2024年10月04日( 金 )

九州の観光産業を考える(23)コインロッカーさすらいびと

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駅で争奪戦

 土日の博多駅は、キャスター付きバッグを引きながら思案顔でさまよう旅行者が目立つ。JR駅構内外、地下鉄改札口周り、隣接するバスターミナルのどこもかしこも、ロッカー扉は使用中の表示。空きロッカーが見つからず、時間を浪費するばかりの日本人、韓国人、台湾人、and so on。熊本駅はそれほどでもないようで、アジア観光のハブ機能をはたす福岡ならではの偏った現象か。

 そんな状況を見かね、九州旅客鉄道(株)(JR九州)は駅構内の一角で手荷物一時預かりを実施していたが、さらに踏み込んだサービスが7月1日に乗り込んできた。(株)ジェイアール西日本マルニックスは、2階ひかり広場、新幹線筑紫口改札近くに、手荷物一時預かりとキャリーサービスを行う「Crosta(クロスタ)博多」を九州初出店した。旅行者の手ぶら観光を下支えする常設サービスの登場は、旅行客にも当該エリアの商業者にもありがたいものだ。

夏休みに入り、荷物を抱えた旅人がCrostaへ救いを求め次々訪れる
夏休みに入り、荷物を抱えた旅人がCrostaへ救いを求め次々訪れる

 「Crosta博多」で地域貢献性を期待するのは、預かった手荷物をホテルまで配送するキャリーサービスだ。14時までに預ければ、17時以降にホテルでチェックイン時に受け取れる。7月23日時点の配送可能先はANAクラウンプラザホテル福岡、グランドハイアット福岡、THE BLOSSOM HAKATA Premier、ザ・リッツ・カールトン福岡、西鉄グランドホテル、ヒルトン福岡シーホーク、ホテルオークラ福岡、ホテル日航福岡、ホテルニューオータニ博多、都ホテル博多。

 「Crosta」は京都駅、新大阪駅、大阪駅、広島駅で展開している。近接する京阪神三都市を駆け足でめぐる旅行者には、大きな荷物を携行することから解き放たれ、手ぶらで一日をワンウェイ行動できるのは快適だ。と同時に、買い物や体験サービスに自由度が高まる。こうして消費意欲が上向くことは、回遊ルート上の商業者にメリットを生じさせる。何せ両手が空くのだから、もてる土産量の制限は緩む。

エリマネのはしり

 来訪客に消費行動のタガを外させる、手荷物キャリーサービスを先駆的に始めたのは舞浜ではなかったか。JR京葉線・舞浜駅の南口改札を出て、左に行けば複合商業施設のイクスピアリ、ディズニーアンバサダーホテル、ディズニーシー。右に行けばディズニーショップのボン・ヴォヤージュ、そして東京ディズニーランド(TDL)と東京ディズニーランドホテル。浮かれ気分で、一刻も早く旅支度の大荷物を放り出してファンタジーに飛び込みたい向きに、その願いを叶える東京ディズニーリゾート・ウエルカムセンターが開所したのは、2010年ごろ。

 取り扱い内容は、宿泊する東京ディズニーリゾート・オフィシャルホテルや東京ディズニーリゾート・パートナーホテルへ駅から手荷物を別便で届けるバゲッジデリバリーサービス、そしてホテルチェックアウト後では、ホテルから送り出した手荷物をウェルカムセンターで引き取るステーションデリバリーサービス。当初はホテルのプレチェックインも行っていた。こうなると来訪客は手ぶら時間を大いに増やせるし、園内で購入した品々はパーク内のコインロッカーへひとまず押しこみ、巨大ぬいぐるみの衝動買いにすら至る。

 サービスの対象ホテルは限定されるが、開発思想を共有するエリアに立地するホスピタリティ事業者として運命共同体だ。舞浜エリアで快適かつ便利に過ごしてもらい、夢見心地で散財していただく。共存共栄のエリア内に滞在する顧客をタイムラインに沿い、サポートすることで利益を享受し合う構図を採るエリアマネジメントだ。

JR九州が設置する手荷物一時預かりは荷造り品評会のよう
JR九州が設置する手荷物一時預かりは荷造り品評会のよう

CRMの極小運用

 そこで頭に浮かぶのが、東京ベイ舞浜リゾート地域協議会のことだ。TDLを囲むようにブランドホテルが建ち並ばんとする1987年に発足。まずは手始めに、隣り合うホテルの敷地を相互に往来できる散策路づくりから始めたように記憶する。エリア内サービスの品質全般がTDL((株)オリエンタルランド、ウォルト・ディズニー・カンパニー)のイニシアチブ下にあり、アーバンリゾートに相応しい快適なサービスを多面的に一元構築しようとした。かさばる手荷物から一刻も早く解放されてパークへ入園したい欲求に応えるサービスも、そうした視点に立ち、提供できるプラットフォームを構築しているから可能なのだ。

 翻って博多駅。駅周辺は「博多コネクティッド」の括りで都市再開発が進む。エリアマネジメントの観点からは、荷物を駅で預かりホテルへ送る仕組みを傍観せず、この2点をつなぐ時間や空間を利益化する知恵を、すなわち手ぶらの旅人にエリア内で闊達な消費を促す策を期待する。Crostaへ広告出稿などで助成し利用客が支払う配送料を軽減し、発行される預かり証の提示により、近傍で営む自らの商機へつなぐ特典供与くらいをまず。

 7月30日からは「Crosta新大阪」で荷物を預かり新幹線で運び、「Crosta博多」や福岡市内の前記指定ホテルへ配送するサービスが開始された。取扱個数は20個程度/日とまだ少ないとはいえ、インバウンド客のゴールデンルート西進を後押しする施策で、日本人も利用できる。

 着地・福岡はこうした手間を担う事業者に伴走しつつ、旅行者が得る手ぶらワクワクを資源化し、既存の消費機会へタグ付けしてほしい。事業者個々というより、エリア/界隈として、心はやる立ち寄り先へ案内誘導すれば、旅の土産話も山と積もろう。


<プロフィール>
國谷恵太
(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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