消滅可能性自治体から脱却 若い世代から選ばれる水郷・日田へ

豆田町
豆田町

鉄道被災でBRTに切り替え 観光寄与し利用客増加

 福岡県および熊本県との県境に位置する大分県日田市。市の中心部にあたる日田盆地には、一級河川・筑後川の上流域にあたる三隈川が流れ、九重連山や阿蘇山系などの周囲の山々から流れ出た大山川、玖珠川、有田川、花月川などの多くの河川が市街地部で三隈川に合流。こうした河川の多さと豊富な水量などから、日田市は「水郷(すいきょう)日田」として知られている。また、古くから北部九州の各地を結ぶ交通の要衝として栄え、江戸期にはその大半を幕府の直轄地“天領”として支配され、九州の政治・経済・文化の中心地として繁栄。天領時代に置かれた日田御役所(日田陣屋)のお膝下として発展した町人地が豆田町(まめだまち)であり、往時の姿を偲ばせる古い町並みが残っていることから国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定。現在もインバウンドを含めた多くの観光客が訪れる、市内でも人気の観光スポットとなっている。

 水郷日田と呼ばれ、多くの河川が市街地を流れる日田市だが、一方で県内有数の多雨地域でもあり、山々に囲まれた盆地という地形的な特性から、集中豪雨による低地の浸水や河川の氾濫、土石流の発生など、多くの水害に見舞われてきた場所でもある。近年では、2012年7月(平成24年7月九州北部豪雨)と17年7月(平成29年7月九州北部豪雨)の2度にわたって大規模な豪雨災害が発生。とくに17年の豪雨時には、住宅の損壊や浸水に見舞われ、河川、道路、耕地、林地なども大規模な被害を受けたほか、JR久大本線および日田彦山線では、鉄橋や軌道の流失、線路への土砂流入などの被害を受けた。

 このとき甚大な被害を受けたJR日田彦山線の添田駅(福岡県添田町)~夜明駅(大分県日田市)間では、復旧にかかる費用負担をめぐってJR九州側と沿線自治体との間での協議が難航した結果、鉄道での復旧を断念し、バスによる復旧に方針を転換。一部区間の線路敷をバス専用道路に転用し、23年8月からBRT(バス高速輸送システム)による「BRTひこぼしライン」(正式名称:日田彦山線BRT)が運行している。

鉄道駅に併設のBRTひこぼしラインの駅
鉄道駅に併設のBRTひこぼしラインの駅

    「ひと、地域、みらいにやさしい」をコンセプトとしたBRTひこぼしラインでは、専用道の整備や、学校・病院・商業施設付近への新駅の整備、運行本数の増加などにより、利便性が向上。開業から1年経たない344日目に利用客10万人を突破するほか、JR九州が公表した開業から24年3月末までの平均通過人員は164人/日で、鉄道で運行していた16年度の平均通過人員131人/日を上回る結果となるなど、利用客は鉄道時よりも好調に推移している。ただし、利用客の約6割が観光客だといい、今後は日常利用を増やしていかねばならないという課題はある。だが、豪雨災害で失われた地域の足である鉄道をBRTというかたちで復活させ、しかも以前より多くの利用客を集めている点は、まさに禍(わざわい)転じて福となすといったところだろう。

基幹産業は林業・木材産業 無印良品初の木造店舗も

 周囲を山々に囲まれた日田市では江戸期以前よりスギ植栽が始まり、「日田杉」をはじめとする豊かな森林が築かれている。市の森林面積は5万5,027haで市域(6万6,603ha)の約83%を占め、そのうち約74%が人工林。また、総森林面積の約96%が民有林で、国有林は約4%となっている。こうした豊かな森林資源を背景として、林業・木材産業は市の基幹産業の1つでもある。

 弊誌vol.69(24年2月末発刊)で日田木材協同組合の瀬戸亨一郎・理事長が語っているが、日田市の林業・木材産業の特徴の1つとして、福岡市や北九州市という木材の大消費地に近く、博多や門司、苅田、大分などの港から関東・関西に向けても積み出し可能な供給・物流の面で恵まれた立地が挙げられる。一方で、日本全体が本格的な人口減少社会を迎えるなか、日田市においても林業・木材産業の担い手不足が顕著になっており、将来にわたる森林の適切な整備・保全の観点からも、人材の確保・育成が喫緊の課題となっている。

 そこで日田市では、森林所有者、林業や木材関係団体などの関係者と連携しながら、森林の価値を再認識し、森林資源が循環する持続可能な社会の実現と林業・木材産業の発展に向けて積極的に取り組むために、15年3月に「新しい日田の森林・林業・木材産業振興ビジョン」を策定。24年3月には2度目の改訂を実施した。同ビジョンでは、ICTをはじめとする先端技術を活用したスマート林業によって省力化や効率化を図るほか、カーボンニュートラル社会の構築に向け、森林による二酸化炭素吸収量の見える化の取り組みを推進。また、関係団体と連携した林業人材の確保・育成の取り組み、広葉樹林化などによる災害に強い森林づくりなどを推進するとしている。

 そうしたなか、(株)良品計画(東京都文京区)は24年9月に、「無印良品 日田」をオープンした。同店は24年6月に開業した「イオンタウン日田ショッピングセンター」の一角に立地し、同時期にオープンした唐津店(佐賀県唐津市)とともに無印良品初の木造建築店舗。また、大規模木造店舗として日本初の「ZEB」認証も取得している。同店では、木材を通した地域コミュニケーションや環境配慮の観点から、店内の内装や休憩スペースなどの一部には九州産の木材を使用するほか、店内のベンチの一部は、日田市産の切株や丸太を使用。さらに、オープンに先駆けて日田市と「地域防災に関する連携協定」も締結しており、防災設備の提供による地域防災力の向上への貢献も期待されている。

