2024年05月06日( 月 )

木造非住宅に伸びしろ、九州ワンチームの林業振興(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

瀬戸製材(株)
代表取締役 瀬戸 亨一郎 氏

瀬戸製材(株) 代表取締役 瀬戸 亨一郎 氏

 日本を代表する林業のまち・大分県日田市。瀬戸製材(株)は、日田で100年以上にわたり木材加工業に従事してきた企業だ。とくに近年は高品質な製材を生産し、大分県内における大規模木造建築物の建設実現にも貢献している。そこで同社の瀬戸亨一郎社長に、事業の状況のほか、今後のさらなる木材活用促進に向けた在り方について話を聞いた。

ガソスタを木造化

 ──近年、大分県内では、木材を用いた大規模な建築物がいくつも建設されています。

 瀬戸 大分県立美術館(2015年)、レゾナック武道スポーツセンター(大分県立武道スポーツセンター/19年)、立命館アジア太平洋大学の3階建木造教学棟(23年)などがそうですね。現在、大分空港にホバークラフトのターミナルを建設していますが、これも同様です。当社は大分県木材協同組合連合会など県内の事業者などと協力し、これらの建築物に木材を供給してきました。とくにスポーツセンターは、県産スギによる国内最大級の屋根を有するなど、木材を用いた建物としてはとくに大きなものです。これらに用いられている木材は集成材ではなく、無垢材であることも大きな特徴の1つです。

 私が経営しているガソリンスタンドの事務棟も、7年前に木造で建設しました。実現のために地元の消防署などと何度もやり取りをしましたが、木造建設できない法令上の制限はありません。ガソリン元売の意向から、木造であることがわからない外観となりましたが、高度な安全への備えを求められるガソリンスタンドの建物でさえ、木造化が可能なのです。こうした先例があるわけですから、行政や設計者でさえ、もはや「木造では建てられません」とはいえなくなってきたように感じています。

稼働中の製材工場
稼働中の製材工場

    ──東京都内では中高層ビルも建ち始めています。

 瀬戸 10年前までは、「まだ日本では難しい」と考えていましたが、あれよあれよという間に20階建の木造・木質ビルも建ち始め、最近では珍しいものではなくなってきました。国が公共・民間建築物の木造化を後押しし、スーパーゼネコンなどが本気になり、多額のコストを費やし研究開発したことで、ほんの数年で状況が一変したのです。

 来年開催される大阪万博では、世界最大級の木造建築物のリング状の木造大屋根も建設されています。万博自体がいろいろと叩かれていますが、このような試験的な建築物(半年間で撤去される計画)で、彼らはさまざまなトライアルをしています。木材という素材の実験の場となり、10年かかることが1年に短縮されるようでしたら、木材の業界にとってはとてもありがたいことです。天神ビッグバンでも、木質建材を外装材として使用するビルが建設中ですが、このような事例が増えていくことで、普及が加速するのではないでしょうか。

共有すべき失敗事例

 ──ただ、中高層ビルや大規模な建築物には、幅広いニーズがあるというわけではありません。

 瀬戸 大都市は別として、日田市のような地方ではそもそも高層建築物のニーズが多くありません。行政機関の建物でも2~3階建が主です。しかし、低層建物のニーズは地方でも公共、民間を問わず依然として多く存在します。よって、木造化にあたっては地域の設計者や大工、プレカット業者の技術レベルで建てられるよう、いかに状況を整えていくかがカギとなります。現状ではスーパーゼネコンなどが自社にとって有利になるように、専用の工法や部材を用いるなど、仕様の難度を高めていますが、できればよりオープンな技術・仕様で普及されるようにすべきです。

 なかでも、木造化の失敗事例をよりオープンにすることが重要だと思っています。設計・施工の過程で試行錯誤したことのなかには、共通することが数多くあり、その改善手法が共有されれば問題の解消が容易になり、それにより木造非住宅の普及がより早く進むものと考えられます。近年は派手目な建物が木造で建ち始めていますので、木造建築物への注目が高まっているのですが、逆にいえばそれは木造建築の難点が目立つことにもなります。失敗事例を多くの関係者が共有し、施工精度を高めることが、マイナスイメージの広がりを防ぎ、木材活用に前向きな機運を損なわないために重要だと思います。

製材の様子
製材の様子

    ──木造にはこれまで、RC造などに比べて品質や性能の面で劣るというイメージがありました。

 瀬戸 木造は戸建住宅はじめ小規模建物、鉄・コンクリート造はより大規模・高層の建物という棲み分けが定着してきました。これには地震での被害が大きかったことや、戦時中の空襲のイメージが根強く残っていたからだと思われます。また、そうしたイメージを持つ人たちが戦後に法制度をつくり、今に至っているので、これまで非住宅の木造化が進まなかったのです。

 それが如実に表れているのが建築の教育現場です。大学の建築学科で木造について教える先生が極端に少なく、学べるのは鉄骨造とRC造が主です。そうした状況により、木造の知識・技術を有する設計者や施工者が少なく、これも木造化を妨げる要因となってきました。

 ただ、隈研吾氏や坂茂氏など、木材活用に積極的に取り組んでいる建築家の登場などもあり、近年になって木造について積極的に学ぶ人たちが増えているようです。私は、大学院に通い建築を学びましたが、共に学んだ人たちが今、スーパーゼネコンなどで大規模建築物や高層ビルの木造化プロジェクトに携わっています。いずれにせよ、SDGsの重要性が増すなかで、川下のほうでは木造への関心が高まっているのはたしかであり、そうした意味でも、木造建築物には伸びしろがあると考えられます。

(つづく)

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:瀬戸 亨一郎
所在地:大分県日田市石井3-787
設 立:1991年3月
資本金:3,500万円
URL:https://setoseizai.com/


<プロフィール>
瀬戸 亨一郎
(せと・こういちろう)
1960年生5月まれ。大分県日田市出身。東京農工大(林産学専攻)を卒業。福岡の商社勤務後、家業の瀬戸製材を引き継いだ。社長就任後に東大大学院で木造建築物を研究し、2013年に博士号(農学)を取得。日田木材協同組合の理事長でもある。

(後)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事