2024年05月01日( 水 )

【鮫島タイムス別館(16)】「水と油」の連携と野党諸党の「ガチ勝負」

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 立憲民主党の支持率が日本維新の会を下回る状況が定着し、次の衆院選では維新が野党第一党の座を奪うことが有力視されている。維新の馬場伸幸代表は「立憲をぶっ潰す」と公言し、打倒自民よりも打倒立憲を優先して野党第一党にのしあがることを最優先目標に掲げている。

 立憲の衆院議員2人は早くも立憲を見切って離党し、維新からの出馬が取り沙汰されている。立憲支持者は「維新は自民よりひどい」、維新支持者は「立憲は自民よりひどい」と罵り合い、どう見ても自公与党が漁夫の利を得る様相だ。

 このままでは次の衆院選は「政権を賭けた与野党の戦い」ではなく「野党第一党争奪戦」となる。立憲と維新の小競り合いにどちらが勝ったところで、自公政権は安泰だ。内閣支持率が続落しても自民党内に危機感は広がらず弛緩しきっている。

 それでよいのか。1つの議席を争う衆院選小選挙区において、与野党一騎打ちの対決構図をつくり、政権選択選挙の態勢を整えるのが、野党第一党の最低限の責任ではないのか。このままでは衆院選は白けて投票率は落ち込み、自公政権は楽勝だろう。今の政界を覆う閉塞感の最大の要因は、自公与党と互角に戦う態勢づくりを怠っている野党の無為無策にあるのだ。 

維新・橋下氏と前明石市長・泉氏、「口撃」を経て連携なるか

 そんな思いから7月15日に東京・池袋で開催したのが『橋下徹×泉房穂 新党旗揚げか!? シナリオなき生激論!』(主催・講談社)だった。維新創始者の橋下氏とこども政策で脚光を浴びた前明石市長・泉氏。水と油の2人は司法修習時代からの旧友だ。私がMCを務めて「激論」を交わしてもらい、自公と互角に張り合う新党結成への道を探ろうという企画だった。

 前評判は散々だった。泉氏や私のもとには「橋下氏とやるのなら応援しない」と反発する声が殺到し、野党支持層の「維新アレルギー」の強さを実感した。さらに橋下氏が盟友の松井一郎・前維新代表と立ち上げたコンサル会社を泉氏がツイートで批判したことに橋下氏が激怒。本番前の打ち合わせは見送りになり、控室もフロアを別々にして、緊迫感がみなぎるなかで幕を開けたのである。橋下氏は本番で泉氏を激しく「口撃」し、立憲を猛烈に批判し、トークイベントとしては異例の「ガチバトル」となったのだった。

 だが90分の議論を経て、2人の共通点も浮かび上がった。自公与党に対抗する強力な野党第一党の誕生が不可欠であり、次の衆院選前に全国の小選挙区で野党候補を1人に絞り込む「予備選」を実施すべきだというのだ。

 最後に会場と配信で参加した皆さんに「橋下・泉新党に期待する?しない?」で投票してもらったところ、6割以上が「期待する」に投じた。この結果は橋下氏も泉氏も意外だったようで驚いていた。激しい応酬を目の当たりにしながら、それでも水と油の2人が連携して新党を旗揚げすることに期待が集まったのは、「自民一強」をぶち壊してほしいという欲求が渦巻いていることの証しだろう。

立憲と維新、「ガチンコ準決勝」で野党候補の一本化図る

 橋下氏はこの夜、自らのネット番組に立憲の小沢一郎氏を招いて「立憲と維新の予備選実施」で意気投合した。維新の馬場代表は打倒立憲を優先し、予備選に慎重だ。小沢氏は野党候補の一本化を立憲執行部に迫っているが、泉健太代表は煮え切らず右往左往している。そこで橋下氏と小沢氏という異色の2人が手を握り、立憲と維新の双方の執行部に対して、いわば「場外」から予備選を迫ったのだ。

 ネット上ではやはり野党支持層から猛烈な小沢批判がわきあがった。「自民よりひどい維新(橋下氏)と手を組むなどあり得ない」というわけだ。だが、2人が番組で語った予備選の具体像は十分検討に値すると私は思った。その内容を紹介しよう。

 最初に重要なのは、予備選は立憲と維新が「選挙協力」するために行うのではなく、本番の衆院選(決勝)の前に各選挙区で立憲候補と維新候補の弱い方をふるい落として自公に挑む野党候補を1人に絞り込む「準決勝」であるということだ。予備選では一切遠慮せず激しく論争し、相手を面罵してもよい。いわばガチ対決である。選挙協力を前提に双方が政治理念や主要政策を曲げれば「野合」と批判され逆効果だ。

 さらに斬新なのは、予備選(準決勝)に敗れた方は本番の衆院選(決勝)で勝った方を応援する必要はなく、自公候補の応援に回っても仕方がないと割り切るというのである。

 予備選の目的は野党候補を1人に絞り込み、与野党一騎打ちの構図をつくり出すことだ。立憲と維新の支持率はどちらも一桁台であり、双方の支持層を固めただけでは「決勝」で自公候補を倒せない。むしろ自公政治に不満を抱きつつも野党がバラバラであきらめている圧倒的多数の無党派層の票を「準決勝の勝者」に集約することに狙いを定める。立憲と維新のコア支持層が予備選でケンカして敗れた方が離れることで失う票よりも、圧倒的多数の無党派層の関心を引き寄せて新たに獲得できる票のほうがはるかに大きいという発想である。

 小沢氏と橋下氏は予備選の方式について、党員投票ではなく、一般有権者を対象とした世論調査方式がいいとの認識でも一致していた。私はこの構想に概ね賛成である。れいわ新選組や共産党も予備選に乱入すればどうか。強い候補さえ用意すれば、予備選で立憲や維新の冴えない現職議員たちを打ち負かすことも十分に可能だ。

 そして何より、この予備選構想は自公与党の脅威となろう。橋下氏は嫌いだ、小沢氏は嫌いだ、というだけでこの斬新なアイデアを葬り去るのはもったいないと思うのだが…

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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