傲慢経営者列伝(17)北尾吉孝(SBI HD代表)~堀江、村上との連携は同床異夢か(前)

 北尾吉孝、堀江貴文、村上世彰、そして日枝久──。20年前のフジテレビをめぐるライブドア騒動の懐かしい顔ぶれが揃った。さしずめフジテレビ特番「お騒がせ面々、全員集合」の趣だ。だが、役割は異なる。20年前、フジを救った北尾はフジの批判者として登場。北尾、堀江、村上は日枝体制解体の反フジで共闘を組むのか。仲の悪い者同士が協力する「呉越同舟」はとかく「同床異夢」になりがちだ。(文中の敬称は略)

ホワイトナイトからブラックナイトに大変身した北尾

 フジテレビ問題をめぐって、米投資ファンドのダルトン・インベストメンツから、フジの親会社フジ・メディア・ホールディングス(FMH)の取締役候補に推されているSBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長は4月17日、東京都内で会見を開いた。『フジが敵対なら「受けて立つ」』。朝日新聞(4月18日付朝刊)は社会面トップで大々的に報じた。

 〈「堀江(貴文)君には悪いことをした」。会見で北尾氏は、20年前のライブドア騒動での自身の動きを、こう振り返った。北尾氏は当時、堀江氏のライブドアによるフジの親会社だったニッポン放送の買収問題で、窮地に陥ったフジの「ホワイトナイト」(友好的な買収者)として登場した人物だ。

 この日は一転、フジに対して厳しい言葉を連ねた。フジ側が自身に敵対すれば、「徹底的に勝負する。反省の念もなく、まともな良識に対して対抗するなら、いつでも受けて立つ。(FMH株を)5%ぐらい買うのはわけない」とすごんだ。そして経営中枢に40年以上いた日枝久氏を批判した〉

ホリエモンは「キャラが濃すぎる」と
ダルトンの取締役候補にならず

 20年前のライブドア騒動で、「悪いことをした」とエールを送られたホリエモンこと堀江貴文はどんな反応を示したか。日刊スポーツはこう報じた。

 〈ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏は18日までに、自身のYouTubeチャンネルとX(旧・ツイッター)を更新。(中略)いまだに株式を保有していると明かし、6月の株主総会へ向け、株主提案として「一番よくなるかたちで投票していきたい」と語った〉

 「ホリエモンが参戦か!」。メディアは色めき立った。堀江のコメントを求めて殺到。東スポWEB(4月20日付)は、20日放送の『サンデージャポン』(TBS系)が直撃したホリエモンの発言を報じた。

 ホリエモンは事前に北尾とコミュニケーションを取っていたと明かした。さらに株主提案したダルトンと会っていたことも公言した。

 〈『堀江さんはキャラが濃いから外しました』とダルトンの人に言われた。ダルトンの人と会ってから。ダルトンの人に会ってて取締役候補にうんぬんかんぬんって言ってたけど、『キャラが濃すぎるのでほかの人に嫌がられました』って」と、ダルトンサイドとのやり取りもあったという〉

 ほかの取締役候補は、ホリエモンが入ってきたら、取締役会を引っかき回されることを嫌がったのだろう。ホリエモンがフジテレビの社長に収まり、リベンジを期待していた外野席のファンは残念至極だったにちがいない。

フジ側はホリエモンを取締役候補にするか?

フジテレビ イメージ    フジテレビをめぐる大株主の構図を整理しておこう。

 フジテレビの親会社フジ・メディアホールディングス(FMH)には、米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが7.19%を出資。北尾吉孝ら取締役候補12人を株主提案している。

 北尾が率いるSBIホールディングス(HD)は、傘下の資産運用会社レオス・キャピタルワークスが5.12%出資。社外からトップ起用を希望している。

 旧村上ファンド系は、村上世彰の長女、野村絢らが11.81%を出資。態度は明らかにしていない。

 そして“真打ち”登場。ホリエモンこと堀江貴文が株式取得を公言した。

 かくして、20年前のライブドア騒動の登場人物たちが、再び集結した。

 今後の焦点は、6月開催予定の株主総会に諮る役員人事案だ。フジ側が北尾の求める話し合いに応じて新たな人事案を用意するかにかかる。

 その場合の最大の注目は、「キャラが濃すぎる」としてダルトンの取締役候補から外されたホリエモンを取締役候補にするかだ。ホリエモンが会社側の取締役候補になれば、最大のサプライズとしてメディアが沸騰するのは間違いない。そのカギを握っているのがSBIHD会長兼社長の北尾吉孝だ。

