2024年05月06日( 月 )

木造住宅BIM×地域工務店で戸建住宅に革命を(後)

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Make House(株)

 Make House(株)代表の眞木健一氏は、木造住宅のBIM設計と地域工務店がタッグを組めば、日本の戸建住宅市場を大きく変えることができると考える。BIM設計は住宅市場にどのような変化をもたらすのか。ウェブ集客コンテンツとBIM設計をパッケージサービスとして提供する同社の狙いを、眞木代表に聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉 直) 

BIM(Building Information Modeling)
 BIMとは、コンピューター上の3D仮想空間内で模型のように建物を組み上げる設計手法。通常の住宅設計で使用される平面図が建物の「ある面だけを見せる静止画」のようなものとすれば、BIMは建物の「すべてを含んだ立体的な動画」のようなもので、さらに各部材の材質・性能・価格・部品・作業コストといった情報を属性データとして盛り込むことができる。意匠・構造・設備の設計統合を高いレベルで実現するだけでなく、施工、引き渡し後の維持管理といった建物のライフサイクル全般に関わる情報を統合して一元管理することも可能にする。各図面やパース、積算表などはすべてBIMデータから瞬時に切り出して作成され、変更が発生した場合は、おおもとのBIMデータを修正すればすべての関連資料に反映される。また、3Dデザインソフトなどと連携することで、BIMデータから高度なビジュアルコンテンツを制作することも可能。

地域工務店のメリット
建築に経営資源を集中する

 ──では、次に工務店のメリットを教えてください。

 眞木 当社がサービスの提供先として想定しているのは地域の中小工務店です。当社は地域の工務店に対して、BIMによる住宅設計と、その住宅を販売するためのウェブマーケティング用コンテンツをパッケージ化して販売します。

 これから地域の工務店が生き残っていくために大切なことは、効果的なウェブマーケティングの実践と、経営資源を建築に集中させることです。工務店の本領は建築にあり、建物を建てて売上を立てるものですが、実際には着工前に、広報、マーケティング、営業、設計とあらゆることをそれぞれの工務店が個別に行っています。

 しかし、周知の通り、建設業界の人不足は深刻です。地域の工務店はとても建築以外の業務に人材を割けない時代になりました。また、建築に関わる業務もできるだけ省力化して、少ない人材で最大限の生産性を上げるためのDXの導入が不可欠です。

 当社は、BIM設計とウェブマーケティングのコンテンツを地域の工務店に提供することによって、工務店が経営資源を建築に集中することを可能にし、さらにBIMを建築DX導入の糸口としてもらいます。

 たとえば、2025年に建築基準法が改正されて、構造計算が必要な建物が大幅に増えることが予想されます。BIM設計では構造計算にもスムーズに対応することができます。また、BIMによる図面や部材情報から施工・維持等の一元管理によって、積算作業や施工管理の省力化を実現してもらいます。そのような商品を当社では取りそろえました。

パッケージ商品
BIM設計×ウェブコンテンツ

 ──具体的にはどのような商品ですか。

 眞木 当社は標準的な設計プランを現在、15商品取りそろえています。BIM設計とウェブマーケティング用のコンテンツをパッケージ化しており、いずれも大手のハウスメーカーに対抗できるように練り上げた商品です。それらの商品を6商品セットで、200万円の価格で工務店に販売します。具体的な内容としては、コンテンツはインスタグラム投稿用の画像や、ムービー、バナー広告などです。またそれらを利用したウェブ集客のノウハウ資料も提供します。

 たとえば1つの方法として、集客はインスタグラムを利用して、デザイン性を重視したコンテンツで集客を行います。集客した顧客は成約につなげるためにランディングページ(LP)へ誘導します。LPにはVRを組み込んで、VRでモデルルームのなかを細かく見てもらいます。顧客とのやりとりは従来のメールに加えてLINEを選択することも可能です。それら一連のノウハウを当社は提供します。

ウェブ上での集客から面談につなげるランディングページ(LP)
ウェブ上での集客から面談につなげるランディングページ(LP)

 もし工務店が単一でこれらのコンテンツを別途業者へ発注しようとすればかなりのコストになります。1つのVRを制作してもらうだけでも通常、50万円程度はかかるのではないでしょうか。しかし、当社はBIMを利用して設計とコンテンツ制作を一元的に行うことによって、BIM設計とウェブコンテンツをパッケージ化し、大幅なコストダウンを実現しています。

