2024年04月29日( 月 )

福岡・博多の歴史・文化を活かしたまちづくりの提言~まちづくりの視点で歴史・文化資産の利活用を~

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福岡商工会議所
副会頭 川原 正孝 氏

福岡商工会議所 副会頭 川原正孝 氏

 10月17日、福岡商工会議所(谷川浩道会頭)は、福岡・博多の歴史文化を活かしたまちづくりに関する15の提言をまとめて発表した。今回の提言を取りまとめた「歴史・文化を生かしたまちづくり懇談会」の座長・川原正孝氏((株)ふくや代表取締役会長、福岡商工会議所副会頭)に、提言をまとめるにあたっての福岡・博多に対する熱い想いを聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉 直)

 ──今回の提言を取りまとめるに至った理由を聞かせてください。

 川原正孝氏(以下、川原) 福岡市には都市として魅力的なものがたくさんあります。おいしい食べ物、プロ野球、プロサッカー、博多座、能楽堂もあり、そのほかにも多くの面で福岡市は、地方都市のなかでも内外から高い評価を得ています。そのような福岡市の由来として、歴史的に古代から大陸との交流の窓口として繁栄し、個性的で豊かな歴史・文化を培ってきたという経緯があります。

 ところが、そのように大変誇らしい歴史と、貴重な歴史的・文化的資産を市内に多くもちながら、必ずしもまちづくりに十分に活かしきれていないと考えています。また、市民である私たち自身がその魅力に気づいていないのではないでしょうか。貴重な歴史と文化を後世に継承するために、また、市民自らの手で歴史的・文化的資産を活かして福岡市をより良い街にするために、今回、提言をまとめて福岡商工会議所から発表することになりました。
 提言の一部は10月10日に、福岡商工会議所の谷川会頭から高島宗一郎福岡市長へも提出されました。

 ──提言の概要を聞かせてください。

 川原 提言は全部で15、大きく分けて4つです。大別の1つ目は、市⺠主体のまちづくりの原点となる「郷土愛の醸成」を目的とした提言1~6です。歴史・文化資産をまず市民自身に親しんでもらうための施策を提言しています。2つ目は、市⺠が誇りをもてるシンボル(ランドマーク)づくりに向けた提言7~9です。これは古代から近世までの福岡市の歴史を代表する史跡の利活用について提言しています。これらについては、実現に向けた検討に早急に取りかかりたいと考えています。3つ目は、歴史・文化資産を活かす多様な専門人材を育成するための提言10~12です。旅行者・訪問者が訪問した地域の歴史・文化を詳しく知るためには、レベルの⾼い観光ガイドの存在が欠かせません。専門性をもつプロの観光ガイドの育成と、ボランティアガイドの拡充の必要性を提言しています。4つ目は、官⺠⼀体となった歴史・文化を活かしたまちづくりに向けた提言13~15です。官⺠連携して各種データの継続的な収集・分析、それに基づいた戦略策定と、地域共通のビジョンを共有することを提言しています。

ご当地ナンバー「博多」

 ──目玉となる提言はありますか。

 川原 1つはご当地ナンバー「博多」の導入です。現在福岡県内で登録された自動車のナンバープレートの地名表示は、運輸支局と登録事務所ごとに「福岡」「北九州」「筑豊」「久留米」の4種類があります。ここにご当地ナンバーとして「博多」を導入することを提言しています。ただ、ご当地ナンバーの区分けは原則的に市町村(東京23区)ごととなっています。これを福岡市内の区によって「福岡」と「博多」にナンバーを分けることが可能なのか、行政的になかなかハードルが高いとも思われますが、行政にはぜひ検討をしてもらいたいと考えています。また、ご当地ナンバーは、ナンバープレートのデザインにも趣向を凝らすことができるため、さまざまなアイデアによる地域の盛り上がりが期待できます。前向きに進むように取り組みたいです。

 ──すぐにでも取り掛かりたい提言として挙げた3つについて。

 川原 提言7〜9は、福岡市の歴史的経緯を象徴する史跡の利活用についての提言ですが、法令上の規制にかかわり、行政との調整など長期的な視野で実現に向けた活動が必要となりますので、それを踏まえて早急に検討から取りかかる必要があります。

鴻臚館跡の整備・活用

 ──それぞれの提言の意義を教えてください。

 川原 福岡城の史跡内にある鴻臚館は、古代(飛鳥、奈良、平安時代)の外交施設で、中国大陸や朝鮮半島からきた使節団の迎賓館、また日本から大陸・朝鮮半島へ向かう遣唐使・遣新羅使の宿泊所としても使用されました。鴻臚館はほかにも平安京(京都)・難波(大阪)にも設けられたようですが、遺跡として確認されるのは福岡の鴻臚館のみです。古代の大陸・朝鮮半島との窓口としてこの地域の重要さをあらわすとともに、現在まで続く福岡・博多の歴史的由来の深さを知らせる大変貴重な史跡です。

 福岡城の史跡内にあるため、福岡城の来訪者に福岡市の重層的な歴史の深さを理解してもらう格好の遺跡ですから、遺跡の調査や、往時の姿を復元した展示などを早急に進めてほしいと考えています。

