2024年04月29日( 月 )

木造非住宅に伸びしろ、九州ワンチームの林業振興(後)

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瀬戸製材(株)
代表取締役 瀬戸 亨一郎 氏

 日本を代表する林業のまち・大分県日田市。瀬戸製材(株)は、日田で100年以上にわたり木材加工業に従事してきた企業だ。とくに近年は高品質な製材を生産し、大分県内における大規模木造建築物の建設実現にも貢献している。そこで同社の瀬戸亨一郎社長に、事業の状況のほか、今後のさらなる木材活用促進に向けた在り方について話を聞いた。

共有すべき失敗事例(つづき)

瀬戸製材(株) 代表取締役 瀬戸亨一郎 氏
瀬戸製材(株)
代表取締役 瀬戸 亨一郎 氏

    ──木材を供給する側の問題意識や対応はどうなっているのでしょうか。

 瀬戸 品質や性能に関わるJAS(日本農林規格)化が大きな課題です。集成材はJAS化されていますが、一般に流通している製材(無垢材)はJAS格付けが無等級あるいは低いのが一般的で、構造計算が求められる建築物においては、設計・施工者、消費者が安心して使えない状況なのです。歴史を振り返ると、集成材が登場した当時、大工さんなどはこれを軽視していました。しかし、集成材の関係者は信頼性を得るために保証を付けるなど、普及に向けたさまざまな努力をして信頼を勝ち取り、大きな位置づけを占めるようになりました。その一方で、昔ながらの製材事業者は今になって「無垢材はJASに対応できていない」と嘆いているのが今の状態です。

高度な乾燥が可能な設備を導入
高度な乾燥が可能な設備を導入

    25年に4号特例(建築士が設計を行う場合に、一定規模の建物であれば構造関係規定などの審査が省略される制度)の見直しが行われ、非住宅はもちろん住宅の分野でもJAS材活用の重要性が高まります。建設業界の動向に対して、木材供給サイドが勉強不足であったことは否めません。ただ、乾燥技術など各製材工場のレベルが向上したことで、無垢材の品質が高まっていることは間違いなく、低層非住宅向けの工法の開発なども含めて、建設業界と協力関係を強めるべきでしょう。

米国に木材を「輸出」

 ──ところで、御社は米国へ日田周辺地域のスギ製材を輸出しています。その状況はいかがでしょうか。

 瀬戸 20年から輸出を行っています。現地に出張した際に現地のバイヤーと接触し、サンプルを送ったところ始まったもので、コロナ禍期間にはコンテナ不足で取引量が減りましたが毎月数コンテナ分ずつ輸出し、現在まで途切れることなく続いています。日田のスギ材は米スギと品質が似ていること、米国でも林産資源の枯渇が懸念されていることがニーズの背景となっており、昨年、今年は徐々に輸出量が増えています。

米国への輸出を待つ製材
米国への輸出を待つ製材

    太平洋を越えて国産材を輸出するのは、筑後川が逆流するようなもので、うまくいかないだろうと考えていましたから、世の中わからないものです。日米貿易摩擦の影響で1964年に木材輸入価格が自由化されたことを契機に、安価な外国産材が日本市場に定着し、その後、集成材が普及することで我が国の林業・木材産業は衰退しましたが、この輸出事業を通じて、日本の木材は海外から評価されるべきものであると認識を改めました。

九州ワンチームで振興へ

 ──瀬戸社長は日田木材協同組合の理事長でもあります。その立場から見て、今後、林業・木材活用の促進はどうあるべきだとお考えですか。

 瀬戸 まず、日田の林業・木材産業についてですが、福岡だけでも福岡市、北九州市という木材の大消費地に近く、関東・関西へは博多や門司、苅田、大分などの港から積み出しができるという、供給・物流の面で恵まれた立地にあります。2024年問題でトラックドライバーの不足が懸念されていますが、もともと製材品の輸送はほかの製品に比べ輸送上の配慮をしなくて済む、ドライバーの負担が少ない荷物です。こうしたことから、日田はほかの地域より一層の優位性が表れるのではないかと期待しています。いずれにせよ、周囲に林産資源が豊富であり、安定供給が可能な資源背景はありがたいことです。

 また、日田は3県の県境にありますが、大分・福岡・熊本の各県がそれぞれに取り組んでいる県産材活用の在り方は、木材活用を促進するうえで非合理的であるように感じられます。そのような縦割りの活用推進策ではなく、「道州制」のような九州全体で推進するほうがより理にかなっています。それは、木材調達を担ってきた日田市と、それにより家具の街として栄えてきた福岡県大川市の歴史的な経緯を振り返れば明らかです。

 理にかなうといえば、福岡市は筑後川から水を引くことで渇水リスクを低減しましたが、その源流である山を育んできたのは日田です。ですから、福岡市が使用する木材の一定量を日田から調達するといった考えがあっても良いのではないでしょうか。少なくとも福岡市民の方々にはご理解いただけると思います。このように、九州内で各県、各地域の特性を生かし、また政治や行政が各地域の利害にとらわれず、より大きな見地に立って、林産業の振興に取り組むべき時期にきているようにも思われます。

瀬戸製材敷地内の様子
瀬戸製材敷地内の様子

(了)

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:瀬戸 亨一郎
所在地:大分県日田市石井3-787
設 立:1991年3月
資本金:3,500万円
URL:https://setoseizai.com/


<プロフィール>
瀬戸 亨一郎
(せと・こういちろう)
1960年生5月まれ。大分県日田市出身。東京農工大(林産学専攻)を卒業。福岡の商社勤務後、家業の瀬戸製材を引き継いだ。社長就任後に東大大学院で木造建築物を研究し、2013年に博士号(農学)を取得。日田木材協同組合の理事長でもある。

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