2024年05月11日( 土 )

佐賀県、人口減少社会に直面した新大学構想の混迷(前)~県の思惑と拙速

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異例の経緯をたどった予算採決

 佐賀県議会において21日、県が28年開学を目指している県立大学をめぐって県執行部が提出していた大学関連事業費800万円を含む補正予算原案(以下、原案)が、付帯決議付きで可決された。

 本件をめぐっては、異例の経緯をたどっている。まず、14日に県議会の総務委員会で原案が否決。20日には、最大派閥の自民党県議団が大学関連事業費を削除した修正案を提出、可決した。これに対して山口祥義知事は、地方自治法で首長の権利として認められた「再議権」を行使し、審議のやり直しが行われることになった。

 21日に「再議」を受けて再度、修正案の採決が行われた結果、賛成が可決要件である3分の2以上に満たず、否決された。これにより県執行部の原案(大学関連事業費含む)について同日、再審議と採決が行われ、付帯決議をともなって可決された。

 付帯決議は、予算案の可決をもって「最終的な大学設置を認めるものではない」としており、また再議という異例の事態に至ったことについて執行部へ反省を求めている。なお、佐賀県議会における知事の再議権行使は初めてとされており、極めて異例の事態であったことが分かる。

強引な知事の手法に待った

 知事が強引に県立大学設置を進めようとした背景には、進学を機にした若者の県外流出の深刻さが建前にある。

 2020年度の県内における高校出身者の大学入学者(過年度卒を含む)は3,488人で、進学先の大学を所在地別にみると、県内564人、九州地方(佐賀県を除く)1,928人、関東地方456人(うち東京都299人)、近畿地方230人、中国地方182人が主な進学先となっている。

 県内にある大学への進学者数は16%で、毎年2,800人程度が県外に流出していることになる。 

佐賀県内の高校出身者の大学所在地別入学者(過年度卒を含む)の推移
佐賀県内の高校出身者の
大学所在地別入学者(過年度卒を含む)の推移

 県はこれを食い止めるための施策として県立大学設置を進めたい方針だが、そもそも若者の数が急速に減りつつあるなかで、県による費用負担への懸念や、実際に設置した場合に卒業後もどれくらい佐賀県に残る可能性があるのかなど、新規大学の設置効果については疑問の声が挙がっていた。

 しかし、県立大学設置方針についての知事らの説明は必ずしも十分ではなかった。今回は県議会が、大学設置ありきで強引に推し進める山口知事の姿勢に待ったをかけたといえる。

 佐賀県の施策には、「島耕作副知事」といい、ロマンシング佐賀といい、まるで旧ライセンスの最終消費地を買って出るような、いったい何に対する忖度でこのような施策を行っているのか分からないものが散見する。県立大学設置の方針には別の狙い、本音があるのではないだろうかと疑いたくもなる。

 ちなみに、ロマンシング佐賀とは、ラッピングした列車を主にJR唐津線において運行させる企画で、ラッピング、運行、イベントなど費用として令和4年度の当初予算で4,300万円を計上していた。

(つづく)

【寺村 朋輝】

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(後)

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