冷泉小学校跡地の利活用

 川原 次に、博多区の冷泉小学校跡地で見つかった石積遺構です。これは博多が日宋貿易で栄えた11世紀~12世紀ごろの港湾施設の護岸の石積みです。中世の港の遺構としては国内最大級であると聞いています。遺跡の周囲では外国人街を形成していた宋人の生活の遺物も多数出土しており、国際貿易都市として栄えた博多を物語る貴重な遺跡です。これをぜひ、公開できるように整備してほしいと考えています。

石積遺構
石積遺構

 一方で、遺跡が出た地域は1つの課題を抱えています。ハザードマップによると、周辺地域は高潮ならびに河川洪水による浸水地域にあたりますが、災害時の避難施設が不足しています。遺跡の場所は博多の一等地であり、できるかぎり土地を有効活用してもらう必要があります。そこで、たとえば遺跡の上に施設を建てて床面を透明にして遺構が見学できるようにしつつ、災害時には避難所として機能するような施設の建設を検討してほしいです。平時は遺跡の見学とともに、中世博多商人の大陸交易や、外国人街における宋人の暮らしぶりなど、現代につながる商人の街の活気ある姿をダイナミックに展示してもらいたいです。

※10月20日に開かれた国の文化審議会で答申され、「博多遺跡」として国史跡に指定される見込みとなった。 ^

福岡城の天守「復元」

福岡城本丸、中央に天守台(出典:fukuokajyo.com)
福岡城本丸、中央に天守台(出典:fukuokajyo.com

 ──もう1つの提言である福岡城天守の「復元」ですが、資料が不足しているために難しいと聞いています。

 川原 福岡城の天守があったことをうかがわせる記述が他所の古文書などにあるそうです。しかし、複数残された福岡城の絵図にはいずれも天守の描写はなく、実在した歴史的建造物について厳密な復元を規定する文化財保護法と文化庁の基準によれば、福岡城の復元は難しいといわれています。

 しかし、福岡城は史跡であると同時に、現在、150万人以上の市民が暮らし、コロナ禍前は年間2,000万人の観光客が訪れていた都市の中心にある公共資産です。それは、福岡市民にとっての自分たちが暮らす街の景観の一部であり、福岡市民が自分たちの街の姿を思い浮かべるときのシンボルになることができる可能性をもっています。そのような歴史資産を利用せず空き地のままにしておいてよいものかどうか、法令上の規制だけに基づいて「復元できない」と結論づけるべきかどうか、市民の間で十分に考える必要があるのではないでしょうか。福岡城は市民にとって大切な「まちづくり」の対象の一部です。その利活用と景観を決定するのは最終的に市民ではないでしょうか。

 ──天守を復元するには膨大な資金が必要になると思われます。

 川原 天守の復元には現状で法令上のハードルがありますから、資金を最初からすべて国をあてにする姿勢ではうまくいかないと思います。福岡のまちづくりの問題として、まず地元企業が中心になって資金を集める。そのような地元のやる気を見せてこそ、国も動きますし、説得する力にもなります。

古代から現代に至る福岡・博多の魅力

 ──鴻臚館、冷泉小学校跡地遺跡、福岡城の天守、これらの整備はどのような効果をもちますか。

 川原 先にも述べた通り、博多は大陸との交易の窓口として、古代・中世から繁栄してきた都市でした。その伝統は今でも商人の街として博多に根付いています。そして近世になると、黒田長政が福岡城をつくって以来、福岡は黒田藩52万石の城下町として栄え、その直前に豊臣秀吉が博多の街を復興させ、福岡・博多のまちづくりの基礎がつくられました。この3つの遺跡は、異なる時代の福岡・博多の歴史を象徴し、今日の福岡市が成立した歴史的背景を、時代を追って物語ります。よって、これらを整備することが、福岡市民の自分たちの街の歴史・文化に対する理解を助けるとともに、外部に対する福岡市の魅力をますます高めるものになると考えています。現在残されているその他の歴史・文化資産とともに後世へ残すために、今のタイミングで取りかかる必要があると考えます。

鴻臚館建物想像復元イメージ(出典:fukuokajyo.com)
鴻臚館建物想像復元イメージ
(出典:fukuokajyo.com

都市型ビーチを活かした新たな観光都市福岡

 ──ほかにも注目の提言はありますか。

 川原 ある方が、ヨーロッパからきたお客さまに福岡市の魅力を体験してもらおうとして、おいしい食事処などに連れ回していたらクレームを言われたという話を聞きました。「福岡は海に近いから、海に連れて行ってもらえるものだと思っていた」と。たしかに、ヨーロッパの観光地では、たとえば地中海に面したフランスのニースなどは、ビーチでのんびりと時間を過ごすことが大きな魅力の1つとなっており、ヨーロッパ型のバカンスの過ごし方として好まれています。田舎の海で過ごす海水浴も良いですが、都会のそばの美しい海辺で日中はのんびり過ごし、日が暮れるとすぐそばの都会で食事したりさまざまに愉しむことができる、都市型のビーチでこそ可能な観光があります。福岡市は国内の他の大都市では珍しく美しい浜辺がすぐそばにあり、ニースのようにヨーロッパ型のバカンスを提供できる条件を備えています。これを新しい福岡市の観光の可能性として考え、積極的に整備するための行動を起こす必要があると考えています。

ももち浜

【文・構成:寺村 朋輝】

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