2024年05月20日( 月 )

持続的な森林経営、事業の集約化が必須(後)

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浮羽森林組合
代表理事組合長 岩佐 達郎 氏

浮羽森林組合 代表理事組合長 岩佐 達郎 氏

 全体として厳しい事業環境に置かれているといわれる林業だが、状況は地域によってさまざまで、一様に語ることはできない。うきは市と久留米市の森林を管轄する浮羽森林組合は、たとえば若年層の入職などといった点で健闘している。同組合の代表理事組合長・岩佐達郎氏に、組合の現状と今後の方向性について話を聞いた。

大径木の活用に課題

 ──そうした支援策があり、環境への貢献も期待される一方で、林業の再生はなかなか進まないのが実状です。

 岩佐 かつて輸入外材に押され、スギ原木価格は平均7,000円台と採算を大きく割り込む状況となって、これが林業の衰退の大きな要因の1つになりました。ただ、2020年のウッドショックでは最高で2万円台となりました。現在も1万3,000~4,000円台となっています。この価格がキープできるようでしたら、事業を採算ベースに乗せることができると考えています。

 原木市場での競りに依存するばかりでは、今後の持続的な経営は望めません。そこで、可能な限り高額で原木を販売するための取り組みを強めているところです。具体的には、新たな取引先として大規模製材工場との関係づくりを強めたいと考えています。彼らは、適切なタイミングで安定的な量を確保することを重視していますから、それにできるだけ対応できるよう、原木を伐採、仕分けし、製材として供給できるシステムをいかに構築していくか、現在検討を行っています。

 もう1つ、大きな課題となっているのが「大径木(だいけいぼく/一般的に直径30cm以上)」の存在です。国産材価格が低迷したことで、植林後50年以上が経過し伐採適齢期を過ぎたスギやヒノキが数多くあります。丸太生産の過程において伐倒作業時に使用する林業機械が制約されることや、木材として使用される範囲が狭まるなどの課題があり、そのため大径木は小・中径の丸太より取引価格が下がる傾向にあります。これらについてもより高額な取引をできるよう、大規模製材工場を有する企業と連携し、集成材としての活用などを模索しているところです。

若年者入職で成果

 ──そうした厳しい環境のなか、浮羽森林組合が持つ強みとは何でしょうか。

 岩佐 幸いなことに、当組合の職員は平均年齢42歳と、全国平均の52歳より10歳ほど若くなっています。とくに20代の若者が活躍してくれていることを心強く感じています。これは、情報発信の手法を工夫したことなどの成果だと自負しています。若者たちは何をするにせよ、ホームページなどを必ず見て確認しています。そこで、若い職員に情報発信の業務を任せ、ブログ形式による親しみやすくわかりやすい内容、さらにはSNSも含めた情報発信を行うようにしました。そうした取り組みにより、昨年は20代の大卒者(新卒と中途)が2人、市内外から入職してくれました。

 ただ、林業は厳しい職業ですから、組合に長く定着し、さらに知識や技術を身に付け戦力化するのは難しい側面もあります。「緑の雇用制度」(国による林業への新規参入者に対する雇用支援)などを活用し、基礎研修を行いながら、現場業務のみならず、将来は管理業務も担えるようじっくりと育成しているところです。とくに、技術が身につくまでの3年程度は、「技能実習班」というOJT専門の班でじっくり育成する取り組みに力を入れて定着促進に取り組んでいるとともに、積極的な機械化で労働負担を軽減しています。

 ところで、当組合の強みの1つに機械センターがあります。林業機械の販売やメンテナンスに対応している部署ですが、同センターにはチェーンソーや草刈り機を始めとする作業用機械の不具合や故障に即時に対応できる、県内トップクラスの腕前をもつベテラン職員がおり、それにより作業の効率化を実現していることから、当組合員はおろか、県内外の方々から高く評価されています。しかし、その職員に続く人材が確保できておらず、今後に向けた課題となっています。

機械センター

情報発信で林業への理解促す

 ──課題が山積するなか、国や自治体は林業再生に向け取り組みを強めています。

 岩佐 森林は水を貯え土砂災害を防ぎ、CO2を吸収するといった働き、公益的機能があるという観点から、国・自治体は森林環境税を創設し、それが私たちにとって追い風になろうとしています。そうした状況を受け、組合の事業として新たな取り組みにも挑戦しようとしています。たとえば、森林経営などの取り組みによる、CO2等の温室効果ガスの排出削減量・吸収量をクレジットとして国が認証する「J-クレジット制度」への対応や、デジタル対応などが挙げられます。後者については今、森林資源がすべてデジタル化され、そうした点では事業を効率化しやすい状況が整いつつあります。

 効率化といえば、山林経営の一層の集約化も必要です。小規模の森林経営のままでは事業効率が悪く、林業衰退の流れを止めることはできません。今後は地域ごとに山林を集約・団地化し、一括して計画的に整備していくことが不可欠です。そうすることで、森林経営の収益力を高め、競争力を生み出していくことができると考えています。

組合の外観
組合の外観

    そして何より、林業の役割について理解を深めていただけるように、情報発信にも取り組んでまいりたいと思います。たとえば、森林が持つ災害防止の役割はもちろんですが、災害が発生した場合、林業関係者が復旧活動に貢献していることなどです。私たちの管轄エリアでは、今年7月に吉井町や田主丸地区において被害が発生しました。まだ応急的な段階ですが、当組合は土木事業者の方々らと協力して、復旧作業にあたっています。こういった情報発信の強化を通じて、森林空間に多くの方々が足を運び、体験していただき、林業への関心をより強く持っていただけるよう取り組みを進めてまいります。

(了)

【田中 直輝】


<INFORMATION>
代表理事組合長:岩佐 達郎
所在地:福岡県うきは市浮羽町朝田381-5
設 立:1941年3月
出資金:1億2,617万7,500円
TEL:0943-77-2158(本所)
URL:https://www.ukiha-forest.com/

 

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