 ──現在サービスの提供先事業者は何件ぐらいありますか。

 眞木 現在、270社程度ご契約いただいています。毎月10社ずつ増えています。

 ──6商品で200万円というのは、その6商品を何回売ってもよいのですか。

 眞木 はい、何回でも売っていただいて構いません。ただし、それらの商品はあくまでも基本設計ですから、実際に建設される敷地の形状、面積、地盤の状況に応じて設計を修正します。また、それぞれの施主の注文に応えて間取りや意匠の変更にお応えします。その費用として、1つの販売ごとに個別のカスタマイズ設計を35万円から承ります。

 また、ウェブマーケティングでは常に新鮮なイメージをウェブ上で発信し続ける必要があります。そのために、当社はサポート費用月額3万円をいただくことで、ウェブに投稿し続けるための新しいコンテンツを定期的に提供して、マーケティング効果を積み上げていただきます。

BIM×地域工務店で
住宅業界を変える

 ──地域の中小工務店に照準を合わせる理由は何でしょうか。

 眞木 大手のハウスメーカーは圧倒的なスケールメリットによって、型式適合認定の住宅を販売していきます。それは一見、顧客のニーズに応えた注文住宅の体裁をとっても、あくまでも型式の範囲内における極めて限られたカスタマイズに過ぎず、結局は営業マンの手腕でいかに顧客を説得して家を売るかということになります。つまり、営業マンが売りやすい住宅がハウスメーカーの住宅です。

 一方で地域に根差した工務店、とくに規模が小さい事業者は年間数戸~数十戸しか建築を行いません。そのため、型式などにとらわれず、1人ひとりの顧客に対してきめ細かな注文に応えることが可能です。ただし、その一方で欠点もあります。積算や工期の算出が曖昧であったり、完成後イメージの3D化や、業務DXに対応できていなかったりします。

 しかし、当社がBIMで設計する商品を工務店に提供することによって、積算表や工程表を作成する労力を省力化し、かつ正確な資料を作成することができます。また、広報やマーケティングにかける経営資源も省力化しながら、3D化された建築後イメージを利用して、設計における施主とのやりとりと合意形成をスムーズに行うことが可能になります。

 ──地域工務店のBIM活用が普及すると住宅市場はどのように変わると思いますか。

 眞木 日本の住宅は、完成するとその後はひたすら資産価値が目減りするというおかしな資産評価の世界です。それを変えるには、本当の意味で注文住宅を建築することができる地域の工務店による、BIMを利用した設計住宅が増えることが大切で、そのことは日本の住宅評価の慣習に大きく影響を与えると思います。BIMデータには各部材の細かいデータまで盛り込まれており、設計データと実際に完成した住宅との齟齬が限りなく発生しません。BIMデータは後日のリフォームでも有効に活用することができます。つまり、注文住宅とそのBIM設計データがその家の資産価値に大きく貢献します。その住宅は、ハウスメーカーの住宅を凌駕する資産価値を生み出せるものと考えます。

 また、建設業界は今後、設計だけでなく、建築・施工の現場でのさらなるDXの進展が期待されます。BIMは、設計段階からその後の維持まで含めたトータルな建築管理を可能にするソリューションです。BIM活用の幅広い普及は、業界全体のソフト・ハード両面でのDX推進とそれへの対応力の基盤になります。BIM×地域工務店の戦略は、日本の住宅の質を変え、地域に根差した工務店を支える力になり、日本の住宅市場を大きく変えるものと考えています。

(了)

【寺村 朋輝】


<COMPANY INFORMATION> 
代 表 : 眞木健一
所在地 : 東京都港区赤坂8-5-40
設 立 : 2016年9月
資本金 : 2,990万円
事業内容:住宅商品開発、コンサルティング業務
     (ブランディング、マーケティング、業務フロー)
URL :https://makehouse.co.jp/


<プロフィール>
眞木 健一
(まき・けんいち)
1967年福岡県生まれ。米国留学後、東京で不動産販売業を経験し、90年に福岡にて注文住宅を中心としたMAKIHAUS(1,600棟以上の実績)を立ち上げる。その後、MAKIHAUSで開発した住宅商品である「casa cube」を軸に、2007年に工務店ネットワークのcasa project(株)を創業し、工務店とともに商品住宅「casa」シリーズを全国展開。16年にMake House(株)を設立し、住宅商品開発やコンサルティングを中心に、3次元設計の技術である「BIM」を使用した木造住宅の設計手法を構築する。

(前)

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