2024年11月12日( 火 )

中東紛争から1年 イスラエル企業をめぐる状況

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国際政治学者 和田大樹

イメージ    イスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム主義勢力ハマスなどとの衝突が始まり、10月7日でちょうど1年となる。

 衝突の発端はハマス側がイスラエル領内へ奇襲攻撃を仕掛けたことだったが、その後、イスラエルはハマス殲滅を目的とした軍事作戦を強化し、ガザ地区への空爆などをエスカレートさせた。しかし、容赦のない攻撃によって子どもや女性など無実の民間人が次々に犠牲となり、今日までにパレスチナ側の犠牲者数は4万人を超えている。それによってイスラエルに対する国際社会の批判が広がったが、イスラエルは攻勢を弱める気配を一切示さない。

 これに対してレバノンやイエメン、シリアやイラクに点在する親イランのシーア派武装勢力はハマスとの共闘を宣言し、反イスラエル、反米闘争をエスカレートさせ、レバノンのヒズボラはイスラエル北部への攻撃を強化し、イエメンのフーシ派は紅海を航行する外国船舶への攻撃を開始し、イスラエルに向けてミサイルを発射するなどしている。

 さらに、イスラエルと親イランのシーア派武装勢力の攻防が激化するなか、イスラエルがシリアにあるイラン革命防衛隊の施設を攻撃し、ハマスやヒズボラの最高指導者を相次いで殺害するなどしたことで、紛争の構図はイスラエルとイランの国家間対立の色合いが強くなっている。両国の対立構図において、イランは自制的な姿勢に徹する一方、イスラエルは攻撃されたら反撃を厭わない姿勢を堅持しており、今後の行方はイスラエルの行動次第といえよう。

 こういった情勢によって、イスラエル企業を取り巻く環境も変化を余儀なくされている。たとえば、伊藤忠商事の子会社である伊藤忠アビエーションは2月はじめ、イスラエル企業エルビット・システムズとの提携を同月末で終了すると発表した。伊藤忠アビエーションは防衛装備品の供給などを担っており、防衛省からの依頼に基づいて、自衛隊が使用する防衛装備品を輸入するためエルビット・システムズと協力関係の覚書を昨年3月に交わしていた。

 また、川崎重工業の神戸本社前では7月、パレスチナ支持団体が川崎重工業に対してイスラエル製ドローンの輸入を停止するよう求める抗議活動を行った。川崎重工業はイスラエル軍事企業との間で航空機1機を購入する契約を締結しており、パレスチナ支持団体からは企業の使命を改めて考えるべき、ドローン購入はイスラエルに利益をもたらしパレスチナでの悲劇を助長するなどの声が上がり、2万人あまりの署名が川崎重工業側に手渡された。

 イスラエルは中東のシリコンバレーとも言われ、その先端テクノロジーに魅了され、イスラエル企業と提携する日本企業の数は近年増えているが、日本企業にとってイスラエル企業とどう付き合っていくかが今日大きな課題となっている。

 政府レベルでは、トルコが4月、鉄鋼やジェット燃料、化学肥料や建設機器など54品目についてイスラエルへの輸出を制限する措置を実施し、5月からはイスラエルとの貿易を全面的に停止している。南米のコロンビアは5月にイスラエルとの外交関係の断交を発表し、インド洋に浮かぶモルディブは6月、イスラエル人の同国への入国を禁止すると明らかにした。

 10月7日でちょうど1年となるが、ネタニヤフ政権は平和的手段によって紛争を解決しようとする姿勢を一切示さない。今後も戦闘が長期化することが懸念され、イスラエル企業との関係もいっそう難しくなるだろう。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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