2024年05月06日( 月 )

歴史と住民でつくるべき「楽しい日本」のランドマーク(2)

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世の中をつくる価値観

 私が通っているフリースクールの子どもたちを見ていると、のびのびと遊べる時間や空間があれば、やりたいことは自由気ままに湧いて出てくる子たちばかりだ。子どもたち自身の問題ではなく、環境の問題なのではないか、と感じさせる瞬間だ。

 世の中の一番の基は「価値観」である。価値観が世の中のかたちを決める。社会における価値観は「美意識」と「道徳観」で成り立っていて、その時代を生きる人々が抱く「何が美しいか」という美意識、「何が正しいか」という道徳観、この2つの意識が価値観の構成要素であり、そのストーリーによって世の中のかたちが決まる。「自分の意見はこうだ」「あなたの意見はこうだ」は、個人対個人の“倫理”の掛け合いだ。それが2人になり、複数になり、集団になり、社会の輪になったとき、“じゃあみんなはどうしたらいいのか”と考える。これが道徳だろう。しかし今、その哲学のような、信仰のような、“社会共有の道徳観”があるだろうか。あるのは、個人のなかの“あなたにとって正しいか、正しくないか”という倫理観に寄ったものに思う。

 現状の公園は役所の管理に縛られて、制限ばかり。これは「官僚主導」の世の中が決めた価値観の“カタチ”である。そろそろどこかで「制限よりも多様性が良いのだ」という道徳観を社会の“カタチ”に実装しなくてはならない。そうすれば似たような公園ばかりではなく、その場に合った公園が増えていくだろう。…これは、堺屋太一氏が著書「三度目の日本」のなかで語った「楽しい日本」を彷彿とさせる。

「楽しい日本」とは…

「楽しい日本」とは… pixabay
「楽しい日本」とは… pixabay

 戦後、官僚が進めた政策で、現在の日本人の生活は、安全・安心・清潔・正確・平等を得た。だがその代わりに、“楽しみ”を失った。いうなれば日本は、「正論の天国」になってしまったのだ。今の日本は世界で最も「安心、安全、清潔、正確、そして平等な国」である。しかし、あまりにも安全・清潔に徹する規制と厳格な基準ゆえに、人々の楽しみを奪い、やる気を失わせているのではないか。夢もなければ冒険しようとする気も湧かない「低欲望社会」になってしまった。この状況をどこかで変えなければならないと、堺屋氏は問いている。

 現在の日本は“平和な国”である。犯罪は世界一少ない。清潔で、交通機関の運行も世界一正確。汚職や経済事件も、世界基準で見たらとても少ない。しかし、安全で清潔な「平和」の住人は欲望がなくなり、ただその安住の地を失うことだけを恐れるようになる。かくして日本は、「夢と冒険のないぬるま湯社会」になってしまった。貧乏旅行も、冒険旅行もしない。海外留学をする学生さえ、どんどん減ってしまった。暴走族もいなくなったし、起業家もヤクザも減った。

 今の日本には「楽しみ」の多様性がない。どうしたら日本が楽しい世の中になるか。“早く仕事を終わらせ、職場から帰って楽しいことをしよう”そんな世の中にしなければならないのだと。日本人は“生活を楽しむ”というロールモデルをもたずに、ずっと生きてきてしまったのかもしれない。人生を楽しむためのストーリーを、今の日本人はもっていないのではないかと。「楽しい日本」を創造することは、日本が再成長する道の1つになると、堺屋氏は声を挙げている。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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