2024年06月13日( 木 )

【鮫島タイムス別館(25)】都知事選は新旧メディア対決か 石丸・安芸高田市長出馬へ

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YouTubeを武器に地方政治をエンタメ化した石丸市長

 政治をエンタメ化すると宣言し、市議会やマスコミとの激突場面を動画で投稿してYouTube界の寵児となった広島県安芸高田市の石丸伸二市長が、東京都知事選(6月20日告示/7月7日投開票)への出馬を表明した。東京一極集中を是正して東京から全国を変えると訴えている。

 石丸市長は2020年、自民党の河井克行元法相夫妻の選挙買収事件で、当時の安芸高田市長が現金を受け取ったとして辞職したことにともなう市長選に出馬し、有力と目されていた前副市長を破って37歳で初当選した。同市に生まれ、京大経済学部を卒業し、三菱UFJ銀行に入行。為替アナリストとして東京やニューヨークで勤務していたが、郷里に市長として戻った。

 当選後の市議会ではすぐに、市議との対立構造が鮮明に。居眠りを繰り返し、説明責任を果たさない市議たちに向かって本会議場で「恥を知れ、恥を!」と叫ぶ様子はネット上で瞬く間に拡散し、石丸市長と安芸高田市の存在を一躍「全国区」に押し上げた。

 石丸市長の議会答弁や記者会見の様子を「切り抜き動画」で拡散させるYouTubeチャンネルが相次いで登場。1本の動画の再生回数が数十万から百万以上に達することも珍しくなく、全国各地に「石丸信者」が急増した。高齢化と過疎に苦しむ人口約2万6,000人の小さな地方都市のYouTube公式チャンネル登録者数は、全国自治体のトップに躍り出た。政治に関心のなかった若者層を引き寄せた功績は決して小さくない。政治のエンタメ化を着実に進めてきたといえるだろう。

 一方、市政は市議会との対立で混乱した。全国公募で選んだ副市長人事も、地元の道の駅に無印良品を誘致する計画も、市議会の同意を得られずに頓挫。石丸市長が大型台風接近の最中に千葉県で開催されたトライアスロン大会に参加したことを市議会が問題視して一般会計決算を不認定にするなど、対立は激化するばかりだった。

 石丸市長の政治手法は、市議会や市役所、マスコミを敵に回しながら世論を味方につけて闘ってきた兵庫県明石市の泉房穂前市長のトップダウン型と重なる。ただ泉氏が当選を重ねて市役所を掌握しつつ、市議会とは時に妥協しながら「日本一の子ども支援」を実現させたのとは対照的に、旧態依然たる市議会やマスコミの実像をネットで可視化して挑発し、全面対決に持ち込んで注目を浴びる劇場型政治そのものだった。

劇場型政治で「地殻変動」は起こせるか

 劇場型政治の先駆者といえば、大阪府知事や大阪市長を務めた橋下徹氏だ。しかし橋下氏は弁護士としてテレビ番組に出演し、全国的な知名度を得てから選挙に出馬。自民党府議会の実力者だった松井一郎氏と組んで大阪維新の会を旗揚げし、府議会や市議会にも進出して多数派形成を目指した。

 石丸市長はむしろ、同じ20年に36歳で現職を倒し全国最年少の女性市長となった徳島市の内藤佐和子前市長に近い。徳島市議会は内藤支持と不支持で真っ二つに割れ、市政は混乱。内藤市長は2期目を目指し今年4月の市長選への出馬を表明していたが、土壇場で撤回に追い込まれた。その直後、石丸市長のYouTube番組に出演し、市議会との向き合い方について語り合った。

 石丸市長はこの番組で、自らも7月の市長選に2期目を目指して出馬するか迷っていると明かしていた。市議会の大多数を敵に回し、出馬しても勝算が見込めないという事情もあったかもしれないが、やはり当初から安芸高田市長の座を踏み台にして「政治のエンタメ化」を推し進め、政治の地殻変動を引き起こすことに狙いを定めていたとみるほうが合点がいく。

 石丸市長は5月10日の記者会見で「続けたい気持ちもあるが、他にやらなければならないことがある」と不出馬を表明。「今必要なのは政治のエンタメ化だ。政治を身近に感じてもらう、これから先も政治家はしばらく続けようと思う」とし、都知事選出馬への期待を煽っていた。劇場型政治に徹しているといっていい。

 市長退任後はテレビを中心にコメンテーターとして活躍する橋下氏や泉氏とは異なり、あくまでもYouTubeを本拠地として政治のエンタメ化を進めつつ、リアルな都知事選出馬で世論の関心を一層かき立てる手法は、インターネット世代の政治家像をほうふつさせる。都知事選でも大胆なネット戦略を駆使してくるに違いない。

テレビ vs YouTube? 新旧メディア寵児の対決

 石丸市長を迎え撃つ東京都の小池百合子知事は「テレビ界の寵児」だ。テレビキャスターから政界入りし、環境相や防衛相の時代もテレビを活用してイメージアップに成功し、都知事就任後はマスコミ各社が加盟する都庁記者クラブを完全掌握して都政批判を抑え込んできた。

 その小池知事は今、前回の都知事選で浮上した学歴詐称疑惑が元側近の弁護士の詳細な暴露で再燃し、批判にさらされている。4月の目黒区長選と衆院東京15区補選に擁立した候補が相次いで敗北し、「選挙に強い」という小池神話は崩壊。元側近は小池知事が7月の都知事選に出馬すれば公選法違反で刑事告発すると宣言している。小池氏は告示が1カ月に迫る今も都知事選への出馬を表明していない。

 テレビや新聞など大手マスコミは、週刊誌やネットメディアが激しく追及する学歴詐称疑惑をほぼスルーし、小池氏3選が確実視されていると報じているが、小池知事が土壇場で不出馬を決断するとの憶測もなおくすぶっている。

 石丸市長が都知事選への出馬会見を開いた5月17日、小池知事は定例記者会見で「どういうご意見をもっておられるのか、よく存じ上げません。多くの都知事選へのチャレンジャーがおられるんだという認識です」と余裕をみせた。「テレビ界の寵児」の彼女にすれば、「YouTube界の寵児」の石丸市長は自分には遠くおよばない存在だと思っているのだろう。

 自民党は独自候補の擁立を見送り、小池知事と連携する方針を決めた。公明党は小池知事と親密な関係を続けている。それに加えてテレビ・新聞を中心とする都政記者クラブも味方についている。確かに「女帝」は磐石に見える。石丸市長はどう挑むのか。

 メディアを取り巻く環境は激変している。「テレビ vs YouTube」という対決構図で注目しても、今夏の都知事選は面白い。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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