2024年04月27日( 土 )

【トップインタビュー】ウェブ活用で生産性向上、V字回復へ 社員が働きやすい仕組みを構築

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

(株)アダル
代表取締役社長 武野 龍 氏

 昨年で創業70周年を迎えた業務用家具メーカーの(株)アダル。イスやテーブル、什器などの業務用家具の企画・デザインから、設計・製作・流通までをワンストップで行っている。2024年3月期はコロナ禍からのV字回復を見込む。ECサイトの取り組みなどウェブの活用や今後の展望について、代表取締役社長・武野龍氏に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 専務取締役 児玉 崇)

24年3月期はV字回復

(株)アダル 代表取締役社長 武野龍 氏
(株)アダル
代表取締役社長 武野 龍 氏

    ──2024年3月期決算の見通しはいかがですか。

 武野龍氏(以下、武野) 好調です。20年3月期に売上高で過去最高額の約75億円を記録した後、コロナ禍では2期連続で60億円台に落ち込み、大変な思いをしましたが、今期はV字回復で78~80億円という数字が見え始めています。

 増収の要因について、この2年間、飲食、ホテル業界は我慢を強いられていましたが、その間の計画が今動き始めていて、経年劣化を受けたリニューアルなどが現在進められていることによるものだと思っています。また、以前から事業に大きく投資をしていた分のリターンが大きくなったということもあります。

 当社の事業でも、コロナ禍で飲食、オフィスなど各事業の売上に占める構成比のバランスが崩れましたが、現在は増収になり、概ねコロナ禍前と同じ構成比に戻っており、全体的に底上げされたという印象をもっています。

 ──前期から今期にかけて利益率も改善されました。

 武野 当社はもともと別注で受けるのがメインであるため、原価が上がっても価格に反映させやすいという特徴があります。また、カタログでの価格改定も要因の1つです。カタログは1度発刊すると原価はその時点のもので固定されるという性質をもちますが、カタログの中身は大きく変えずに価格だけを変えました。

IT活用、ECで生産性向上

アダル本社
アダル本社

    ──創業者から引き継いで社長に就任されて今年で10年目。その時代に合わせた発想で経営に着手されていると感じます。

 武野 (武野重美)会長と今の我々が積み上げてきたものと変化が多少生じています。たとえば手数や、情報収集の仕方などです。顧客も商品も変わっていないので根っこは何も変わっていないのですが、手法においてIT、ウェブが掛け算として役割をはたすようになった変化は大きいです。ECでの引き合いはとくにこの2、3年、大きく増えました。設計事務所などプロ向けウェブを介した情報が、取引のきっかけになるケースが増えています。

 ただ、BtoBとはいえ顧客がインターネット販売に期待するイメージは「手軽、安い、早い」というもので、手軽に買えるだろうという感覚をもたれていると感じます。実際には売れ行きが好調ななか、非常に忙しくなっており、それでも在庫は欠品に近い数字になっていて、通常であれば1,2週間で出荷するものが繁忙期では1カ月以上かかっていた状況です。その意味でお客さまの求めるサービスと一致していない点はあります。

 今後5~10年の間に一定の量を期待できると思います。以前と変わらずお客さまとフェイストゥフェイスで話をしている限り、数は限られたままです。しかし、隣の地域を見ると未開拓地は多くあり、そこをウェブで集客・探客しようと考えてウェブ戦略を進めました。この先ウェブが広がっていけば、「人が介在するところは狭く深く、人が介在しないところでは浅く広く」という両輪で回していく必要が出てくると見ています。

 営業は以前時間をかけていましたが、働き方改革も加わり、従来のように行うのは難しくなっています。しかし、企業は人で回っている要素もあります。精神論では解決できないことも多く、仕事とプライベートの両立を考え、労働生産性を見ないといけません。それを引き上げ、負担を減らすのがウェブ、ITツールだと思います。

 営業社員に100の情報を詰め込もうとしても100すべてを吸収するのは絶対に無理です。しかし、顧客に100の情報を提示すれば、顧客がそのなかから選んでくれます。営業社員から話をせずともお客さまからのアクションは増えています。

 ウェブは手数という点では強くなっており、顧客が数万人いても個人メールに届けられます。従来のように宣伝のための広告を打ちましょうという考えは変わってきていて、ウェブをフルに活用しています。

 広告を打ってお客さまから受注が得られるのかロスに終わるのか、現在関連の数字データを収集しています。営業社員が何時間かを費やしてお客さまとミーティングを行うよりも効率的というケースもあるでしょう。

今の社員に合わせた対応を

 ──人材採用、育成についてお聞きします。

 武野 従業員は現在約270名に増えました。営業拠点を札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島といった主要都市のほか、九州に数カ所構えています。

 新卒採用を行っていて強く感じることは、同じ20代でも、前半後半で考え方がまったく異なるということです。社員の人生、ライフスタイルと企業がやっていることとのマッチングを図ることは以前よりもずっと難しくなっています。あるいは、以前は漠然とした夢があったためにコスパを見ていなかったのだと思います。今はたとえば結婚して、家を買ってなどという現実的なビジョンがあり、漠然とした思いで頑張ることはないですよね。コスパ、タイパをつい見てしまいます。また、経験を彼らに説明してときちんと共有しないと、うまくマッチングさせられないと思います。