 同店の高島大輔店長は「今まで福岡の店舗まで行っていたというお客さまから、近くにできたことで実際に商品を見ることができて嬉しいとのお声をいただきました。日田の地でお客さまに無印良品の商品を届けることができて嬉しく思います。今後も地域のお客さまのお役に立てる店舗になれるよう、取り組んでまいります」とコメント。地元からの反響も上々のようで、同店を起点とした地域活性化・賑わい創出効果も期待されている。

 今回の無印良品の木造店舗は、日田市の林業・木材産業の振興に直接的な寄与をするものではないが、こうした木材の良さを前面に打ち出した象徴的な大規模木造建物の存在は、間接的に林業・木材産業のイメージアップにもつながる良い効果をもたらしてくれるだろう。

県外からの移住者が増加 「消滅可能性」から消える

 さて、自治体としての日田市は、大分県内2位の市域(6万6,603ha)に県内5位の人口を擁するものの、その人口は1955(昭和30)年の9万9,948人をピークに減少傾向をたどっており、25年3月末現在の人口は5万9,668人。14年に発表された「消滅可能性自治体」にも、日田市の名前が入っていた。

 だが日田市ではその後、子育て支援を強化していったほか、空き家バンク制度の実施や、新婚夫婦の新居の住居費・引越費用・リフォーム費用の補助、住宅の新築・リフォーム助成などの移住支援などの取り組みに注力。その結果、同市の移住施策を活用して県外から移住した人の数は、23年度までの直近8年連続で県内上位3位以内となるなど、移住者が増加している。24年4月に10年ぶりに発表された「消滅可能性自治体」では、日田市の名前は消える結果となった。

 24年5月開催の「女性・若者にとって魅力的な地域づくりに係る意見交換会」において、日田市長・椋野美智子氏は「日田市では若い世代の社会減は近年減少傾向にあり、消滅可能性自治体を脱却することができました。出生率は全国平均と比べても高水準。当市では子育て支援の徹底強化のため、保育料、小中学校の医療費・給食費の3つの無償化や、フリースクールの利用料補助、保健・福祉・教育のワンストップ相談の実施を行っているほか、災害対策にも女性視点を取り入れています。若い女性に選ばれるまちとは、女性に限らず多様性が尊重され、誰もが自分らしく生きることができるまちと考えています」とコメント。人口減自体に歯止めがかかったわけではないものの、若い世代を中心とした社会減の鈍化による消滅可能性自治体からの脱却は、日田市にとって明るいニュースの1つといえるだろう。

 こうした状況下で、市中心部では住宅需要も増加しており、その受け皿となる新たな住宅の開発・供給も進んでいる。

 たとえば現在、日田市十二町の幹線道路・国道212号や国道386号に近い三隈川河畔では、(株)シフトライフ(福岡市中央区)による「アメイズ亀山ビューテラス」の開発が進んでいる。RC造・地上15階建の日田市内では最高階(25年1月現在)となる同物件は、総戸数は56戸で全戸南向き。間取りは2LDK+S、3LD+S、4LDK+Sが2タイプの計4タイプ、ワンフロア4戸で構成され、全戸に奥行2.5mのバルコニーを備える。また、1階の共用部にはワークスペースを設け、屋上にはビューテラスも設置。同テラスは、日田川開き観光祭・大花火大会(例年5月開催)の際には、入居者が観賞できるよう開放される予定だという。

 周辺には前出のイオンタウン日田ショッピングセンターや「無印良品 日田」をはじめ、徒歩圏内にスーパーやコンビニなどの生活利便施設が充実するほか、亀山(きざん)公園や三隈川などの景勝地も徒歩圏内にあり、利便性と自然環境の双方の良さを享受することができる。

 設計・監理はクラッチ一級建築士事務所、施工は(株)上田建築社がそれぞれ担当し、26年10月下旬の竣工を予定している。シフトライフでは日田市内でこれまで、「アメイズ日田中央けやき通り」(44戸、11年11月竣工)、「アメイズ三本松 咸宜の邸」(44戸、16年2月竣工)、「アメイズ日田駅前中央」(27戸、21年2月竣工)と、すでに分譲マンション3棟・115戸の供給実績があり、今回のアメイズ亀山ビューテラスが4棟目となる。

 JR日田駅および日田バスターミナルまで徒歩約8分の距離にあり、市中心部という立地の日田市三本松のJR久大本線沿いの場所では、トラスト不動産開発(株)(福岡市博多区)による「トラストレジデンス三本松Ⅱ」の開発が進んでいる。RC造・地上13階建の同物件は、総戸数64戸で全戸南向き。設計・監理は(株)おおたに設計、施工は(株)利根建設がそれぞれ担当し、26年8月の竣工を予定している。トラスト不動産開発もこれまで日田市内で、「トラストレジデンス三本松」(54戸、22年1月竣工)の供給実績があり、今回のトラストレジデンス三本松Ⅱが2棟目となる。

 分譲マンションの開発のほかにも、昭和建設(株)(福岡県久留米市)がJR光岡駅から徒歩約6分の場所で60区画の分譲地「ライフタウン光岡」を開発するほか、同じくJR光岡駅から徒歩約18分の場所で10区画の分譲地「ライフタウン丸の内」を開発。「駅周辺などの中心部ではマンション人気が高いですが、それ以外のエリアでは戸建人気のほうが高いようです」(地場不動産業者)と、戸建住宅の需要もマンションに負けず相応に高いようだ。

【坂田憲治】

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