2024年04月29日( 月 )

日本一アビスパ、3つのポイントで振り返る(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 1996年のJリーグ参加から27年、アビスパ福岡はクラブ史上初めて、3大タイトルの1つYBCルヴァンカップの優勝という栄誉を勝ち得た。優勝カップ、賞金1億5,000万円という実利に加え、アビスパが得たのはカップウィナーという格である。来シーズン以降のユニフォームには、アビスパのエンブレムの上にタイトル勝者を示す星が永久に刻み込まれるのだ。この歴史に残る勝利はなぜ実現したのか。「(1) 人材:的確な補強と起用」、「(2) 一体感:“控え”なきチームづくり」、「(3) リーダーシップ:常に選手と向き合い続ける指揮官の姿勢」の3点に絞って振り返ってみよう。

(2) 一体感:“控え”なきチームづくり

試合終了、歓喜が爆発する
試合終了、歓喜が爆発する

    長谷部監督が、記者会見で何度も繰り返した言葉がある。いわく「ターンオーバーはしていません」。サッカーは身体的負担が大きい競技のため、過密スケジュールの際は主力を休ませて控えメンバー主体で試合に臨む場合も多い。これをターンオーバーといい、うまくターンオーバーすることは名指揮官の条件の1つといわれる。

 だが長谷部監督は、この言葉を極端に嫌う。「ターンオーバーした」と認めれば、それは「チームには主力と控えの区別がある」と公言することになるからだ。そして長谷部監督は、「今日出場したメンバーがベストメンバーです」と言葉を続けるのが通例だ。

 もちろん、出場試合数や出場時間数を見れば、多く起用される選手がいるのは明らかだ。とくに、MF前は加入以来ほぼ全試合で先発出場と、深く信頼されていることがわかる。だがその一方で、起用される機会が少ない選手がピッチに立つときに見せる輝きには目を見張るものがある。たとえば、10月にリーグ戦初先発をはたしたMF平塚が見せたプレーは、「平塚、こんなに上手かったか!」と新鮮な驚きを生んだし、ルヴァンカップ準決勝では162cmの小兵FW鶴野怜樹(福岡大卒)がヘディングで決勝ゴールを叩き込んだ。

 また、ベンチにいる選手たちが「自分たちも試合に参加しているんだ」というメンタリティを持ち続けているのもすばらしい。プレーが中断した際には給水用のボトルを運び、コーチとともに戦術指示ボードを掲げ、常にピッチに神経を集中させ続けている。

 他チームの選手が交代を告げられて不満を爆発させたり、ベンチでふてくされたり、監督が試合後に、「選手交代するたびにチーム力が落ちていく」と吐き捨てるのを見ると、アビスパがどれだけチームとしての一体感をもっているか、誇りに思えるほどだ。

選手、スタッフ、サポーター、すべてのアビスパファミリーが勝ち取った優勝だ
選手、スタッフ、サポーター、
すべてのアビスパファミリーが勝ち取った優勝だ

(3) リーダーシップ:常に選手と向き合い続ける指揮官の姿勢

 そして、これらすべてをマネージメントしているのが長谷部監督である。戦術面、交代カードの切り方など、サッカーそのものの指揮官としての評価はいったんおく。長谷部監督がリーダーとして本当にすばらしいと感じるのは、「自身の言動は、すべて選手に届いている」と意識していることだ。

 サッカーの試合終了後には、監督記者会見が行われる。テレビ用のコメント取りやカコミ取材ではなく、演壇があり質疑応答も行われるきちんとしたスタイルの会見だ。質疑応答には、監督の性格がハッキリ現れる。記者のマニアックな質問に嬉々として応えるスペイン人監督、負けるとあからさまに不機嫌な表情でぶっきら棒に応じるベテラン監督、先に挙げたように自チームの選手を責める監督……。

 そんななかで、長谷部監督は常に一定のテンションで会見に臨む。いつも丁寧な言葉遣いで、明確に、敗戦時は「監督として、自分の準備が足りなかった」と選手を絶対に責めず、勝てば「彼にはそれだけの能力がありますし、よく準備をしてきました」と選手を讃える。「すばらしいプレーだった、と書いてあげてください」と笑顔で付け加えることもしばしばだ。

 そんな長谷部監督だからこそ、ルヴァンカップ決勝の試合終了時にはベンチの選手たちが真っ先に監督の元に駆け寄ったのだろうし、選手たちに促されて優勝カップを掲げるシーンも生まれたのだろう。撮影していたベテランカメラマンからは「監督がカップ掲げるって、珍しくない?」と驚きの声が漏れていた。だが、「それが長谷部監督、それがアビスパなんだよ」と、喜びと誇りで胸がいっぱいになる思いだった。

 ここまで3つのポイントでアビスパの強さを振り返ってきたが、最後にあえて加えるなら、長谷部監督と選手たちを信じて支え続けてきた川森敬史会長をはじめとするフロントスタッフの献身だろう。コロナ禍による収入激減、なかなか伸びない入場者数など、フロントの皆さんにとっても苦しい時期は長かったはず。今回のタイトル獲得で、ぜひとも報われてほしい。

長谷部監督がカップを掲げるのも、深く選手に慕われているからこそ
長谷部監督がカップを掲げるのも、
深く選手に慕われているからこそ

(了)

【深水 央】

(前)

関連記事