 一方、メンタル面で追いついていない要素もあります。営業職で入ってきていても、顧客との対面でのコミュニケーションに苦手意識を抱く社員もいます。パソコン、文書は大丈夫と言いますが、できることは限られてしまいます。そうした社員は多くはないものの、以前と比べ顕著に増えました。

 顧客と対面でコミュニケーションができる機会がどんどん減っていくなか、ウェブに注力しているのは、お客さまの手元に情報、提案を届けられるからです。ウェブの空中戦とリアルを結びつけるのが今後数年間の課題です。お客さまの一部も現在は完全にデジタルネイティブですし、うまくサービスと見合っていけば変わると思います。

 1年に何回接触できるのか考えると、ECのメルマガでは月に約2本配信しており、タッチポイントを増やせています。生産性を上げていくために、移動時間など人が介在する部分で歩留まりりを上げていくことが大切です。

オフィス家具見本市「オルガテック東京2023」で特別賞を受賞した同社のブース
オフィス家具見本市「オルガテック東京2023」で
特別賞を受賞した同社のブース

いかに情報を得るか

 ──現在、九州の市場はどうでしょうか。

 武野 九州、沖縄ともに外部からの資金流入が活発な地域であり、そうした地域は元気です。コロナ禍のときも福岡の中洲などに関しては比較的好調で、福岡のオーナーが撤退しても東京や大阪からの資金が入ってきていたからです。現在はTSMCに関連して熊本では面白い動きが見られるようになってきています。

 ──熊本の半導体産業関連企業から受注を取るためにどうされていますか。

 武野 TSMC関連では必要な段階で情報をきちんと取ることが大事だと思います。今後はより具体的な中身の話に入ってくるでしょう。その案件について決定権のある企業向けに資料を作成し提案をしに行きます。事業のオーナーか、工場の発注をかけるゼネコンか、設計会社か、実際につくる企業かなど、どこに狙いを定めるべきかを見極めていくなかで的を絞っていきます。そう動いていくなかで、これについては熊本の業者さんがまとめているなどといった実態がわかってきます。実際に現地に行くこともあります。

 ただ、関連の情報はすべて東京に集まっています。この会社が動かしていると思ってその会社の福岡支店に行っても、東京ですべてを決めているというケースもあります。下請、孫請のレベルで広く浅く取っていくか、東京でより大本の情報を得られるよう筋道をつくっていくか、戦略を絞るのが今後の課題です。

 こうした事情はプロジェクトによって異なります。九州で今進んでいる大きなプロジェクトには天神ビッグバン、長崎のスタジアムシティなどがありますが、同様にいかに情報を得て当たっていくかということが重要です。

 一方、IT、ウェブでは事情が異なります。ウェブミーティングなら関係者全員が同じ場所に入ってくることができるので、今まで会えなかった人にも会えて、連絡先もわかります。コロナを経験しての大きな変化です。

 そうした人に当社が価値あるサービスを提供していると認知してもらえれば、また違うプロジェクトへの指名も増えるでしょう。当社もいろいろな情報を以前以上にもっており、情報量も提供先も増え、従来よりも情報提供ができるようになったと感じています。

アダル総合工場
アダル総合工場

社員を刺激する仕組みを

 ──来期の見込みはいかがでしょうか。

 武野 市場全体が盛り上がることは予測できず、受注は正直読みにくいです。新規案件が多く出るほどインバウンドが盛り上がっているわけではないですし、外食業界も来客数を読み切るのは難しいでしょう。ただ、お金が回るところには回ります。

 人は簡単に変わることはできませんが、仕組みは変えられます。従来は手作業でやってきたことに機械を少し入れるだけで変わることがあります。そこで利益がより多く生じれば導入の意義を感じられます。一方で個人の意欲を向上させられるよう刺激するため、情報を可視化して、労働生産性を高めることにも目を向けています。

 DXで変えられる点はないか模索しています。従来は漠然とやっていた生産高のカウント、目標設定のゴールについて、より目に見える、意識できるかたちで設定、提示して状況を可視化し、評価を反映させることで労働意欲を高めたいと思います。このように見せ方が変わるだけでもイメージが変わります。

 会長は強いカリスマ性と発信力で会社を引っ張ってこられました。時代の変化に応じて、経営層が社員に伝える内容は変わっていなくても、方向性の示し方など伝え方は、動画やSNS、ウェブを活用しつつ時代とともに変えていくことが大事だと思っています。ほかの課題としては、やはり人手不足が挙げられます。とくに4月以降、全般的な課題となるでしょう。

 中期経営計画では5年後の目標として売上高100億円を掲げています。本当はこの5年間はその目標実現のための準備期間だと位置づけをしていましたが、思いのほか順調です。ただ、必ずしもよい推移ではなく、今のまま頑張っても頭打ちになるということを懸念しています。本来は仕組みを変えてより良く発展させていくための準備期間だと位置付けでした。改めて気を一度引き締めて今後に臨んでいきます。

【文・構成:茅野 雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:武野 龍
所在地:福岡市博多区金の隈3-13-2
設 立:1968年4月
資本金:1億8,225万円
売上高:(23/3)71億7,284万円


<プロフィール>
武野 龍
(たけの・りゅう)
1978年11月生まれ、福岡市博多区出身。甲子園大学卒業後に、住宅メーカーで3年間勤務した後、2003年に(株)アダルに入社。専務取締役・関東ブロック長などを経て、14年4月に代表取締役社長に就任した。

関連キーワード

関連記事