2022年01月22日( 土 )
by データ・マックス

食料は軍事・エネルギーと並ぶ国家存立の3本柱!(1)

東京大学大学院 農学国際専攻 教授 鈴木 宣弘 氏

 今、国際的には「TPP」、国内的には「農協改革」を通じて、日本国民の命と健康を危険に晒しかねない事態が進行している。2013年2月の日米共同声明後即座に、米国政府は「日本がすべての農産物関税を撤廃するから喜んでくれ」と説明した。しかし、「1%」と結びつく日本の政治家、官僚、大マスコミ、研究者などはその事実を知ったうえで、「99%」の国民に対し「聖域が守れる」などという議論を展開している。これは、国民に対する“冒涜(とく)”である。著書『食の戦争』(文春新書)などを通じて、TPP参加に警鐘を鳴らす、東京大学大学院農学国際専攻の鈴木宣弘教授に聞いた。

「農協」を解体し農協マネー150兆円を奪取

 ――まずは、近々の農業に関する、政治・経済事情に関して教えていただけますか。

東京大学大学院 農学国際専攻 教授 鈴木 宣弘 氏<

東京大学大学院 農学国際専攻 教授 鈴木 宣弘 氏

 鈴木 最近の日本の政治・経済事情は、農業に限らず「今だけ、金だけ、自分だけ」という傾向が急速にひどくなってきていると感じています。低成長の限られた市場のなかで、ごく一部の巨大企業の経営者たちが、周りからどうやってお金を自分のところに持ってくることができるか、その追求がなりふり構わず進んでいます。さらには、その彼らと官僚・政治家と大マスコミが結びつき、大多数の国民を欺き、その仕組みづくりに加担しています。その結果、各自の利害に基づいた偏った見方が、まるで「正論」のように、あらゆる分野で主張されています。

 その国際版が「TPP」(環太平洋経済連携協定)であり、国内の農業分野では「農協改革」となっています。改革とは名ばかりで、「企業利益の拡大に邪魔なルールや仕組みは徹底的に壊す、または都合の良いように変える」だけです。そこには、日本国民の「幸福」や日本国家の「将来」のことなどは、まったく考慮されておりません。

 ――そのなかの農業分野において、顕著に見える特徴は何かありますか。

 鈴木 日本において「農協」は地方の経済活動の担い手となってきました。そこには、経済活動に関する情報・技術・物資を効率的に活用するしくみが構築され、農業に限らず、医療、保険などさまざまなビジネスが集まっています。今、TPPや農協改革の名のもとに、この「農協マネー」が米国の金融保険業界に狙われています。

 小泉政権のときに、米国の金融保険業界は「対日年次改革要望書」()に従って「郵政解体」を成功させました。そして、“喉から手が出るほど欲しかった”「郵政マネー」350兆円は、間もなく手に入るメドがつきました。
 次は「農協解体」(全農や全中などの組織を解体)を成功させ、「農林中央金庫」の運用資金100兆円、「全国共済農業協同組合連合会」の保険50兆円の計150兆円を手に入れようとしています。米国は“何でも言うことを聞く安倍政権”のうちに、今まで積み残していた「対日年次改革要望書」の案件を、すべて片づけてしまおうと考えているのだと思います。

 今、農協の准組合員の数が全組合員の半数を超えたことを大問題として、政治家や大マスコミが騒ぎ立てていることはその伏線です。准組合員の預金や共済を解約させてまでして、「農協マネー」を奪おうとしているのです。准組合員が半数を超えたので農協は「農業」協同組合でなくなったという論理です。そのために、「農協」では准組合員を排除する方向に動いています。しかし、准組合員というのは、もちろん農協のサービスが良いから加入しているのですが、以前農家であったり、親が農家であったり、あるいはその農協の地域経済に密接に関係している人が多いのです。この問題がクローズアップされる陰には、TPP反対運動の先頭に立つ農協を痛めつけようとする魂胆も見え隠れしています。

(つづく)
【金木 亮憲】

※対日年次改革要望書
1994年頃から日本にアメリカから突きつけられた「日本政府に対する勧告書」。実体は勧告書というよりも強い要求・命令である。2009年に自民党から民主党へと政権交代した後、鳩山内閣時代に廃止した。1994年から続いた「対日年次改革要望書」によって、(1)建築基準法の改定、(2)商法の改定、(3)金融の自由化、(4)郵政公社の民営化、(5)医療支出の削減と混合診療の認可を要求、(6)時価会計の導入、(7)司法制度改革、(8)大店法の改定、(9)労働基準法の改定、など、すでに多くのことが“カイカク”させられている。

<プロフィール>
suzuki_pr鈴木 宣弘(すずき・のぶひろ)
1958年三重県生まれ、82年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授、コーネル大学客員教授を経て、2006年より東京大学大学院農学国際専攻教授。専門は農業経済学。農業政策の提言を続ける傍ら、数多くのFTA交渉に携わる。著書に『食料を読む』(共著・日経文庫)、『WTOとアメリカ農業』、『日豪EPAと日本の食料』(以上、筑波書房)、『食の戦争』(文藝春秋)、『岩盤規制の大義』(農文協)など多数。

 
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