 20年前のライブドア騒動を振り返ってみる。

インサイダー取引で逮捕された
村上ファンドの村上世彰

 資本の小さなニッポン放送がより資本の大きいフジテレビの親会社という親子関係のねじれに、目をつけたのが村上ファンドの村上世彰である。村上は1959年8月、大阪市生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)の国家公務員として16年勤務。99年、M&Aコンサルティング(村上ファンド)を設立して、投資家に転身した。

 ニッポン放送株を買い占め、筆頭株主になった村上ファンドは、ニッポン放送に対して自社株買いを再三にわたって要求して、売り抜けるタイミングを計っていた。

 だが、ニッポン放送は要求通りに動かない。村上はニッポン放送株を大量に抱え込むハメに。村上は焦った。どうすれば高値で売り抜けることができるか。メディアに関心をもちそうなITの若手起業家を引き込んで、売り抜けるシナリオを練った。

 白羽の矢を立てたのが、ホリエモンが率いるライブドアだった。ニッポン放送株を取得すれば、フジテレビまで手に入るというシナリオに、ホリエモンは有頂天になった。

 2005年2月、ライブドアは東証の時間外取引で、ニッポン放送株を電撃的に取得した。村上ファンドは、すかさず売り抜けた。ライブドアの大量取得で株価が吊り上がると、さらに売り浴びせた。250億円投資して150億円の利益が出た。村上ファンドにとって歴史的大勝である。

 これで終わっておけばよかったのだが、欲が出た。ニッポン放送株193万株を買い増して売り抜けたことが、インサイダー取引とみなされた。証券取引法違反(インサイダー取引)容疑で逮捕、起訴された。この取引で得た利益30億円は、インサイダーとしては過去最高額である。

ニッポン放送株の買い占めで
「時代の寵児」になったホリエモン

 「人の心はお金で買える」。

 こう言い放った男がいた。愛称はホリエモン。ライブドアの元社長、堀江貴文である。1972年10月、福岡県八女市生まれ。久留米大学附設中学・高校を卒業し、東京大学に進学。東大時代にビジネス(のちのライブドア)を立ち上げた学生起業家だ。

 2000年代前半のネットバブルの時代、ホリエモンは時代の寵児だった。東京・六本木ヒルズを拠点に、自家用ジェット機を乗り回す派手な生活を送っていた。ホリエモンがスーパースターになったのは、05年のこと。ニッポン放送株の買い占めに乗り出したことが契機になった。

 かつての日経連(日本経営者団体連盟)が、企業の内部に共産主義勢力が浸透しないようにするための防波堤として設立したラジオ局がニッポン放送。ニッポン放送はこれまた財界の肝煎りで発足したフジテレビジョンの株式の22.5%を保有する筆頭株主であった。

 ニッポン放送の企業規模はフジテレビより格段に小さいから、少ない資本で株を集めることができる。ニッポン放送を支配すれば、フジテレビの22.5%の株式が自動的に手に入る。フジテレビの経営を左右できるわけで、「親子逆転」の資本関係の隙間をホリエモンは巧妙についた。

ホリエモンの狙いはフジテレビの経営に関与すること

 ホリエモンに、ニッポン放送株を買い集める軍資金を提供したのが、リーマン・ブラザーズだった。MSCB(転換社債型新株予約権付社債)を発行して800億円を融通。MSCBは、引き受け手が確実に儲かる仕組みになっていることから、究極のマネーゲーム商品といわれていた。

 05年2月8日、ライブドアは東証の時間外取引で、ニッポン放送株式の30%弱を電撃的に取得した。前日まで買い集めた分と合わせて、ライブドアグループはニッポン放送株式の35.0%を掌中に収めたことになる。

 持ち株比率が3分の1を超えたことから、ライブドアはニッポン放送の株主総会で拒否権を発動できるようになった。ニッポン放送の首ねっこを押さえたわけで、フジテレビに対して強い発言権をもちうる。堀江の狙いは、ズバリ、フジテレビの経営に関与することだった。

 この時から、ライブドアとフジテレビによるニッポン放送株式の争奪戦が始まった。同年3月16日、ライブドアはニッポン放送株の過半数を押さえた。これで勝負があったかにみえた。

(つづく)

【森村和男】

傲慢経営者列伝(16)

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