究は軍事目的のために取り込まれていった過去がある。

 今、安倍政権が発足してから軍事研究が加速している。政府は軍事転用が可能な技術を大学や民間企業から発掘して、資金援助を行い、共同研究に持って行こうとしている。
 予算が大幅に削られた大学や民間の研究施設にとって、国策のために防衛省から出た金であろうと、研究が続けられるのなら背に腹は代えられないと誘いに乗る大学や研究機関は少なくない。しかし、資金援助というエサで研究者を釣るのは、ある意味間接的な動員である。そして、すべて国民の“血税”であるが、防衛省の予算は年々増額されている。

 さらに問題なのは、現代では科学のブラックボックス化が進んでいることである。しかも、「秘密保護法」という法律のもとで、どんな技術が軍事に応用されるか、一般の人はおろか、開発に携わっている科学者でさえ、蚊帳の外に置かれる危険性がでてきた。そして、その裏には巨大な資本が動いている。つまり、科学政策の中に「市場原理」が深く入り込み、研究者たちは、彼らのマネーゲームの中で翻弄されているのだ。

安倍政権が18歳選挙権にする本当の理由とは?

 選挙権や国民投票法の年齢引き下げと聞くと、どうも“きな臭い国策”を感じる。それはアメリカに先例があるからだ。
ベトナム戦争の渦中(1971年)に、アメリカはそれまで21歳以上だった選挙権付与を18歳まで引き下げた。これは当時の徴兵制と密接に関わっている。選挙権のない若者を戦地に送り、戦死するリスクを負わせるのは、参政権がないのに理にかなわないという議論が当時のアメリカにはあったからだ。それならば、選挙権を18歳まで引き下げて参政権を持たせれば、堂々と「徴兵」できると考えたのだ。選挙権付与年齢の引き下げは長引くベトナム戦争で、派兵人員を増やすためのアメリカの国策だったわけである。

危機感を抱く燃えたぎるエネルギーが満ち溢れる

 全ての国民に“今”読んでもらいたい本である。筆者は益川氏とは面識がない。TVで何度か見た益川氏はいつも笑顔で、小柄で温厚な、どちらかと言うと世俗とは関係のないいわゆる「科学者」のように見えた。本書を読んで本当に驚いた。この本には、解釈会見で「戦争する国」へと突き進む安倍政権に危機感を抱く益川氏の燃えたぎるエネルギーに満ち溢れている。

 益川氏は5歳の時に名古屋の自宅の瓦を破って目の前に焼夷弾が落ち、死を覚悟した体験を持っている。その時は、奇跡的に不発弾で九死に一生を得たが、その後家を飛び出し、火の海となった名古屋の街をリヤカーで両親と一緒に逃げまどった。「平和」を願う気持ちについては筋金入りなのである。
 
 益川氏が本書の中で、表に裏に繰り返し唱えている文言がある。それはこの国の未来は“今が正念場”であるということだ。しかし、そのうえで、悲観は一切していない。それは、今政治離れしている若者や、政治に無関心な一般の人から、政治がある時点で逸脱した時、必ず強い反対の声「それはおかしいよ。それはやり過ぎだろう」が上がることを信じているからだ。そして今その時が近づいていると。

【三好 老師】

 

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